26話 夏期休暇の終わり3
実はマルクトがここへ来たのには理由があった。
先日キャンプに行った際、マルクト達は釣り勝負を行い、結果マルクトが一匹も釣れず最下位をとった。逆にカトウがその釣り勝負でマルクトとユリウスが不毛な争いをしているときに大差をつけて勝利した。
敗者は勝利の願いを聞くという条件で始まったため、マルクトはカトウの願いを聞かなければいけなくなったのだ。
通信魔法で呼び出される際、来なければ両親と食事をしてこいという絶対にやりたくない罰をこの権利でやらせると脅され、渋々やって来たのだった。
「ほら、早く何を願うか言えよ。言っとくがちゃんと来たんだからあっちに帰る系のやつは無しだからな!」
「わかってるよ。もっと楽なやつだけど……お前断りそうだもんな~」
「その時点で嫌な気しかしないんだけど……」
マルクトは不機嫌そうな顔で頬杖をつき始める。
「この前さ、学園長に一つ頼みごとをされたんだよ」
「へ~それで?」
「二学期に行われる校内戦の時に行われるエキシビションマッチに出るようお願いされたんだよね~」
「絶対やだ」
「……まだ何も言ってないだろ」
「どうせお前のことだから俺に対戦相手として出て欲しいって言うんだろ?」
「……いやまぁそうだけどさぁ」
「そもそもエキシビションマッチって他国も見に来る見せ物だったろ? 絶対やだね! そもそもなぜ俺がやらなきゃならないんだよ?」
「ふっふっふ……そんなわがまま言ってられるのも今のうちだぞ? お前に拒否権は無いんだからなぁ……どうしても嫌なら例の件でもいいんだぞ?」
「………………わかった……やってやるよ」
長い葛藤の末、マルクトは渋々了承した。
「そうこなくっちゃな! いやぁ久しぶりに本気のお前と戦えるのかと思うと今からわくわくするぜ!」
カトウはそう言うと、音を遮断する結界を解いた。
◆ ◆ ◆
長い長い夏期休暇は九月の始まりと同時に終わる。
それは一部の生徒からすれば絶望の瞬間、そして一部の生徒からすれば仲間と学ぶ楽しい時間の再開。だが、二年生からはそうはいかない。
全員が狙うのは学園の頂点。
一年間をこの時のために捧げ研鑽していく生徒達にとって待ちに待ったイベント!
九月と十月をふんだんに使用した校内戦の開幕である。
「……とまぁそういうわけで、来週から校内戦が始まる訳だが、さすがにこの国に住んでて知らない奴はいないだろうから説明は省くか……」
「あの~」
始業式を終え、二学期が始まった。
マルクトが教壇に立ちながら、次の説明に移ろうとしていると、メグミが恥ずかしそうに手を挙げているのが視界の端で見えた。
「なんだメグミ? 気分でも悪いのか?」
「いえ……そうではなくてですね。私……この国の内情やイベント事はまったくわからないので……できれば説明してほしいんですが……」
その言葉で彼女がグルニカという国の出身だったことを思い出した。
「そうだったな。全員が全員知ってるって訳ではないもんな。もしかしたらメグミのようにわからなくても、妨げにならないように配慮した者がいるかもしれないし……ありがとうメグミ……そういうことで知ってる者には少し退屈かもしれないが、静かに聞いてくれると助かる」
マルクトは少しざわついていた室内が静まるのを待って、説明を開始する。
「まず第一に校内戦は五月に開かれる魔導フェスタに並ぶ大きなイベントだ。この結果次第で将来が決まるため、上級生達は死に物狂いで頂点を奪い合う。二年生以上は基本的に強制参加だが、入ったばかりの一年生達は危険すぎるため、自主参加になっている。もしも参加したい場合は俺に言ってくれれば申請しとくから、参加したい者や興味がある者は俺のところまで来てくれ」
「えー先生のところに行ったら地獄の特訓に強制参加させられちゃうよ~」
「確かに~」
「実際、やってたソラ君は耐えられなくて学園辞めちゃったもんね~」
そんな女子生徒の声に賛同するような声も聞こえ、頭痛がしてくる。
(俺っていったいどんなイメージなんだよ……)
何故か、親の都合で学園を辞めたということにしてあるソラの転校まで俺のやり方が原因になっている。とはいっても混乱を防ぐために行った苦肉の策だったため、本当のことを言うわけにもいかない。
どうせ半分冗談くらいの気持ちで言っているのだろうし、特に訂正をする必要もないと思えた。
「まぁいい。とりあえず何もしないから気軽にきてくれ。だが、今年からは前年度まで一位を独占していた人が卒業したため、上級生は士気が高い。お遊び気分で参加すれば……怪我だけじゃすまないかもな」
その言葉に、半数の生徒が分かりやすく怯え始めた。