25話 反省と後悔2
ユリウスからの言葉を重く受け止めたティガウロは、レンに謝った後、足が完治していないことを理由にカトウと共にテントへと戻った。
その後、マルクトは全員からの承諾をもらったことでこのキャンプを終えることにした。
マルクトはクリストファーに連絡を入れて、これから帰る旨を伝え、他の者達にも帰る準備を済ませておくよう伝えた。
レンのぶんはユウキが自分から申し出てくれた。
一時間後には全員が帰る準備を終えてやって来た。
マルクトの作り出した空間転移魔法へと順番に入っていき、マルクト達はマルクトの屋敷に戻ってきた。
楽しかった筈のキャンプは悲しい結末を迎えることとなった。
◆ ◆ ◆
木が生い茂る森のような場所に三人の人物がいた。
そこにある木のほとんどは傷があるか倒れているもので、いきなりこの場所に転移させられたディザイアにも見覚えのある場所だった。
(……ここは……この器を奪ったところか? ……何故こんなところに? ……それにこの者達はいったい何者だ?)
ディザイアは目の前で這いつくばっている自分を見下している二人に疑問を持った。
先程まで標的と戦闘し、奥の手まで放った結果、その圧倒的な魔力差で敗北を喫した。
敗因は魔王に勝ったという事実が自分を調子づかせていたことだとわかる。
ガキの集まりかと思えば新魔王と魔王の側近まで……それどころか相当位の高い実力者が数名いるという実力者集団だった。
相手の実力を把握せずに人間だと侮り、力押しで行った結果の敗北……実際に今も目の前にいるがたいの良い男は相当強いとわかる。
万全の状態で負ける気はしないが、この状況ではこの男に勝てるとすら思えなかった。
「警戒するのは仕方ないやろうが、そんなことしたって誰も得せえへんやろ? こっちは君を助けたったんやで? ふりでもええから少しくらい感謝したらどうなん?」
がたいの良い男は何を考えているのかがわからない笑顔でそんなことを言い始めた。
だが、ディザイアに彼らの言葉を聞く気はなかった。
ここにはディザイアが隠している奥の手があった。目の前にいる人間が何を考えてこの場所を選んだのかは検討もつかないが、ディザイアにしてみればどうでも良かった。
「おい! ボスが優しく話しかけとるやろうが! なんか言わんかい!!」
いきなり弱そうな男の方が喚いてきた。
その男は弱いくせにいきがっていて無性に気に入らなかった。
ディザイアは立ち上がって喚く男の方へと腕を伸ばす。
次の瞬間、いきがる男の腹部を刺々しい触手のようなものが貫いた。
顔を真っ青にした男は、自分の腹から滴る血を見て悲鳴をあげる。
だが、それで終わることはなかった。
ディザイアはそいつの顔が腫れ上がる程殴った後にその男を殺しにかかる。
「ひっ! や……やめろ! 助けてくださいボス!!」
だが、その助けを求める声にボスと呼ばれた男は笑顔でこう言うだけだった。
「生け贄役ごくろうさん」
殴られて断末魔を辺りに響かせる男から血に込められた魔力を奪ったことで準備は完了した。
「……ほんまに血をとるんやな……手を翳しただけでからっからやないか……」
干からびた男を一瞥するがたいの良い男はそんなことを言い始めた。
仲間が殺されたというのに一切の余裕を崩さないどころか顔色すら変化させていない。
だが、たったのこれっぽっちじゃこの人間に勝ち目なんてなかった。さっさと奥の手を使うに限る。
「……さて、食事はもう充分やろ? さっさとゲートに飛び込まんかい!」
「!? なぜ貴様がそれを!!」
その言葉にはさすがのディザイアも、聞く気のない素振りを貫きとおすことは出来なかった。
魔界と人間界を通じるゲート。
ディザイアは理由があって使い捨てのゲートは作らず、継続型のゲートをここに繋げたのであった。
代償に貯めていた力を消費しきってしまったため、自分が弱くなってしまったものの、それでもやる価値があった。
「……どうでもええやろがそんなこと……」
「そんなこと? 罠かもしれない場所にみすみす入れる訳ないだろうが!」
「じゃあ……ここで死ぬか?」
その言葉が発せられた瞬間、男の威圧感が増した。
「冗談や冗談! 君には数年間で強くなってもらわんとな……これから二年はここの存在は他の誰にも知られることはないが、もし敵対する言うんならわかっとるやろな?」
「…………次来たときは貴様も殺す」
「……ええで~……楽しみに待っとるわ」
男の楽しそうににやけた顔が不気味だった。
(貴様もだマルクト・リーパー! 今回は遅れを取ったが次こそは我が全力をもって貴様を殺し……この人間界を手に入れる!)
ソラの姿に戻ったディザイアは井戸の中に飛び込んで魔界へと戻った。
◆ ◆ ◆
ディザイアが井戸に飛び込むと、どこからともなく、ぞろぞろと黒い服を着こんだ男達が現れた。
「カルマの奴もアホやな~、よりにもよって俺に頼むんやからな~。……そう思うやろ?」
黒服達は何も喋らず、肯定も否定もしない。
「まぁ、あの魔人も魔人やで……まぁ、あの魔人ならプランクの馬鹿どもよりはマシになるやろ……」
しかし、反応など最初から期待していなかったのか、ボスと呼ばれた男はそのまま喋り続けた。
「さぁ……さっさとその死体回収して撤収するで! ……とりあえずカルマにミスったって連絡入れなあかんからな」
そう言った男は一人でどこかに行ってしまった。
後に残ったのは後片付けをする男達だけだった。
この話を以て、『弟子は魔王』の第一部を完結し、誠に勝手ながら1ヶ月の休養をいただきたいと思います。
ご理解のほど、よろしくお願いいたします。