2話 魔王少女3
マルクトは自分のが宿泊することにした宿に二人を連れてきていた。
一人は金髪碧眼で髪が首のあたりまで伸びている五才くらいの先程魔力を暴走させて現在眠っている少女。
もう一人は、黒髪のツインテールでどことは言わないが結構大きい見た目十五才の少女である。
眠らせた少女をベッドに寝かせ、黒髪の少女には傍らに座らせ、マルクトは部屋にあった机に買っておいたリンゴを詰めた紙袋を乗っけた。
「では、始めようか」
そう言うと、マルクトは彼女達の方を向いた。
そんな言葉をかける目の前のマルクトと先程名乗っていた男を見て、メグミは理解してしまった。
さっき私達は街でごろつきに捕まって連れていかれそうになっていたところをこの人に助けてもらったんだ。
(助けてもらったんだから体を要求されても仕方ないよね。でもベルちゃんは私が守らないと、私だけで満足してもらわないと……)
「あの……はじめてなのでやさしくしていただけると助かります」
もじもじしながらそう言うと、メグミは上着を脱いで下着姿になった。
メグミは同年代と比べると発育がよく、肉つきがしっかりしていていい体をしていた。
「話が早くて助かるよ」
そう言ったマルクトはメグミのほうに手を伸ばしてくる。
メグミは目をつむってそれを待つ。
次の瞬間、体が暖かく包まれたような感じがした。
しかし、いつまで経っても彼の手が自分に触れることはなかった。
「はい治療終了。次はこっちの子だね」
「……え?」
彼は同じように、眠ったままでいるベルの方に手をかざしていた。
次の瞬間、寝ているベルの身体がオレンジ色の光に包まれていた。
自分の体を確認してみると、ごろつきにつけられた傷が跡形もなく癒えていた。
てっきり、手をだしてくるとばかり思っていたので、勘違いだとわかったとたん、メグミの顔がみるみるうちに熟れたトマトのように真っ赤になっていく。
「……あれ? ここどこ?」
治療を終えたマルクトが椅子に座ってくつろいでいると、眠っていた少女が目を覚まして体を起こした。
先程殴られた場所ではなく、見知らぬ場所にいるのが不安なのか、しきりに周りを確認していた。
その姿に胸をなでおろし、メグミは少女に抱きついて、彼女の無事が嬉しくて泣いた。
◆ ◆ ◆
ベルは目の前の状況がよくわからなかった。
見知らぬ天井、見知らぬ男、メグミは半裸で泣きながら抱きついてくるし、まさか、こいつがあいつらの主で私達はこいつに引き渡されたのか?
ベルは泣いているメグミをひきはがして、メグミの前に手を広げ、男から守るように立つ。
「メグミに手を出さないで」
目の前の椅子に腰掛ける男に向かって言い放つ。
男が何かを言おうと口を開いた。
ベルはその言葉に警戒する。
「……二人とも、まず服着たら?」
男の言葉に、ベルは自分の状態を確認する。
ベルの格好はマルクトが治療の為に脱がせたことで、未だに下着姿だった。
二人は羞恥で顔が真っ赤になり、慌てて服を着た。
◆ ◆ ◆
「では改めまして、俺はマルクト・リーパーって言います。訳あってこの町に来た旅人です」
自己紹介をしているマルクトの顔には小さいもみじがついていた。
「私はベルフェゴールって言います。さっきは助けてくれたうえ、治療までしてもらったのにごめんなさい。……あの大丈夫?」
ベルフェゴールと名乗った金髪碧眼の少女はマルクトを心配そうな顔になりながら上目遣いで見てくる。
「大丈夫大丈夫。勝手に服脱がせた俺の方が悪いよね。ごめんね」
「私はメグミって言います。先程は助けていただき、誠にありがとうございました」
メグミと名乗った黒髪の少女は、立ち上がって深々と頭を下げてくる。その姿を見て罪悪感が募っていくマルクト。
「……いや、俺はお礼をされる資格はないんだ」
その言葉に首を傾げるベルとメグミに対して、マルクトは頭を下げた。
「すまなかった。俺は君が魔物だと気付いて、助けに入るのを躊躇してしまった。この躊躇のせいで、君たちが傷つくと知りながらだ。本当にすまなかった」
マルクトの謝罪を受けて、ベルフェゴールは魔物だからと人間たちから差別的な目を向けられていたことを思い出した。
「……いいよ。事実なんだし。助ける必要なんか普通ないもんね……」
落ち込んだ表情でこちらを見てくるベルフェゴールにマルクトは心が傷んだ。
「だが、友達を助けようと抵抗していた姿を見て、俺は君たちを助けるべきだと思ったんだ。二人が今無事なのは、君の行動が俺の心を動かしたからなんだ」
マルクトの言葉に驚いた顔を見せたベルは、嬉しそうに笑った。その姿は年相応の可愛さがあった。
「お兄さんありがとう。お兄さんももう友達なんだよ。困った時はベルが助けてあげる」
「ふふっ、ありがとうベルフェゴール」
「ベルでいいよ」
「分かったよベル。これからは助けて欲しい時は俺を呼んでくれ。俺も友達を助けに行くとしよう」
そう言ったマルクトが窓を見てみると日が沈み始めようとしていた。
「さすがにこれ以上は親御さんに心配をかけてしまうな……」
「そうですね。お母さんも心配するかもしれないし、ここでおいとまさせてもらいます」
マルクトの言葉に同意しながら立ち上がったメグミ。ベルもそれにならって立ち上がった。
「送ってくよ。さすがに女の子二人で帰らせるのは危ないし、さっきみたいなことがないとも限らないしね」
「だ……大丈夫です! すぐ近くですので!」
何故か頬を真っ赤にしていたメグミは断り、ベルもまた、マルクトの申し出を断った。
「そっか……なら、さっきそこで買ったリンゴをやろう。友達になった記念にな」
二人はありがとうと言いながらそれを受け取ると、それぞれ自分の家に帰っていった。