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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第5章 支配者編
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24話 意外な結末5

「……えっ?」

 マルクトの目に映ったのは絶望し、生きるのを諦めた生徒の姿だった。

「……もう助からないんでしょ?」

「諦めんな!! ……俺は凄いんだぞ! 魔法の権威って言われてて、魔力のランクは黒なんだ……世界で二人しかいない黒なんだぞ!! ルーンっていう神のような力も持ってる。……いろんな魔法を作ったこともあって…………とにかく凄いんだ!! だから俺を信じろ! ……最後まで信じてくれよ……シズカ……」

 その最後の相手がわかった者はベルとカトレア、それにクレフィだけだった。


 マルクトの目には涙が浮かんでおり、その腕は震えている。

 目の前にいるのはシズカじゃない。レンという少年だ。

 だが、誰も訂正を入れる気にはなれなかった。

 それほどまでに彼の流す涙は衝撃的だった。


 目の前にいる少年があの日助けられなかった弟子の姿と重なる。

 血液を魔力に変換させることでベルを助けた。

 俺を頼って欲しかった。

 だが俺は弟子に信じてもらえなかった。

 自分のやったことが小さいことだとは思っていない。

 それでも俺を頼っても勝てないと彼女に思わせてしまった。

 どんなやつにも勝てる存在であれば、あの日、最愛の弟子を失わずには済んだのかもしれない。

 でも俺は彼女にとってそんな存在ではなかった。

 天使や魔王という存在に勝てると思わせられるような存在ではなかった。


(くそっ!! なんで治らない!? もっと魔力を込めろ! もう二度と俺が弱いせいで失いたくないんだ!!)

 マルクトは魔力を込めようとするが、その瞬間強烈な蹴りが屈んでいるマルクトの頬を貫くように放たれた。

 一切の警戒もしていなかったため、その蹴りは直撃し、マルクトは地面を転がった。

(いったい誰が俺の邪魔をするんだ!)

 駆け寄ってきた生徒に起こされつつ、マルクトはその相手を見ていた。

 みんなが騒然としているなかで、その存在だけがレンとなにかを話していた。

 マルクトは再び、彼のもとに行って魔法をかけようとするが、足がよろめいてうまく立ち上がれなかった。手をついて地面とにらめっこするしか出来ないでいた彼の目からは少量ではあったが、血が流れていた。

 そんな彼を見ることなく、カトウはレンと話し続ける。


「悪いなレン君、マルクトに死んでもらってはこちらが困るんだ」

「……わかってます。……それにあんだけ無茶したところで……俺はどうせ死ぬんでしょう?」

「…………ああ」

「ありがとうございます……カトウ先生……俺のせいで先生まで死んじゃったら、死んでも死にきれませんからね……」

「今は礼なんかどうでもいいんだ。せっかく数分間をマルクトからもらったんだ。もしもの時のために別れの言葉くらいは言っておけ」

「……はい……ねぇユウキ君……こっちに来てくれないか?」

 一番泣いているユウキが、仰向けになって地面に横たわるレンの元へ行く。

 ユウキが来たのを見たレンはその顔に少し笑みを作った。

 儚げな笑顔がユウキの涙腺を更に刺激する。

「……俺さ、本当は中等部にいた頃、お前のこと大嫌いだったんだ。……女っぽい感じでさ、喋りかけたって……声小さくて聞き取りずらかったし……でも、高等部でそんなお前がマルクト先生から個人的に教えてもらっているのを見て嫉妬したんだ……おとしいれようともしたんだ。……でもさ、途中でそんな気が起きなくなっちまうくらい、お前はいい奴だってわかったんだよ。……どんなに辛く当たった時だって笑顔を崩さなかったし、どんな時でも手助けしてくれたし、宿題させたのに、逆にいい勉強になったってありがとうなんて言ってくるし、そんなお前見てたらこんなことやってる自分が馬鹿らしくなっちまってさ……本当に悪かったな」

「……えっ? 僕嫌がらせされてたの? …………全然わからなかった……そもそも嫌がらせって蹴ったり殴ったり、大切な物を隠されたり、お金を強奪されたり、服を無理矢理脱がされたりとかじゃないの?」

 ユウキがその時見せた顔はどうやら本当に気にしてはいなかったことがわかる。それが面白くてレンはぎこちない笑い声をこぼした。

「お前そんなことされてたのかよ……まぁ、それでも俺はお前に嫌がらせをしようとしたんだ……許されることじゃないさ……でも最後にちゃんと謝れて良かったよ……」

「……あれに比べたらレン君のやってたことなんて僕にはたいしたことなかったよ。……でもさ、どんな思惑があったにしても、僕はレン君と遊べて楽しかったし……一緒に切磋琢磨した時間は僕にとっても大切な思い出だったよ……だから僕は君にいなくなられたら、すっごく困るんだ……だからさ……お願いだから僕の前からいなくならないでくれよ」

 ユウキの目からこぼれる涙は尋常じゃなかった。

 初めて出来た同年代の男友達。声をかけられたあの日、心の底から嬉しくて、でも緊張してうまく話せなかったけど、何度も声をかけてくれた友人。

 その彼が目の前で亡くなろうとしているのが、ユウキには苦しかった。

 見ていたくなくても、それでも目をそらしちゃいけないと思った。


 他の者達も彼の姿を見て悲しみを抱いていた。

 一人を除いて……

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