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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第2章 入学編
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5話 少年2


 今日も今日とて俺はカトウを連れて、エリスとエリナの母親が経営している酒場『ジェミニ』にやって来ていた。


「マルクト先生いらっしゃいませ。お席にご案内致しますね」


 店の制服を着たエリスがいつもの席に案内してくれた。

 しかし、マルクトに対して普通に接客するのに、カトウはまるで居ないもののように扱われていた。

 俺の隣では、カトウが不満そうな顔でこっちを見てくる。

 その顔でこっち見んな。

「……エリスちゃん? 一応俺もいるんだけど?」

「あら、カトウ先生もいらしてたんですね? 何かご用でしょうか?」

「え!? ひどい!! 最初からいたじゃん!!」

「そうでしたか? 最近いらしてませんでしたから気付きませんでした。そういえば、いつから来てませんでしたっけ? あ! そうだ!! カトウ先生が食い逃げして以来、一度もお見えになっておりませんでしたね。い・ち・ど・も」

 カトウの顔がみるみるうちに青くなっていく。

 いやまぁ自業自得なんだけどね。

 一応弁明するわけではないが、あの事件の次の日の朝、ぼこぼこにされた顔で、店には謝りに行っていた。

 ただ、その時にエリスとエリナは当然学校にいたので会っていなかったのであった。


 カトウは次の瞬間地に頭をすりつけ始めた。

「あの時は本当にすいませんでしたー!!」

 その姿は何度見ても男の威厳というものを欠如したようなポーズで、驚いているエリスはこちらに戸惑ったような表情で助けを求めてきた。

 そんな二人の姿を見て、良い案が浮かんだ。

「そうだな。許してやる代わりに今日の飲み代全額お前もちな」

「くっ、致し方あるまい。それで許してもらえるならば……」

「よし! 言質もとったし、エリス! エリナを呼んでこい! 今日はカトウの奢りだ。好きなだけ食べていいぞ!!」 

「え!? 二人の分も俺が出すの?」

「何言ってんだ? 当たり前だろ。なぁエリス?」

「……奢ってくれなかったら、カトウ先生今日から出禁」

 ボソッと呟いたエリスの発言に、カトウは驚いたような表情を彼女に向けた。

「え!? まじで!? ……わかった。奢ります」

 長い葛藤の後、カトウは了承の旨を伝えた。

 そう言ったカトウの目には雫がたまっていたが誰も容赦する気はなかった。

 エリカさんにも許可をもらい、エリスとエリナを含めた四人で飲んだ。当然、エリスとエリナはジュースだ。


 飲み始めて二時間程経過した頃、今日の件が気になっていた俺は、ユウキのことをエリスとエリナに聞いてみた。

「ユウキ君ですか?」

「そうなんだよ。俺、なんか最近ユウキに避けられてる気がするんだよな」

「へっ、なんかやったんじゃねぇの?」

 やけ酒を飲んでいたカトウが嫌味ったらしく言ってきた。

「カトウじゃないんだから、そんなドジ踏むわけねぇじゃん」

「確かにカトウ先生と違って、マルクト先生は生徒から人気ありますよね。カトウ先生と違って」

 エリナは何故か「と違って」の部分を強調して言った。

 エリナの隣ではエリスがうんうんと何度もうなずいていた。

 カトウに関しては、めちゃめちゃへこんでいた。


「私は中等部時代は別のクラスだったのでユウキ君のことはよく知らないんですが、確かエリナが同じクラスだったはずです」

「そうなのか? ……エリナ?」

 エリナの方を向くとエリナは顔を青くしていた。

 大丈夫かと聞いてみると、エリナは一応大丈夫と断って、大きく深呼吸をした。

「あまり人に言っていいことではないのですが、ユウキ君はクラスの一部の男子生徒に……その、いじめられていたんです」

「いじめ?」

 その驚きの単語に俺は彼女に聞き返す。

「はい。ユウキ君にはあまり人に知られたくない趣味があったらしくて、その趣味を知った一部の生徒がユウキ君に暴力をふるったり、暴言を吐いたりして、ユウキ君をいじめていました」

「初耳なんだけど!?」

 エリスは妹の衝撃的な告白に驚いていた。いや驚いていたのは、エリスだけじゃなかった。

「そんな話、俺でも知らなかったぞ? 担任の教師はなにやってたんだ?」

 カトウは不機嫌そうな顔でエリナに聞いていた。

「当時の担任の先生は、いじめていた男子生徒の一人が貴族で、担任の先生がその男子生徒を問い詰めた際に、お金で買収されました」

「は? ふざけんな。何考えてんだその教師は!! 生徒がいじめられているのを金で見過ごすなんて、許されねぇ!!」

「落ち着けカトウ」

「でもよ。マルクト、そいつは!」

「わかっている。その担任教師と貴族のボンボンがくそ野郎だってのは俺にもよくわかる。だが、ここはいったん落ち着け。自分の今いるところを考えろ。周りの迷惑になることは控えろ」

「……すまなかった」

 その言葉で我に帰り、感極まって立ち上がっていたカトウは、エリスとエリナの二人に謝ってから、椅子に座った。

「……ところでだが、そのいじめを見逃した教師と貴族のボンボンは今どこにいるんだ?」

「当時いじめを行っていた生徒は、今は学園にはいません。授業の単位が足りずに留年することになって、退学したそうです」

「つまり、そいつらはもうこの学園にはいないのか?」

「はい。あの時の担任教師の名前はダレンという紫ランクの先生でした」

「え? そいつ誰?(ダレン)

 ……え?

 何言ってるんですかエリスさん? この大事な時に。

「紫? 紫で中等部の教師やってるのか?」

 だがあえて俺は無視した。

「……そうです。実力はあったんですけどあまりいい先生ではありませんでした。マルクト先生に比べるとゴミですね」

 エリナも俺の意思を汲み取ってくれた。

 優秀な生徒で俺は嬉しいよ。

「え? 無視はひどくない?」

「……エリナがそういうなら実力は確かなんだろうな」

「ねぇ、さすがに少しはかまってくれないと、泣くよ」

「ちょっとお姉ちゃん黙ってて」

「あっはい」

 妹の言葉に姉は黙ってしまった。

「話戻すけど、いじめられていた原因のユウキ君の趣味ってなんだったの?」

 カトウが俺もさっきから気になっていたことを聞いてきた。

「それは、私にもわかりません。……ただ」

「ただ?」

「よくそのいじめている生徒が、お前女っぽいんだよ。もっと男らしく生きろよ。と言っているところを目撃したことはあります」

「なるほどね」

「まぁ確かに、男の俺から見てもかわいらしい見た目してるし、少し気弱そうだもんな」

「え!? ……先生そっち側の方だったんですか!?」

 と復活したエリスにドン引きされた。

 その言葉を聞いたカトウが周りに聞こえる声でぼそぼそと言葉を紡ぎ始めた。

「そういえばお前、昔から彼女作ってなかったよな。学年一の美少女から告られてた時も何故か断ってたし。……まさか、お前男が好きなのか!!」

 カトウが悪のりした結果、エリスの俺を見る目がどんどん冷たくなってくる。

「違う!! あの時は単に彼女を作りたい気分じゃなかっただけだ!! 俺は男を性的な目線で見たことなんかない!!」

「……マルクト。俺、結婚してるから、お前とはそういう関係にはなれないぞ」

「誰がお前なんかと寝るか!! 一人で永遠に寝てろ!!」

 そう言った途端エリナがぼそっと呟いた。

「それもなかなか……」

「「「え!?」」」


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