2話 魔王少女2
少女の身体から溢れでる魔力はとてつもない量で、その膨大な魔力に俺は驚いた。
少女から出ている異様な雰囲気のせいで、周りの村人たちは恐慌状態に陥り、逃げ出す者もいた。
そんな中で少女の様子を見ていた俺はあることに気づいた。
「……まさか、暴走しているのか?」
少女の様子は明らかに自分の魔力を制御できていない様子だった。もしあれが暴走しているのだとしたら、この少女をどうにかしないと、ここら一帯が吹き飛ぶ可能性が高かった。
そんな思考にかられ、少女に攻撃しようとしたとき、少女の先程の発言が気になった。
少女はただ友達を守ろうとしていただけなんじゃないだろうか?
それを俺は少女が魔物だから殴られて当然。むしろ、あの腐った連中のために友達を守ろうとしている少女を魔物だから攻撃すべきだと考えてしまっていたのではないのか?
「腐ってんなぁ……俺って奴は……」
そう言ったマルクトの目は真剣なものになっており、どうやって少女を守るか考えていた。
あの暴走の原因は大規模術式に少女の技術が追い付いていないから起こっているのは瞬時に見抜いた。
問題は少女の魔力の量、普通の人間の魔力とは桁外れ、一番手っ取り早くあの少女を助ける方法でやるしかないみたいだ。
「はぁ……危険だから本当はしたくないんだがな……」
そう呟きながら、俺は少女の前に立ちはだかった。
俺は目の前の少女を救うために自分の魔力を放出した。放出した魔力は光った糸のように一本一本が細い。
その魔力の糸が、少女の周りを漂うように少女を囲む。それは繭のような形になっていく。
魔力の繭を作りだした俺は、その繭で少女を包み込んだ。
これは発動している魔力を吸いとり、少女の暴走状態を無理矢理抑えこんで休眠状態にする光属性の魔法だ。
周りは唖然としている。
そりゃそうだ。
こんなの魔法に詳しい奴でもそうそうできるもんじゃねぇし。
俺は少女を繭から解き放った。
少女は何事もなかったかのように眠りについている。
静かに寝息をたてる少女を見て、こんなに可愛らしい少女を蹴る連中を見逃そうとか、守ってやろうとか考えていたちょっと前の俺を殴りたいと思った。
◆ ◆ ◆
がらの悪い連中はふと我にかえり、その中の一人が俺のほうに近寄ってきた。
そいつはモヒカンが印象的な三十代くらいのたくましい肉体をした男だった。
「おう、あんちゃん助かったわ。俺はこの辺仕切ってるもんで、ハイルケンいうもんや。とりあえずそんガキこっちに渡してくれや」
「断るよ」
「あぁ?」
いきなり喧嘩腰になるごろつきの顔を見て、俺は黒髪の少女に目を向けた。
黒髪の少女は泣きながら、俺の手の中に眠る少女を助けて欲しいと懇願してきた。
「俺にはこの子たちを守る理由ができた。助けを求める子どもを見棄てるなんて、俺には二度と出来ねぇよ」
そう俺が言った瞬間、地面から拳の形の土が盛りあがり、ハイルケンとその仲間の顎をうちあげた。
ハイルケンたちは一斉に天高く舞い上がり、地面に頭から激突して悶えていた。
「俺の名前はマルクト・リーパー、世界最強の魔法使いの一人だ。文句があるなら俺に直接言いにきな。いつでも相手になってやる。ただしこの少女たちに次また手を出したら、その時は覚悟しろよ?」
悶える彼らを見下ろしながらそう告げる。すると、立ち上がったハイルケンたちは、顔を真っ赤にしながら「おぼえとけー」とテンプレセリフを吐きながら逃げていった。
なんかすっきりしたな。
とりあえず、魔族の少女と黒髪の少女の治療をするという名目のもと、面倒事に巻き込まれたくないので、彼女達を連れて今日泊まる予定の宿に向かった。