27話 校内戦の開幕4
「……おいおい……それは反則だろ……」
カトウがマルクト目掛けて撃ったゴム弾は、そのリボルバーの銃口ごと真っ二つにされていた。
その切り裂いたものの正体を見てカトウがぼやく。
マルクトの手に握られていたのは一本の剣だった。
銃弾が放たれた瞬間にマルクトの手に突如として現れた剣は、銃弾を斬った後、カトウの首元に突き付けられる。
これにはマルクトの魔法に最大限の警戒を払い、例え転移魔法で逃げられたとしても対処することが出来たカトウでも、さすがに計算外だった。
カトウには、彼が聖剣グラムをこんな衆人環視の下でさらすとは思っていなかったのだから。
だがそれは、自分の考えが甘かったことに他ならない。自分だって銃を使い、実際の校内戦でも、武器の使用は認められている。遠くにある剣を転移魔法で取り出してはならないなんてルールはないのだから、今回は勝ちを焦って近付いた自分のミスだった。
カトウが両手を上げながら「降参だよ降参」と不満たらたらの表情で言ってきたため、マルクトも剣を転移魔法で元の位置に戻した。
『決着です! 魔法による撃ち合いを経て、武器を使用した交戦からとどめの一撃を刺そうとした瞬間に刺される逆転の一手! このハイレベルな接戦を制したのはマルクト教諭だぁぁ!』
実況で大々的にそう言われた瞬間、観客席から歓声が沸き起こる。
『素晴らしい戦いでしたね。お互いに一歩も譲らない戦い……ただ、カトウ先生には少し焦りが見えましたね。普段の先生ならああいう隠し手は見破っていたでしょうし……少しとどめを急ぎすぎた印象を持ちました。逆にマルクト先生は、その圧倒的な火力で相手から魔法での勝利という可能性を奪い、わざと追い込まれたように見せ込み、相手の視野を狭めさせ、隠し玉を絶妙なタイミングで仕込み、この試合を勝ち取りました。まさに見事と言わざるをえません!』
メルランは笑顔でそう評価を下していたが、内心がっかりしていた。
メルランは学生時代に何度もカトウに負かされ続け、そして公式の場以外でも、何度も負けている。故にカトウの強さは自分が一番わかっている。
そして、マルクトに関しては、そのカトウが一度も勝てたことがない存在だと聞いていたうえに、実際に見た実力から、その称号に相応しい実力だ。
そんな二人が戦えば、もっとすごい戦いになると思っていた。
しかし、蓋を開けて見れば、最初の魔法以降は、小型魔法しか使っておらず、マルクト先生十八番の闇属性魔法に関しては、転移魔法しか使っていない。
しかも、魔法使いどうしの戦いだというのに、決着が魔法ではなく、剣と銃の戦いになっている。
学生や他国の人達に今のがすごい対戦だと言ってみせたが、能力を隠しているとはいえ、こんなことになるとは露程も思っていなかった。
実況役の先生が終了の挨拶をしている隣で、メルランは顔に作り笑いを浮かべながらそんなことを考えていた。
◆ ◆ ◆
戦いが終わった後の二人は、校内戦のスタッフをやっている教員達が控室で出ていったことで、着けていた笑顔という仮面を外した。
「お前さ~ゴム弾の貫通力上げてんじゃねぇよ……こっちはルーン無しっていう縛りのせいで防御力とかもろもろおちてんだぞ?」
「そりゃお前……演出だよ演出! そっちの方が面白いだろ?」
「……お前、昔の記憶を失っても、性格とか全然変わんねぇのな……。そういえば、音が急に出なくなったけど、あれってどんな仕組みなんだ?」
「ふっふっふ……マゼンタ最強決定戦で戦うかもしれない相手に手の内はあかせねぇなぁ」
「あっそ。まぁ、次はルーン無しなんて縛りは無い訳だし、こんな簡単に引っ掛かりはしないから、別にいいけどな」
「そりゃこっちの台詞たよ。俺にだって記憶を代償に得たルーンがある。それに、お前の転移魔法が避けることや背後を取るだけじゃないと知れただけでも、今回の敗北には意味があった。次は勝つさ」
「まぁ……こっちだってお前の銃ってやつも見れたし、大会で戦う前にあれ見れただけでも……聖剣を晒した価値はあったかな」
「……言ってろ。……ったく……また奢りかよ……つらぁ……」
「さ~今日は生徒達が自由解散だし……帰ったら『Gemini』行くか!」
そう言ったマルクトは帰る用意をして外に出るための扉を開けた。
◆ ◆ ◆
「…………で? なんでカトウ先生しか来ないんですか!」
『マルクト先生勝利おめでとう!』と書かれた横断幕が掲げられた店内に響いた少女の怒声。何故かクラッカーまで持って祝おうとしている少女達を見て、聞かれたカトウはため息を吐いた。
「そりゃあ自業自得だろ。額に筋立てたマリアに強制連行されていったんだからな。……あいつ、サテライトの件で夏は忙しいとか言ってたのに、残った夏期休暇は化け物探しのために世界各国を自らが動いて協力するように脅……説得していたからな」
マルクトが責任を感じていることはこの場にいる生徒全員が知っているうえに、この人に何言ってもしょうがないことは理解していたので何も言わなかった。