2話 魔王少女1
身を焦がすような日照りの下、黒いローブを羽織った男は広い荒野を一人で歩いていた。
彼が持っているのは長旅用の大荷物だけ、馬等の動物を引き連れている訳でもなく、おそらくたった一人でその荷物を担いでこの荒野を渡っていたことが見てとれた。
ローブの男は、荒野を抜けた先に一つの町を見つけた。
男のその目に光が宿り、一週間ぶりの町に気分が高揚し、その町まで走っていく。
町についた男は羽織っていたローブのフードをとり、その青い髪を日にさらした。
◆ ◆ ◆
あの最悪な朝から三ヶ月がたった。
俺は今、魔王城から一番近い町スクルドに来ている。
魔王討伐を掲げて、いざ出発! ……となるところまでは良かったんだけど、遠すぎだろ魔王城!
ここまで二ヶ月徒歩だぞ!! ふざけんな!!
馬寄越せ!
牛寄越せ!
なんかペガサス的なやつ寄越せ!
……ていうかなんで俺って動物に嫌われてんだろ。昔から動物がなついてくれた試しがないし、正直なところ、まさか嫌われているせいで、ここまで大変な思いをするとは思っていなかった。
(……腹減ったな……)
空腹の音を鳴らす腹に目を向け、俺はどこか腹ごしらえが出来そうな場所を探す。すると、少し先に果物屋を見つけた。
「お~いおっちゃん、リンゴくれ」
中にいる男に声をかけると、人の良さそうな中年男性が出てきた。
「おうよ。一個銅貨一枚だ」
王都よりも良心的な値段に少し驚いた。なにせ、王都で見るやつより鮮やかで大きなリンゴだからだ。これなら倍の値段で売ったって良さそうなもんなんだがな。
「十個くれ。ほい。銅貨十枚」
「まいど! ……ん? あんちゃん見かけない顔だな。旅人か?」
「まぁね」
「そうかい。なら北の方にでかい城があるが、そこには向かわん方がいい。あそこにゃ魔王が住んでやがる。とんでもねぇ場所だよ」
「忠告どうも。まぁ、気を付けるわ」
そう告げて俺は、おっちゃんに手を振った。
(まぁ、俺の行き先はそのとんでもねぇ場所なんだけどな……)
◆ ◆ ◆
リンゴをかじりながら通りを歩いていると、なんだか道の奥の方が騒がしかった。
なんだか気になったのでそちらの方に向かうと人だかりができていた。
その中心では、四人の柄の悪い男たちが、金髪の少女を蹴ったり殴ったりしている。
その奥には、疼くまって倒れている黒髪の女の子がいた。
「なにかあったのか?」
人垣の中の一人に声をかけると、その男は小声で耳打ちしてきた。
「メグミちゃんがあの四人に絡まれてな。それに抵抗したメグミちゃんを殴ったりし始めたんだよ。そしたらあの金髪の子が連中に詰め寄ってなぁ、おら達は止めたんだよ? それでもあの子は聞かず、結果は見ての通りって訳だ……」
「助けないのか?」
「正直関わりたくないねぇ。あの殴ってる連中、ここらで有名なごろつきだ。あの子たちには悪いが関わらない方が身のためだ」
なるほど。どうりで誰も助けないわけだ。
先ほどから黒髪の娘が泣きじゃくる声で叫んでいるなか、皆が目を背けているのはそのせいか。
「助けて! お願いだからもうやめて!」
あの子には悪いが、俺も助けるべきか迷うな。
あの金髪の少女……彼女は結構上位の魔人だな。
魔力を上手く抑え込めてはいるが、見る人が見ればわかる。
本来魔物はこの世界にはあまり存在していなかった。
しかし、三十年前にやってきた魔王と共に魔界から大量の魔物がわいてきたのだ。
特に魔人という存在は厄介で、普通の人間よりも多くの魔力を内蔵しており、魔法の威力が強い。
そんな魔人である彼女がなぜやられっぱなしなのだろうか?
彼女が本気を出せば、四人の方が危険だろう。
(どっちにしたって早くやめさせるのが得策だな……)
そう思い、彼らを止めようとしたのだが、四人は満足したのか金髪の少女を殴るのをやめて、黒髪の娘をつれていこうとし始めた。
黒髪の娘は抵抗しようとするが、大の大人勝てるはずがなかった。そして、黒髪の娘が連れ去られそうになった時だった。
「やめて!!」
金髪の少女が傷ついた体で起き上がり、四人を睨み付けた。
「やめてよ! メグミをつれてかないで!! 私のたった一人の大切な友達を連れてかないでよぉおおお!!」
そう叫んだ少女の身体からとてつもない量の魔力が溢れだした。