24話 意外な結末4
ティガウロは動揺を隠せないでいた。
アダマンタイトという世界一硬いといわれる鉱石で造った密閉空間でレンという妹たちの友人を閉じ込めると、レンは呼吸が出来ず気絶した。
それで終わるはずだった。
アダマンタイト鉱石という鉱石を使った訳ではなく、大量の魔力で代替品を造りだしたに過ぎないのだが、自分の魔力をほとんど使ったものをこのまま消すのも勿体無かったので、ティガウロはそれをゴーレムにしていた。
そんな時だった。
何かが割れる音が辺りに響いた。
音の方に目をとられた瞬間、意識を失っていたレンがいきなりもがき苦しみ始めた。
なぜ急にレンが苦しみ始めたのかというと、それはレンがディザイア同様魔力を供給していたからだった。
ディザイアの《ルーン・支配》が切れたことにより、レンへの魔力供給が完全に絶たれたのだ。
レンが受けたルーンによる支配は他の者とは少し異なっていた。
マルクトが到着した際に効果を発揮していた紋章のようなものは、『刻印』というディザイアが持つ能力の効果である。
レンはこれにより支配空間の中で有る限り、レンの魔力はこの空間内に存在する人間以外の生物から供給されていた。
しかし、マルクトによる供給の阻害を受け、微量に使っていた自分の魔力に頼る形になってしまった。
支配空間の効果はレンを延命させていた。
だがそれも、マルクトによって壊され、もはやレンの死を止めることができるものはいなくなっていた。
そんなのっぴきならない状況を見ていたティガウロは、急いでマルクトに通信魔法をかけた。
◆ ◆ ◆
「何があったティガウロ!」
マルクトは謎の人物を追いかけていったユリウスたち三人を除いた全員でやって来ていた。
妹たちの無事な姿に歓喜の声を上げたくなったティガウロだったが、この状況においてそれが相応しくない態度であることくらいは理解しており、冷静に今起きた状況を説明した。
その間も、レンの様子を探るマルクトだったが、その丁寧な説明のお陰でだいたいの状況は理解できた。
「……やはりティガウロの話を聞いていて思ってはいたが、血液が生きていくために必要な量を下回っているな」
「そんな!? 先生……どうにかできないんですか?」
「……難しいな。やるだけやってみるが期待しないでくれ」
エリスに弱気な返答をしつつ、マルクトは魔力結晶を砕いて自分の魔力を回復する。
魔力が充分に回復したことでマルクトは、光属性の究極魔法、超回復魔法を発動させた。
だが、マルクトの言葉を聞いたことでカトウにはそれがほとんど無意味であることがわかってしまった。
レンという生徒はもうじき死ぬ。いくら体力を回復させても、レンの魔力消費に用いた血液はかえってこない。
だが、生かし続けることはできる。
一秒も休まずに超回復魔法を永遠に発動させ続ければ、生き続けることはできるだろう。
だがそうなれば、マルクトの方が危険な状態になってしまう。
どう考えても不可能だ。
彼は死ぬ。それが彼の運命なのだから。
それでもマルクトにはやめる気がなかった。
(レンを助けることはできない。そんなことはわかっている。だが、それでも俺にできることはこれしかないんだ! そもそも俺がもっと警戒を強めていれば彼はこんな目にあわないで済んだかもしれないんだ!! ……だから、奇跡でもなんでも信じてレンの助かる可能性を少しでも多くするために、俺はこの手を止める訳にはいかない!)
マルクトにとって、自分のせいで人が死ぬのは我慢ならなかった。ソラを今すぐ助けることはできない。だが、この巻き込まれた生徒だけはなにがなんでも助けだしたかった。
「…………先生、もう止めてください」
「レン!? ……意識があるのか?」
「先生が馬鹿みたいに諦めないから……起こされちゃいました」
「待ってろ。今治してやるから」
「……もういいです先生……」