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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第2章 入学編
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4話 入学4


 茜色の空が徐々に暗くなってきた頃、俺とカトウの二人は、飲みに向かっていた。ベルとメグミは先に帰らせたため、今はこいつと二人っきりである。

「マルクトはどこか行きたいところでもあるのか?」 

「いや別に……そこそこ美味ければどこでもいいよ。言っておくけど俺はここら辺の美味しい店なんて知らないからな。今日の晩飯の成否はお前にかかっていると思え!」

「あれ? お前ここら辺に住んでなかったっけ? てっきりお前なら超一流の店でも案内してくれるかと思っていたんだが……」

「確かにこの辺に住んではいるが、飲み屋に行くことなんてあんまりなかったからな」

「なるほどね。なら俺のオススメの店に行こうぜ!」

「別にいいけど、あんまり高い店は困るぞ。最近出費が重なって今は持ち合わせが少ないんだ……」

「大丈夫だって、安くてうまい店なんだよ!」

 そういうことなら任せるとしよう。

 そう思い、カトウにその店まで案内させた。

 やがて一軒のお店が見えた。

 看板には『ジェミニ』と書いてあって、見た目は最近できたような雰囲気の食事処だった。

「五ヶ月前にオープンしたばかりの店なんだよ。ここの看板娘がかわいいんだよな~」

 そう言いながらカトウは店の中に入る。

 どんな看板娘なのか少し興味があるな。

 そう思いながら俺もカトウに続いた。


 中に入ると店主と思われる女性が料理を運んでいた。

「あら、カトウ先生いらっしゃい。今日はお連れさんがいるのね」

「やぁ、エリカさんこんばんは。今日は親友を連れて来たんだよ」

「あら、カトウ先生ってお友達がいらしたんですね。では奥の席にどうぞ」

 カトウは「ひでぇ」と言いつつも、笑いながら奥の席に向かった。

 俺もカトウと向かい合う形で椅子に座りメニューを見た。


「ご注文はお決まりですか?」

「俺は麦酒。マルクトもとりあえず麦酒を一杯飲んでみろって! ここの麦酒はすごくうまいんだよ!」

「そうなのか? なら俺も麦酒にしようかな」

「わかりました。すぐ用意しますね」

 店主のエリカさんはすぐに麦酒を持って来てくれた。 

「やっぱりここの麦酒はうまいな~!!」

「確かにうまいな。これ程うまい麦酒は飲んだことないですよ」

「ありがとうございます。うち自慢のお酒ですから」

「ところでエリカさん今日は二人はいないの?」

「あら? カトウ先生、奥さんいるのに私の娘たちに手を出したら許しませんよ?」

 ……そういえばこいつ三年前に結婚してたな。

 あんな美人の奥さんいて、近くの店の看板娘にご執心とはね。

「浮気者~奥さんに言いつけてやろ」

 俺はなんとなく腹が立ったのでカトウをからかうようにそう言った。

「!? ちょっ!? 違うからね! 浮気じゃないからね! エリカさんもそんな目で見ないで!! さっきこいつに教えたんですよ。ここの看板娘がかわいいって」

 冷や汗をかきながら慌てたように言い訳をする彼の姿は見ていてかなり面白かった。

 お前あのとき、看板娘目的のおっさんにしか見えなかったけどな。


「そうなんですね。でも、すみません。二人はまだ学校から帰って来てないんですよ」

「学校ってことはまだ学生なんですね」

「そうなんですよ。今日高等部に進学したばかりでしてね。二人が帰ってきたら挨拶させましょうか?」

 エリカさんはそう言うと、俺たちの追加注文を作りに裏に向かった。


 ◆ ◆ ◆


 それから一時間くらいたった。

「だから俺は女の子にモテたいわけ。わかる? ドゥ~ユ~アンダスタン?」

「……なに言ってんだお前?」

 飲み屋にて俺たちは酒を飲みながら近況を話し合っていたのだが、カトウは若干酔いつぶれかけていた。

 酔っぱらいながら、カトウは女の子からモテたいんだとそう言っていた。

 結婚生活でなんかあったのかと聞くと結婚生活は充実しているんだと。

「ならいいじゃん別に……」

 俺は若干うんざりしながらカトウに向かってそう言うと、いきなり彼は立ち上がってきた。

「そんなこと関係ねぇんだよ!! 結婚していようがしていまいが女の子にモテたいんだよ!! この気持ちはイケメンにはわからないだろうがな!!」

 その言葉を聞いているとなんかもうどうでも良くなってくるな。

 酒が美味しいな~。

 俺が適当に聞きながしているのが気に食わないのか、カトウが座りながらこっちを向いてきた。

「……お前こそどうなんだよ?」

「……何が?」 

「結婚だよ、結婚。お前もいい年だし、それなりの地位もある。お前なら、引く手数多なんじゃないのか?」

 その質問に溜め息を吐いた。

 ちなみにこの世界では貴族かそれ以上の地位の者にしか家名はつかない。

 そのため、俺の地位がそれなりに高いのは、家名があるため、誰にでもわかる。


 カトウへの答えに、正直今はそんな人いないと答えようとして、なぜかシズカの顔が思い浮かんだ。

 なぜ今シズカの顔が浮かんだのだろうか?

 そんなことを考えていると、俺が答えないことを不審に思ったカトウはいきなり「えっ!?」と大きな声で驚いてきた。

「お前にそういう相手がいるなんて初耳だぞ! 誰なんだよ? 俺の知っている奴か?」

 食いぎみに聞いてくる彼の唾がこちらに飛んできた。……きたねぇな……。

「そんな相手いるわけないだろ。今は忙しすぎて、例えそんな人がいたとしても結婚なんて無理だね」

 そう答えると、カトウがニヤニヤした顔で「へ~」とか言ってくる。

 何こいつマジムカツク。


 そんなやり取りをしていると、店員の女性が「先生に彼女いないんだったら私が立候補しちゃおうかな~」と言ってきた。


 振り返ってみるとそこには銀髪で長い髪の見覚えのある少女が給仕姿で立っていた。

 よく見ると、うちのクラスのエリスという女子生徒だった。

 学校では一番俺に熱心に魔法のこととか色々質問してきた生徒だったので、よく印象に残っていた。

 なぜこんなところにいるのか聞いてみると、ここは彼女の母親が経営している店で双子の妹のエリナも奥にいるらしい。

 なるほどカトウの言っていた看板娘はこの二人か。

「冗談はあと五年たってから言いな。麦酒もう一杯頼むよ」

「ちぇ~八番卓、麦酒一杯追加」

「は~い。お姉ちゃん、料理持っていって」

 そう告げる銀髪のエリスよりも短い長髪のエリナが奥から顔を出した。

 そんなエリナと目があった。


「あれ? 先生がなんでいるんですか?」

 と奥に引っ込んだ姉と入れ替わりで俺に話しかけてきた。

 活発な姉に内気な妹、そんな第一印象を抱かせる二人は確かに美少女でカトウが楽しみにしてろって言うのもわかる。

「ちょっと食事に来たんだよ」

「そうですか。ゆっくりしていってくださいね」

 そう笑顔で告げ、エリナは奥に下がっていった。

 そんでカトウのほうに振り返ったら号泣していた。

「羨ましいぞー。イケメン破ぜろー」

 カトウはそんな捨て台詞を吐いて店を飛び出していった。

 なんだかんだ言ってやっぱり面白いな、アイツ。

「カトウ先生どうしちゃったんですかね?」

「さぁ?」

 と麦酒を持ってきたエリスに苦笑い。


 …………


「アイツ勘定払わずに行きやがった!!」


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