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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第2章 入学編
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6話 魔導フェスタ6


 目の前に映る影は、かつてダレンと呼ばれた人間だった者。

 だが、マルクトにはとてもそうには思えなかった。

 背中に蠢く触手は実行部隊の男共を刺した後、元からそこにあったかのように背中におさまる。その内の数本には返り血がこびりついており、辺りに赤い血をばら蒔いている。

 顔はダレンが白目の状態を保ち、額には青筋が浮かびあがっており、体は甲殻のようなもので覆われていた。

 

 今まであえて、生徒達の手前、誰も殺さないように心がけていたにもかかわらず、化け物になったダレンが敵味方関係なく触手で攻撃してきたことにより、その気遣いは全て台無しになってしまった。


 先程の攻撃でカトウとマルクトによる回避の指示を受け、彼女達にはなんとか攻撃は当たらなかった。しかし、目の前でいきなり五人の人間が理不尽に命を奪われた。

 そんな光景を見たエリスは腹の奥から、溢れてくる何かを必死にこらえながら、嗚咽を繰り返していた。

 それでも、目の前にいる化け物が先程戦っていた男よりも何倍も危険な存在であることは理解していた。

(多分……このままここにいたら殺される……)

 そんな考えが脳裏をよぎり、彼女の体は恐怖で震えていた。

 だが、まったく動けない訳ではなかった。

 妹をこの化け物から守らなくてはならない。

 そんな意識がエリスを突き動かし、多少の判断力は残っていた。

 横にいるエリナの様子をさりげなく確認してみると、エリナの様子はエリスとは比べものにならない程、まずい状態だった。


 自分の中等部の頃の担任が目の前でおぞましい化け物になってしまった。

 エリナの額からは止めどなく汗が吹き出している。

 他の皆よりダレンのことを知っていただけに、受けた衝撃も他より大きかったのだ。

 エリナは正常な判断力が失われてしまい、目の前の現実を受け入れられずにいた。

 その表情には恐怖が刻み込まれており、彼女は意図せぬ絶叫をあげ、彼女の意識は遠のいていく。

 深い深い闇の底に……


 ◆ ◆ ◆

 

 エリスとエリナよりも多少人の死には慣れがあったメルランでもこの状況には、恐怖を覚えていた。

 目の前の化け物と相対することになれば、数分もせずにそこに転がる死体が一つ増えることになる。そんなことはわかっているが、体が素直に言うことを聞いてくれない。

 そんな時、傍にいたエリナが急に大声で叫び始めて、その場で倒れた。

「ちょっエリナ!? 大丈夫? ……エリナ? ……ちょっと起きてよ!!」


 姉であるエリスの呼び掛けにも応じず、エリナは反応しない。父の死に嘆くアリサ以外の全員がその大声に反応し、エリナの方を見る。

 そう、アリサ以外、つまりは元々ダレンであった化け物も反応したということだった。


 化け物の動きは予想以上に早く、目の前に立っていたマルクトを触手で切り裂いた。

 うめき声をあげ、膝をついたマルクトを無視して、化け物はエリナの元に向かう。

 化け物は一瞬で先程大声をあげて倒れたエリナと、エリナに寄り添うエリスの目の前に立っていた。

 エリスは助けの言葉を紡ごうとするが、目の前に迫る死の恐怖により言葉をうまく発せない。

 目の前の化け物は血糊のついた触手で気絶して動けないエリナを刺し殺そうとした。


 狙われたエリナを守るように、エリスがエリナを自分の体で覆う。

 それはエリスの咄嗟の行動であった。

(普段から妹の癖に生意気だし、容赦ないし、人と接する時に猫被るし、私の使えない光属性の魔法が使えて羨ましいけど。でも! たった一人の血を分けた姉妹なの! 私にとってたった一人の妹なんだから、こんなところで殺させない!! だから、お願い。私に力を貸して、先生!!)

 化け物による触手の攻撃が動けないエリナを貫くために伸びてくる。

 しかし、化け物の触手がエリナを貫くことは出来なかった。


 まるで、エリスの意思に呼応するかのように厚い氷壁ができ、化け物の触手からエリナとエリスを守った。


 エリスによる限界を越えた魔法の行使、それにより、普段の数倍の強度を誇り、触れた触手を次々に凍らせていく。

 だが、化け物の放つ多くの触手による攻撃を止めるには至らなかった。

 凍らされて使えなくなった触手を次々と切り捨て、切ったところからすぐに再生させ再び氷壁を貫こうと伸ばす。

 化け物による攻撃は徐々に激しさを増し、遂にエリスの氷壁を砕いたのだった。

 しかし、二人に攻撃が届こうとした瞬間、化け物の体に強い衝撃が襲いかかった。

 化け物はその威力に逆らうことすら出来ず、そのまま学部棟の校舎に激突した。

 化け物の体をふき飛ばしたその一撃を放ったのは、怒りに燃えるマルクトであった。


 ◆ ◆ ◆


 警戒していたにもかかわらず、エリナを心配した一瞬の隙を突かれ、触手による一撃をもろにもらったマルクトは、一瞬で突破されるという失態を犯してしまった。

 おそらく傷を負ったマルクトではエリスとエリナの二人を守ることは不可能だっただろう。

 しかし、エリスが氷壁で時間を稼いでくれたお陰で、ギリギリだったがなんとか間に合った。


(……先生、やっぱり助けに来てくれたんだね)


 マルクトが化け物を殴り飛ばしたところを朦朧とした意識の中で見ていたエリスは安堵に包まれて、意識を失った。

 魔法の過剰使用による反動で気絶したエリスをマルクトは支えた。

「よく頑張ったな」

 腕の中に眠るエリスを褒め、マルクトはカトウ達に視線を向けた。


「カトウ! お前は四人を全力で守れ!! そこのお前はカトウの援護。メルラン先生はエリスとエリナの二人を運んでください!!」

 その指示を聞いて、カトウはアリサを再び鋼糸で縛り上げるとアリサを担いだ。

 そして、マルクトに向かって声をかける。

「お前はどうするんだ?」

 メルランにエリスとエリナを預けたマルクトは学部棟に叩きつけた化け物の方に鋭い視線を向けた。

「俺はこいつの相手をする。こいつを野放しにするのはさすがに危険だと判断した。少々手荒になるかもしれんが、こいつはここで俺が殺す」

 その言葉を聞いた瞬間、カトウは何故か笑みを見せていた。

「気を付けろよ。さっきとは違って一対一だ。下手したらお前が殺されかねないぞ」

「分かってる。そっちこそ二人に何かあったら、俺がお前を殺しに行くってことを忘れんなよ?」

「ふっ、肝に命じておくよ。ついでに治療も担当しといてやから安心して戦ってこい!」

 そう答え、カトウ達は戦闘を離脱した。


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