6話 魔導フェスタ 1
街の大通りでは、魔導フェスタが開かれており、国中の人々が楽しんでいた。
そんな中、路地裏の陰に潜む者たちがいた。
彼らは、魔導フェスタや魔導学園エスカトーレの五年生による魔法の研究成果の発表に警備の人間が多く割かれることを計算に入れて、今回の作戦を実行しようとしていた。
しかし、一つ心残りがあるとすれば、内部に潜ませた協力者からの連絡が完全に途絶えたことだった。
確かに連絡を多く取り合えば、今回の作戦が敵にばれて失敗する危険があったため、最初は気にしていなかったのだが、かれこれ十日間連絡が来ないのはさすがにおかしいとも考えていた。
だが、作戦を途中で頓挫する訳にはいかなかった。
おそらく、協力者は敵に警戒されてしまい、監視されているため、連絡が取れずにいるのだろう。
作戦を任された実行部隊フェンリルの隊長は、そう思うことにした。
協力者が捕まったという最悪の考えも浮かんだが、それを迂闊に口に出せば、隊員の士気の低下は免れないだろう。
どちらにしろ、協力者には詳しい計画の内容も、こちらの組織の情報も何も伝えていないのだから、恐らく何の問題もないだろう。
今頃、魔導フェスタを例の危険人物と共に、楽しんでいることを願おう。
「これより作戦を実行する。我々実行部隊フェンリルによる少数精鋭でこの国の機密情報を盗む。万が一、警備兵に見つかった場合は殺しても構わん」
実行部隊フェンリルで隊長を勤める男のその言葉によって、実行部隊の面々は気を引き締める。
そして、隊長が前に向き直り、走りだす。
その後をついていく実行部隊、彼らは路地裏を駆け抜けて、魔導学園エスカトーレに侵入した。
実行部隊が魔導学園エスカトーレに侵入し、機密情報の隠された目的地に向かっていると、行く手を阻むように一人の人物が立っていた。
その人物はローブを羽織っており、その顔はフードによって隠されていて、男か女かもわからない。
恐らく向こうには、自分達の存在はばれていないだろう。
木や茂みを使って、人目につかないように移動していたし、今もそのフードの人物はいっさい動く気配がない。
迂回するか、撃退するか悩んでいると、実行部隊にフードの人物が声をかけてきた。
「そこで隠れていないで出てきたらどうだい? さっさとしないと警備兵に連絡するよ?」
その言葉でフードの人物が男とわかったのと同時に迂回案は完全になくなる。
ばれているなら強行突破しかない。
実行部隊は確実に倒すため、姿を現し、男と対峙した。
その行動をとった実行部隊に満足したかのように、行く手を阻む男は実行部隊に話しかける。
「なかなか良い計画だったと思うよ。なにせこの時間は五年生の研究結果を見学するためにこの学園の警備は普段より薄くなる。あらかじめ、ここの生徒を脅して仲間にすれば、ここの情報を逐一得ることができるもんな。ここにある国家機密の資料を盗みだすのがお前たちの計画だったって訳だ。……ただ一つ、非常に残念なことに君たちは致命的な失敗を犯した……」
その言葉を告げた男は、怒りによる殺気で実行部隊を威圧する。
実行部隊は目の前の男が醸し出す尋常ならざる殺気に、危機感を覚え、武器を構えた。
「お前たちのくだらない計画のせいで俺の大事な生徒が傷ついた。そんなことをされて俺がお前たちを許すとでも思っているのか? 全力でかかってこいよ! お前たちの全力を俺が返り討ちにしてやる。一切の容赦なく、お前たちは俺が潰す!!」
そう言ったマルクトは男たちとの距離を一瞬で詰めた。
魔法を一切使わない武道による体術のため、実行部隊の者達はマルクトの接近に気付けなかった。
マルクトによる攻撃、まず右手に込めた魔力で一番前に出てきていた男の顔を殴った。
男はよろめき、マルクトは後退した。
そして、マルクトが一歩大きく後ろに下がり、指を鳴らすと、男の顔の辺りで軽い爆発が起きた。
男の顔は焦げたように黒くなり、膝から崩れ落ちるように倒れ、立ち上がる気配はない。
息はかろうじてあるようだったが意識は完全になくなっていた。
残りの六人は、仲間がフードの男に殴られた後、男がバックステップで離れるのを見た瞬間、殴られた仲間の男から離れたことで、爆発からはなんとか逃れられた。
だが、仲間の中で一番防御能力の高い者がフードの男による一撃で戦闘不能になったのを見て、目の前に立つ男がどれ程危険なのかを感じ取っていた。
実行部隊の彼らはやらなきゃやられると悟った。
次に隊長と剣術に特化した男の二人が手に持った剣で攻撃に入る。
そして、隊長は他の四人に命令する。
「こいつは俺たちが足止めする。その間に仕事を終えてこい。仕事を終えて、お前たちが戻って来たら戦線離脱する!!」
攻撃に参加しなかった四人は、指示にうなずき、各々目的の施設に向かって行った。
◆ ◆ ◆
目の前で剣を避けている男は四人をあっさりと素通りさせた。
まさか素通りさせるとは思っておらず、邪魔しようとした瞬間を狙おうとしていた隊長の男は不思議に思い、尋ねた。
「てっきり邪魔をされるもんだと思ってたが、素通りさせてくれるんだな。それとも、さすがに六人相手は怖じ気づいたか?」
自分の言葉に男は大きく後ろに飛んでから、急に腹を抱えて笑い始めた。
いきなりフードの男が笑いだすのを見た隊長の男は、自分を馬鹿にするような行動に苛ついて怒鳴った。
「何がおかしい!」
「いや、だって変なこと言うんだもん。……怖じ気づいた? 俺が? ……お腹いたい」
未だに笑い続ける男、攻撃するチャンスだとわかってはいても、なぜ笑うのか理由が知りたかった。
「だからなんだって言うんだ!!」
「ギャアアアアアアア!!」
その時、仲間の叫び声が聞こえた。
それは隊長の男に最悪の想像をもたらした。
隊長の男の顔はみるみるうちに青くなり、ふと疑問に思った。
なぜこいつは一人でいるのか?
「俺がいつ一人で来てるなんて言った?」
不敵な笑みを浮かべながら、マルクトはそう言った。




