27話 校内戦の開幕1
歓声の声が聞こえる。始まりの時が刻一刻と近付いてくるのがわかる。
大舞台で戦うのは何年ぶりだろうか……。
ああ……この高揚感……久しぶりだ。
「準備はできたのか?」
隣から聞こえる友の声で閉じていた瞼を開き、その視線を声が聞こえた方に向ける。
「ああ……今日はエキシビションマッチ……だからと言ってお前相手に適当な試合なんかはしないさ」
「マルクトならそう言うと思ってたよ。……だが……俺にだって負けられない理由がある。絶対に勝たせてもらうぜ」
「流石に一筋縄ではいかないだろうが……今回は負ける気はないよ」
そして準備室で待機していた俺達のもとに、一人の男性スタッフがもうすぐだと伝えてきた。
「行くか?」
友人の言葉に頷き、俺達はその扉を抜けてスタジアムに向かった。
◆ ◆ ◆
『さぁ! 皆様お待たせしました! 今年も待ちに待った校内戦が今! 開かれようとしています! 本日行われるエキシビションマッチの実況を務めさせていただきますのはエスカトーレ学園一年主任のマイヤーズ。そして解説席にお越しいただいたのは前年度校内戦覇者のメルラン教諭です。本日はよろしくお願いいたしします』
『あはは……よろしくお願いします』
メルランはいきなりハイテンションになった隣の席に座るマイヤーズに苦笑いしてから、挨拶した。
『さて……校内戦は明日から本格的に始まっていきますが、本日は前哨戦としてエキシビションマッチが行われていくのです。しかし、本日のエキシビションマッチは例年とは異なり、この広いスタジアムの観客席が満員になるという異常事態が起きております!』
『それだけこの戦いに注目が集まっているということですよね……実際私もこの戦いが昨日から楽しみ過ぎてあんまり眠れませんでした』
『ははっ、私もこのエキシビションマッチが個人的に楽しみでしてね……今日が待ち遠しくて仕方ありませんでしたよ! ……なにせ魔導学園エスカトーレが誇るトップレベルの魔法使い二名が本日の主役ですからね!』
その時、観客席から歓声が沸き上がる。それはとても例年のエキシビションマッチとは思えないような歓声ではあったものの、誰も変には思わなかった。
なにせ、本日の主役がゲートから出てきたのだから。
『青コーナー! 世界で二人しかいない黒ランク! その魔法の実力は先代マゼンタ王から魔法の権威という称号をいただく程の実力! マルクトォォォォ・リーパーーー!!』
「……うわぁ……辛ぁ……というかマイヤーズ先生はっちゃけ過ぎだろ……」
その紹介は当然マルクトの耳にも聞こえ、こういうことが苦手なマルクトはそんなことをぼやき始めた。
「いつもより人が多いな~。前回別の先生とやった時は観客席もほとんどが空いていたのにな~」
カトウがそんなことを言った時だった。
『赤コーナー! この学園が誇るトップクラスの実力者ぁぁ! マゼンタ最強決定戦では五年間最強の座を守りぬいてきた天才魔法使い! テツヤァァァァ・カトォォォォ!!』
紹介と共に歓声が沸き上がり、スタジアム中が熱気に包まれていく。
目立ちたがりのカトウが、観客席に手を振っているのを見ながら、マルクトはため息を吐いた。
「まぁいいや。今回勝った方が負けた方に『Gemini』で奢るというルールは忘れてないだろうな? カトウ」
「当たり前だ。条件の再確認だ。ルーンの使用は情報の漏洩に繋がるから絶対に使用しない。使用すれば問答無用で敗北……誤魔化した場合はユリウスの前につきだすということで文句はないな?」
「ああ……文句はない。正々堂々と戦うことを第一にな」
お互いに向かい合って、最終確認をしてから互いに一定の距離を取って再び向かい合った。
そして騒がしかった観客達は、声を押し殺して待つ。
静かになった空間に鐘の音が響きわたる。
『さぁ! 試合開始です!』