5話 少年6
教え子に手を出していた男たちを全員気絶させたマルクトは、後始末を任せるために、通信魔法を使用してとある人物に連絡していた。
『悪いんだけどさ~、サテラスって名前の貴族の長男が俺に喧嘩吹っ掛けて来たから、そいつの親父さんにこいつらの更正をするから、文句言ってきたらお前の家もついでに潰すって言っといてくんない?』
『……久しぶりに連絡してきたと思ったら、俺を使いっぱしりにするとはいい度胸じゃないか? ……まぁ、それはいつものことだし今更言っても無駄なのはわかってるが……それにしてもお前に喧嘩を売るなんて馬鹿な連中だな。何て言ったっけ? サテラスのところの長男? ってことはあのマヌケか? ただ、あそこは息子は馬鹿だが、父親は相当な権力持ってるからな…………正直巻き込まれたくないんだが……はぁ~、全くマルクトはいつも面倒事を持ってくる』
話し相手の男はマルクトに聴こえるように、わざと大きな声で溜め息を吐いた。
『別にいいじゃないか。俺とお前の仲なんだから。だいたい、そういうことはこんなどら息子を放置している馬鹿な親に言ってくれ。俺はお前の配下の貴族の腐っている部分を掃除してやったんだ。むしろ、公表せずに後始末までやってあげてるんだから感謝しろ? 感謝して今さっき言ったことをしといてくれよ。俺はそれぐらいしてくれたってバチは当たらないと思うよ?』
『わかった、わかった。今回に関してはお前の言い分ももっともだし、そいつらの後始末はマルクトに任せるよ。俺もお前の代わりにそいつらの親に事情を説明して納得させてやるよ』
『さすがユリウスだな!! 頼りにしてるよ!!』
そう言ってマルクトは通信魔法を切った。
そして、マルクトは次の相手に連絡を始める。
『おい、クリス聞こえるか?』
『はい、旦那様。何かありましたか?』
通信魔法に応答してくれたクリストファーに向かってマルクトはあぁと告げる。
『今から俺の言う地点に倒れた人間十人を運べるくらいの馬車を持ってきてくれ。場所は、あ~、やっぱり自分で探ってくれ。俺は疲れた』
『かしこまりました。十分程お待ちください』
そう言ってマルクトはクリストファーとの通信を切る。
それから十分程してから馬車が到着した。
馬車の御者台から颯爽とクリストファーが降りてきて、白衣を羽織っていないマルクトに向かって恭しく一礼した。
「お待たせしました旦那様。指示通り、十人程の倒れた人間を運べる馬車をお持ちしました」
急な指示だったにもかかわらず、たったの十分で家からここまで注文通りの物を届けてくれるとか、なんというか……さすがの一言だった。
まさか必要になると思って用意していたのだろうか?
ちょっとどうやって用意したのかすごく気になるな。
「……あぁ、助かるよ。とりあえずそこに寝そべっている連中を馬車の中に放り込んで家まで運んでおいてくれるか? その後は……とりあえず俺が帰るまで、地下室にでも放り込んどいてくれ」
「かしこまりました。旦那様はいかがなさいますか? そこでお座りになっておられる方も一緒に帰られますか?」
クリストファーの言葉にマルクトは顔を真っ青にした。
「いやいい! 俺は寄るところがあるから、乗っていかないし、この子も俺が送っていくから心配すんな」
「どうなされたのですか? 顔が真っ青ですよ? まさか体調が優れないのですか?」
マルクトの様子がおかしくなったため、クリストファーは主人の心配をし始めるが、マルクトは首を勢いよくふった。
「大丈夫だ、問題ない。少し、……! 昨日の酒がまだ残っているようだ。酔い醒ましに歩いて行くことにするよ!!」
「……左様でございますか。ならば、私はこれで失礼いたします」
「ああ、気をつけて帰ってくれ。あと今日も晩飯食って帰るから」
「かしこまりました」
クリスは俺に向かって再び一礼した後、馬車に乗って帰っていった。
ちなみに男たちはクリスについてきたリーナに全員荷台に投げられていた。
二人の乗った馬車を見送った後、俺は最後の一人に連絡をいれた。
◆ ◆ ◆
エリスは鏡の中に映る自分とにらめっこをしていた。
来週マルクト達と回る魔導フェスタ用の服を自室で試着していたのだった。
(……どんな服なら先生喜んでくれるかな?)
とりあえず自信のある服をひっきりなしに着ては鏡に映る自分とにらめっこを続けていた。
そんな時だった。
『エリス聞こえるか?』
いきなり脳に直接聞こえてきた。
エリスは何事かと周りを見回すが誰もいない。
先生のことを考えすぎるあまり、幻聴を聞いてしまったのだろうかと考えていると、再び確認の声が聞こえてきた。
そこで、これが通信魔法による通信なのだと言うことに気付いた。
『は……はい、先生聞こえてますよ。何かご用ですか?』
『悪いな、エリス。今日って店空いてる?』
『はい? 空いてますよ。今日は誰も来ないから、店の手伝いもやることなくて暇だったんで、その……魔法の練習をしてたんですよ』
ちょっと照れ臭くなったエリスは魔法の練習をしていたと咄嗟に嘘をついてしまった。
通信ごしのマルクトが感心しているのが声の様子で伝わってくる。
『そりゃ偉いな。ところで悪いんだけどさ、今日って店貸し切りに出来ない?』
エリスは、マルクトに褒められたため、罪悪感に苛まれるが、次の発言に驚いて、意識を切り替えた。
突然のマルクトによる申し入れに少し待っていてほしいと言った後、一階にある店に向かった。
双子の母であり、飲食店『ジェミニ』の店長をしているエリカは調理場でいつものように料理の仕込みをしており、妹のエリナは食器を洗っていた。
エリスはそんな二人がいる厨房に顔を出した。
「お母さん! 今日、先生が店を貸し切りに出来るか? だって!」
「先生ってあの青髪の? 別に構いませんよ。あの先生にはいつもお世話になってますし」
「わかった。じゃあそう伝えるね」
『大丈夫だって』
『わかった。それじゃこれからそっちに向かうから』
『わかりました。お待ちしてますね』
エリスがそう言うと通信魔法は切れた。
◆ ◆ ◆
マルクトは通信魔法を切った後、ユウキの傷の手当てを開始した。
ユウキの身体的な傷は蹴られた際の打撲が主ではあった為、あまり時間はかからなかった。
しかし、服の汚れに関しては外で洗う訳にもいかないので、そのままにして、マルクトはユウキを引き連れて『ジェミニ』に向かうのであった。




