28話 校内戦の予選2
『さぁ本日は校内戦に相応しい快晴が広がる天気の下だというのに、天井のせいでおてんと様が拝めないのは辛いことこの上無しではありますが、ここ第四地下会場ではDブロックの予選が開始されようとしております。本日の実況解説は二年主任のオーロッドが引き受けさせていただきます。さて、注目の一試合目は、昨年度の校内戦において、三位という実績を残したアボウ五年生と、5年ぶりの魔法ランクが濃紫という五歳の若さで高等部に入ってきたベル一年生の対戦です! お~っと、両名が控え室から出てまいりました! その愛くるしい見た目で、上級生から下級生まで男女問わず大人気のベル一年生ではありますが、その魔法の実力はどれ程のものだというのか~! 一方、アボウ五年生の方はというと……』
「ベルちゃんに攻撃当てたらどうなるかわかってんだろうな~!!」
「手加減してやれよ五年生だろ~!!」
「このアホ~!!」
『ブーイングの嵐です! ここまでアウェイな会場は見たことがありません! ……ですが確かに、この体格差や年齢差を見るとそうなっても仕方ないとは思いますがね~』
(…………なんだこれ?)
俺は会場の応援席に座りながら、そう思っていた。
ベルはこっちの方に手を振っており、周りにいる生徒達が声援を送っている。……そこまではいい。
だが、ここまで一方的なブーイングを前校内戦三位の彼に浴びせるとは思ってもみなかった。
何故か彼のクラスメイトまでもが、彼を責めたて、こちらの応援をしてくるのだから、彼が可哀想に思えてくる。
(……普通横断幕に相手の名前書いて頑張れとか書くか?)
そのアボウとかいう生徒も、完全アウェイのこの状況に困惑しているのか、狼狽えたように周りを見始める。
遂には自分のクラスメイトがいる席の惨状を見て項垂れ始めた。
「……先生、あのアホウって人、可哀想に思えてきたよ」
隣に座っているエリスが同情したような顔を彼に向けている。
「……そう思うんだったら、名前間違えてやるなよ……」
「あ……あはは、さっきのあれでつい……」
エリスが苦笑いをしていると、試合開始の合図が鳴り響く。
「……まぁ同情するのは構わないけど、彼だって前回三位を取った男だ。同情や油断なんかしていると……」
「ロックブラスト!!」
彼の叫びと共に放たれた魔法が、地面を刺激し、多くの尖った岩を自分の周りに浮かべ、ベルに向かって放つ。
多くの尖った岩がベルの居る地点にぶつかり、土煙をあげた。
『お~っと、小型魔法でこの威力、魔法の準備を彼女が終えるまで待ってもあげないド畜生っぷり。魔法発動から発射までの速さで、未だに六歳のベル一年生が五年生を越えられる訳がありません! まさに卑怯! それが六歳に向かって放つ魔法なのか! もっと水属性の優しい魔法を使った方がいいだろう! 少しくらい考えんか、この脳筋!』
その瞬間、マルクトの何かがぶちぎれるような音がした。
「お前らいい加減にしろよ!!」
その響き渡る怒声に会場中が息を飲んだ。
「お前らこれはお遊びでやってるんじゃねぇんだぞ! さっきからやれ手加減しろだとか、やれ卑怯だとか、彼に対して失礼だろうが! これは五年生にとって自分を売り込む最後の機会なんだぞ!! 彼の未来を摘むようなことをしてんじゃねぇ! そこの実況! あんたも公平な実況が出来ないと言うのなら、そこで喋るな! 迷惑だ!」
『す……すいません!』
マルクトの怒りがこもった眼差しに睨まれ、実況解説を行っていた教師が震えた声で謝る。それを聞いたマルクトはフィールドの方に目を向けた。
「後そこのアボウ五年生」
「はい!」
「相手を子どもと思って見てたら痛い目にあうぞ。全力でやれ!!」
「で……ですが、もう終わり……」
「何言ってんだ? 俺の育てたベルがこの程度で負ける訳ないだろ」
マルクトがアボウに向かってそう言うと、土煙が風で吹き飛ばされ、無傷のベルがそこに立っていた。