26話 夏期休暇の終わり4
「説明に戻ろう校内戦はトーナメント制の形式になっていて、約二ヶ月をかけて上位三名を決めるものになっている。そしてこの上位三名に入れば、秋に開かれるマゼンタ最強決定戦への参加権が得られる! 本来であれば学生の参加は不可だが……上位三名には特別に参加が認められるんだ!」
マルクトの話した内容に生徒達の関心が集まっていく。
それほどまでにマゼンタ最強決定戦は有名だった。王国の強者達が金一封を手に入れるため、こぞって参加するこの大会は、世界的にも注目度が高い。
要するに校内戦は学生達にとって自分をアピール出来る舞台でもあり、同時にマゼンタ最強決定戦の予選でもあるのだ。
「さて……校内戦の注意点だが、大型魔法の発動は感知した時点で失格になる。スタジアムには付与士の先生がつけてくれた特別な効果があるから基本的に安全ではあるけど、万が一も考えられるからな。大型魔法は暴発の危険が大きすぎるうえに、隙だらけになるから、使用禁止になっている」
付与士の先生とは、俺やカトウの担任だったジャック先生のことである。しっかり者の娘と違ってあんな感じではあるが、《ルーン・付与》という能力を何かに付与するというルーンを持っている。
そのお陰で食に困ってはいないが、なにぶんあの面倒くさがりな性格のせいで仕事はほとんどやっていないらしいが、一応は、凄い先生なのだ。
大型魔法使用不可の説明を終えたところで、ホームルーム終了のチャイムが鳴ってしまった。
大まかな説明しかやっていないが、これ以上続けると、他の授業を妨げてしまうため、ホームルームを終了した。
◆ ◆ ◆
夕暮れの空が茜色で染められた頃合いに、メルランのもとに三人の校内戦参加者が集っていた。
「確かに受理したわ……でもあなた達三人はマルクト先生の所に出す必要があったんじゃないの?」
メルランの所に来ていたのは、エリスとエリナの双子姉妹と、無邪気な笑顔を振り撒いているベルだった。
「……それにベルちゃんまで参加するのは驚きだわ……まぁマルクト先生の妹さんだし、案外あっさりと最年少優勝者記録を塗り替えるかもね」
「最年少記録ってやっぱりメルラン先生なんですか? 確か二年生の頃には優勝していましたよね?」
「あら……知らなかったの? あなた達の先生は一年生の頃に校内戦どころか、マゼンタ最強決定戦でも優勝しているわよ?」
自分の質問に予想外な答えを返され、エリナは驚きが顔に表れていたが、エリスとベルは「やっぱり」という感じで納得していた。
「……まぁ……確かに納得といえば納得する実力ですよね……でもマルクト先生は王様との戦いで負け越したと聞いているんですが……どうなんでしょうか?」
「さぁ? 確かにそういう話は聞いたことあるけど……学園を卒業してからは二人とも大会に参加しなくなったから今どちらが強いかわからないわ……」
「そういえばマルクト先生は、魔法の実力だけでいうなら王様に勝っているって前に聞いたな~」
「誰に?」
「……マルクト先生の……助手を名乗る人……」
エリスはあの日会ったその人の顔を思い出すが……マルクト先生に面と向かって好きだと言える強烈なイメージしかなかったため、一応そういう紹介にした。
「ということは研究所の方かしら? まぁ実際に黒ランクの時点で勝ち目なんてないに等しいからね……その方が言ったことは間違いじゃないと思うわ」
「まぁ……マルクト先生の話はこの辺で終わりにして……私達メルラン先生に用があったんです」
職員室に設置してある時計を見たエリナは、その話を終えて本題に入ろうとしていた。
「用? 何かしら?」
「メルラン先生は二年生の頃から、毎年優勝を勝ち取っていますよね? 二位以下を寄せ付けない圧倒的な実力差で……」
「まぁ……間違いではないわね」
「ですが……マゼンタ最強決定戦では毎年一回戦敗退という記録を出してましたよね? やっぱり大人の方々はお強いのでしょうか?」
エリナの自信無さげな言葉を聞いたメルランは、いきなり笑い始めた。
「……ふふふ……ご……ごめんなさいねぇ。私の身勝手であなた達の自信をなくさせるような真似して……安心してちょうだい。今のあなた達ならきっといいところまでは行けるわ」
「で……でも」
「まぁこの際だから教えてあげるわ……私が毎年一回戦負けをしている理由はね……隣で寝ているこのバカ教師のせいよ」
メルランは笑顔でマルクトの机で涎をたらしながら寝ているカトウを指差していた。