28話 校内戦の予選3
「うん、やっぱり師匠はかっこいい!」
満面の笑みで笑うベルの手には、いつの間にかステッキが握られており、その無傷の状態には見た目で油断していたアボウも気を引き締め直す。
見た目の可愛さに惑わされ、本気を出さなかったとはいえ、一発で控え室に送還する威力を放ったはずだった。……にも関わらず無傷の状態。試合を中断させた相手の先生に言われた通り、本気を出した方が良いと思えた。
「クエイクハンマー!」
アボウがそう叫ぶと、彼の手に巨大な槌が出現した。
地属性中型魔法のクエイクハンマーは、術者の手に二メートル越えのハンマーを持たせる魔法だった。特殊効果で、ハンマーが地面に接した瞬間、近くにいる敵目掛けて、小型の石を多く飛ばすが、その七十キロの重さは、そう簡単に振り回せるものではなかったため、使う者も少ない。
アボウは、そのハンマーを軽々と振り上げ、無傷だったベルとの距離を詰め、ベル目掛けて振り下ろす。
避ければ追撃、避けれなければ一発退場の一撃がベルを襲う。
「ロストオブダークネス」
ベルは手を上に伸ばして広げた手から黒い渦を出し始めた。
アボウは、結界魔法の類いと踏んで、その黒い渦に構わずハンマーを振り下ろした。
次の瞬間、彼の視界には控え室の天井が映った。
「…………え?」
何が起こったのか理解できなかったアボウは慌てたように体を起こして会場を映した画面を見る。
そこには満面の笑みで先程の教師にブイサインを送っている少女の姿があった。
◆ ◆ ◆
(……制服の転移機能がなかったらあいつ死んでたな……今度から近接戦闘相手には使わせないように言っとかないとな)
実況席に座る教師が困惑しながら、彼女の勝利を会場中に伝えているのを聞きながら、マルクトはそんなことを考えていた。
ベルのために作った魔法『ロストオブダークネス』は、昔カトウから聞いたブラックホールというのを参考にして作ったものだ。
全てを強い圧力で粉々にするこの魔法は、マルクトの予想以上に強力なものだった。
会場の者だけでなく、使った本人でさえ、何故相手が消えたのかわかっていない様子だった。
(今のは彼のクエイクハンマーが一瞬で砕け散った瞬間、彼が前のめりになっていたせいで、ロストオブダークネスに触れてしまったのか。その瞬間、制服に付与されていた防御機能が一瞬で零になり、付与されていた転移機能が起動したみたいだな……もし、なかったらと思うと……ぞっとするな……)
手遅れになってからじゃ遅いし、しっかりと言っておこう。
この後、Aブロックではエリスが、Bブロックではエリナが危なげなく、初戦を勝利で飾った。