24話 意外な結末2
(……やっぱり魔法が使えたら良かったんだけどな…………属性を失った今となっては、それも不可能か……)
失ったものを恋しく思いつつも、それでも自分に出来ることを必死で探す。
自分のルーンは、物を造ることしか出来ない。
カトウさんのように人を治すことも出来ないし、ユリウス様のように真実を見抜くことも出来ない。
マルクトさんのように様々なことをすることも出来ないし、カナデ様のようになんでも知っている訳ではない。
自分には出来ないことを出来る他のルーンが時折羨ましく感じる。
僕のルーンは便利だ。……それはわかっていた。それでも出来ないことが多すぎた。
マルクトさんが羨ましいと慰めてくれたこともあったが、僕だってあの人のルーンは羨ましかった。
……実際、この状況で何の役に立つ?
しかし、相手は集中して考える時間を与えてくれない。
ティガウロ目掛けて飛んできた火の玉はティガウロが全て斬っていく。
中距離から飛んでくる攻撃に対処する術はあったが、殺さないようにしなくてはならないため、ティガウロには近距離以外の戦い方が出来なかった。
(いっそのこと、打撃武器で相手を気絶させるか? ……いや、それは無しだな。ただでさえレン少年は喀血しながら戦っている状態なんだ。そんなことをすれば内臓を痛めてしまう。下手したらそれだけで死にかねない)
そんなことを悠長に考えていられる余裕がないのはわかっていても、考え無しで突っ込んで勝機があるとは到底思えない状況だった。
(どうする?……このまま死なせてしまったら……)
マルクトさんになんて言えばいい?
あの人達にこの場を託されたんだ。ユリウス様もカトウさんも僕のことは心配していないようだった。
僕を信頼してくれた証だ。
その期待に応えないと、僕の存在価値がない。
……友人が死ねばエリスとエリナが少なからず悲しむだろうか?
……悲しむだろうなぁ。昔から二人とも感受性豊かだったし…………僕の過去を聞いて泣いてくれるような子だ。
きっと、僕が未熟だったせいで彼が亡くなったら、人目も憚らずに泣き続けるだろうな。
(……そんなの見たくないな……)
襲いかかってくる奴を生かそうとするのをやるなんて、僕には難しい。僕はただ僕を絶望の淵から助けてくれた人に少しでも多くの恩を返したいのだから。そんな俺が人助けなんて笑える冗談だ。……でもーー
二人の悲しむ顔を見たくない。
僕を助けてくれた妹達のために彼を助ける。
妹のためなら僕は、なんだって出来る!!
◆ ◆ ◆
(……何故……何の攻撃もしてこない?)
レンは先程からそんな疑問を抱いていた。
さっきから接近してこなくなった。こちらの自滅でも狙っているのかと思ったが、これまでの攻撃方法からそれはおそらく無いであろうことは容易に推測できた。
自分の魔力がもう無いことは分かっていた。今すぐ休息を取らなければ死ぬであろうことも。
……だが、それでも良かった。
ディザイア様のために、この身を犠牲にしてでも、危険だと言わしめたこの男を排除する。
(……何が目的だ? ……だが、いくら強いとはいえ、強化された俺に勝てるはずがない!)
レンは、動き続けていた足を止める。
この身に残る血液を魔力に変換し、この男でも避けられないような魔法を叩きこもうとする。
……そう考えていた。
いきなりティガウロの雰囲気が変わった。
今までと違い、その浮かべた笑みは優しそうなのに恐怖を感じた。
(逃げなければ)
回避ではなく逃げるという言葉が咄嗟に出てくるほど、ティガウロの威圧は凄まじかった。
「……重要なのは能力の効果をいかにうまく使うか……か。やるだけやってみるか」
ティガウロがそう呟くと、両手に持つ剣をその場から消してみせた。
「顕現せよ! 材質はアダマンタイト! 敵を包む大いなる障壁となれ!」
ティガウロの詠唱、自分の中にある魔力がごっそりと抜ける感覚に、意識が飛びそうになる。だがティガウロは舌を噛むことで意識の消失を回避する。
ここで意識を失えば、彼が死ぬのは明らかだったからだ。
レンは中から魔法を行使するが、アダマンタイトの障壁に傷をつけることは敵わない。最大出力の炎魔法、密室のこの空間に光が灯り、一点集中した攻撃が障壁を襲う。
しかし、障壁はそこに傷一つつていていないという現実をレンに突きつける。
限界だったレン。もう一度同レベルの魔法を放てば、血が枯渇することは自分でも分かっていながら、再び両手に火を灯した。その瞬間、彼の意識が朦朧としてきた。火も完全に消えており、何がなんだかわからない。
魔法の行使を行おうとしても、集中出来ないからかうまく発動デキナイ
そして、酸素が空間から完全に消えたことにより、レンの意識は闇へと誘われた。