24話 意外な結末1
煙幕が晴れた時、そこにいたはずのディザイアは既に消えていた。
(逃げられた!? だが、魔法発動の兆候すら見えなかったってことはまだ近くにいるはず!)
あんな化け物を野放しにできるはずがなかった。
マルクトは急いで探索魔法でディザイアの位置を探る。
……だが、マルクトから半径五十キロメートルの範囲内に、その反応を捉えることはできなかった。
(……転移魔法で救出された?)
それが一番あり得る方法だった。
だが、魔法発動の兆候が見受けられなかったのは何故だ?
まさかあの煙に認識阻害のような魔法が使われていて、転移魔法の発動がわからなかったのか?
ディザイアの魔力はおそらく、既に使い切っていてほとんどないはずだ。供給手段も途絶えた。奴自身には何もできないはずだ。……それはつまり、転移魔法を使える存在がディザイアを自分の元に転移させたということだ。…………いったいなぜ?
「マルクト! 誰もお前を責めたりなんかしない。だがそれ以上そこでじっとしているんだったら俺がお前をぶん殴るぞ!!」
ユリウスの顔には不安が少しも見受けられなかったのは、動揺しているところを他の者に見せないためだろう。
俺やユリウスはこの場において、皆を安心させなくてはならない立場にある。そんな俺達がそう簡単に動揺を顔に出しては、生徒達の不安を煽ってしまう。
だが、わかっていてもそう簡単にいかないこともある。
一瞬で奪い去られたディザイアという脅威。それは決して小さいことではない。
何をしてくるかわからないディザイアに警戒し、煙幕を許してしまったのは、マルクトだけではなく、全員の警戒が他の敵という存在を考えていなかったからだ。
だが、それを今悔いたところでマルクトにはどうしようもない。
ディザイアは協力者の手によってマルクトでもわからない場所に消えたのだから。
「……ユリウス。南の方向に走って下りている見覚えのない影がある。護衛の二人を連れてそいつを捕まえてきてくれ! 一応ディザイアではないが、警戒は怠らないでくれ。俺達はレンとティガウロのところに行ってくる!」
「わかった。二人とも私についてこい!」
「「はっ!」」
そして、集合したキャンプメンバーは再びふたてに別れた。
◆ ◆ ◆
ティガウロは自分の死をも厭わない姿勢で攻めてくるレンに苦戦を強いられていた。
本来なら恐怖が頭をちらつけば、一瞬でも躊躇するのが普通だ。しかしレンは、意識を完全にソラのルーンで支配され、ティガウロの命を奪うためにその身を賭して突っ込んでくる。
逆にティガウロは、操られている状態のレンを殺す気はない。だからレンが死ぬかもしれないような攻撃を仕掛けられないでいた。
だが、強いのはどう見てもティガウロだった。
ティガウロの二刀流は、レンが作り出す魔法による攻撃をことごとく斬り伏せる。
その度にティガウロは何度も何度も追い詰めようとするが、質の悪いことに、レンは追い込まれた瞬間、自分から突っ込んでくる。
その時生まれる一瞬の躊躇、両刃の剣で斬れば間違いなく軽傷じゃすまない。一瞬の躊躇がティガウロを止めたところをレンが突っ込んできて攻撃を仕掛けてくる。しかし、魔法では分がなくとも、体術に関して言わせてもらえば、ティガウロが魔法しか使えない少年に遅れは取らなかった。
レンの素手による攻撃を軽くいなし、再び距離を取る。
レンが突っ込んでくると踏んで攻撃をすれば、中距離が得意な相手に中途半端な対応しか出来なくなる。
こうして、お互いに決定打がないまま、膠着状態に陥ろうとしていたが、レンはゴーレムとの戦闘で魔力が限界に近かった。
今は操られているからなのかはわからないが、普通に動いている。しかし、その状態はいつ倒れてもおかしくない状態だった。
魔力もない。体術では圧倒的に上。それどころかこちらはルーンという力を持っている。相手が普通の敵ならティガウロの勝利は間違いなかっただろう。
だが、相手は救うべき対象であって、殺すべき敵じゃない。
いつ尽きるかわからない魔力を、今もなお使おうとしている少年相手に時間をかける訳にはいかなかった。