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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第3章 城内騒動編
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7話 おでかけ1


「助けてぇええええええええ!!!!」

 木々が生い茂る山の中から一つの大きな悲鳴がこだまする。

 その声を放ったのは、銀色の長い髪が風になびいている少女だった。

 その少女は、何かを恐れているのか目には恐怖の色が浮かんでおり、必死な様子で木々のはびこる山の中を駆けていた。

 銀髪の少女は木々を避けながら迫り来る恐怖から逃げる。

 後方にいる人物に追いつかれまいと必死に走る。しかし、木々を抜けた先は崖になっており、少女の行く手を阻む障害になっていた。

「やっと追い詰めだぞ」

 後ろの方から聞き覚えのある声が聞こえてきて、エリスは恐る恐る振り返る。

 声の主は、ゆっくりとまるで恐怖心を煽るかのようにエリスに近づいてくる。


「……先生、お願いだから見逃して!!」

 目には少量の涙を浮かべ、マルクトの方に手をあわせてエリスはお願いした。

 だが、エリスに懇願されたマルクトは爽やかな笑顔を浮かべると、一言彼女に向かってこう言った。


「無・理♪」


 ◆ ◆ ◆


 ~1日前~


「お兄ちゃん、遊びに行きたい!!」

 その発言が全ての始まりだった。

 その発言をしたのは、この家でマルクトのお世話になっている少女、ベルである。

 その発言を聞いていたのは、この家の主であり少女の師匠でもあるマルクトと、食事を行ったテーブルを拭いているメグミと、椅子でくつろぐマルクトに紅茶を持ってきていたクレフィの三人だけであった。

 広い部屋に響くその声は、三人をベルに注目させるには充分な効果を持っていた。

 マルクトはクレフィの淹れてくれた紅茶を一口飲んでから、今週の予定を頭の中で確認する。


 マルクトによる校舎半壊から一週間が過ぎ、遊び盛りのベルにとっては友達となかなか会えない退屈な日々だったことだろう。当然、その間も修行をしたり、勉強をしたりと色々しているのだが、たまの息抜きも子どもには必要なのかもしれない。

 そう考えるとベルが遊びに行きたいと言うのも頷けるものがあった。


 研究所からの仕事もようやく一段落ついたマルクトも、最近はやることがなくて退屈だったのは同じで、そんな時にもたらされたベルからの遊びの誘いは彼にとってもいい退屈しのぎになりそうだった。というよりも、マルクト自身久しぶりの休暇なのでどこかに遊びに行きたくなったのである。

 しかし、マルクトはそんなことをおくびにも出さない。

 彼は普段から、自分の生徒の前では威厳のある態度を心掛けている。

 出来ているかどうかは甚だ疑問に思うのだが、それでもマルクト的には出来ていると思っていた。

「……それなら、みんなでピクニックにでも行くか?」

 せっかくなら皆で遊びに行こうと考えたマルクトは、その場にいた三人に向かってそう言った。

 メグミとクレフィは、珍しくベルの言葉に忙しいと言わないマルクトに驚きながらも、マルクトの誘いに頷き、同行の意を示す。

 ちなみにベルは遊びに行けるのが嬉しいのかその場でとびはねていた。


 ◆ ◆ ◆


 その日の夜、エリスとエリナの双子姉妹とも一緒に行きたいとベルにお願いされたため、マルクトはいつも通り『ジェミニ』にやってきた。 

 『ジェミニ』に入ったマルクトは、エリスとエリナに促されてカウンターの席に着くと、隣に座っている人物を見て驚いた表情を見せた。

 相手の人物もマルクトを見ると挨拶をしてきた。

「先生こんばんは」

「え……ああ、こんばんは。ていうかなんでユウキがこんな時間にいるんだ?」

 現在は夜の八時を過ぎており、子どもが一人で酒場に来ていい時間帯ではない。

 マルクトが驚くのも無理はなかった。

「いえ、その……この時間帯なら先生に会えると聞いて来たんですよ」

「俺に?」

「はい。先生……ダレン先生が敵になっていたって聞いたんですけど……それって本当なんですか?」

 その質問に対して、マルクトは即答できなかった。

 前回の戦いで魔物となって暴れたダレンはユウキの中等部時代の担任で、今回の事件では、モーガンという仮の姿でユウキと接触していた。

 本当のことを伝えるべきか、それとも嘘をつくべきか迷ったが、神妙な顔で聞くユウキの姿を見てマルクトは嘘をつかず本当のことを伝えることにした。


 ユウキには、ダレンが敵の組織の一員だったことと学園を襲った動機のみを伝えた。

 全てを聞き終えたユウキは悲しそうな顔を見せた。

「……そうですか。……先生、ありがとうございました。その話を聞けて本当に良かったです。では、僕はこれで……」

「ちょっと待て」

「……はい?」

 店を後にしようとするユウキを呼び止めると、彼は振り返り、首を傾げる。

「明日ピクニックにでも行くかって話になっているんだが、ユウキも一緒に行かないか? もちろんエリスとエリナも一緒にさ。集合場所はピクル山の登山口でどうだ?」

 視線の隅で膨れていたエリスを見て、最初から二人とも誘うつもりだったという意図を込めて、マルクトは三人を誘った。

 自分も誘われたことに満足したのか、エリスは笑顔になる。

「エリナにも言って来ますね」

 彼女はそう言ってから店の奥に入っていった。

「……僕が行ってもいいんですか?」

「当然だろ、俺が誘ったんだぞ」

 彼の言葉に微笑みを意識してそう返す。

「……なら行きます」

 ユウキはそう言って店を後にした。


 ◆ ◆ ◆


 次の日の昼頃、ピクル山の登山口にマルクトたちは集まっていた。

 この場所にいるのは、マルクト、ベル、メグミ、クレフィの四人と昨日誘ったユウキ、エリス、エリナの三人が先程合流したため七人になった。


「全員揃ったし、出発するか」


 マルクトの言葉に全員が同意を示したため、彼らは登山道に入った。

 この山はそこまで高くなく、登山といってもそんなに登りはしない。二キロ程登れば公園があり、今回の目的地はそこである。

 七人はそこまで苦戦せずに登りきり、目的地の公園に着いた。

 

「さて、せっかくだから鬼ごっこでもするか?」

 来てそうそうマルクトが珍しく遊びに誘った。

 その言葉に疑問の声は上がるが誰も否定の言葉を返しはしなかった。


 これにより、恐怖の『鬼ごっこ』が始まることとなった。


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