23話 反撃の狼煙2
マルクトの手には、いつの間にか一振りの剣が握られていた。
「……力を貸せ! 聖剣グラム!」
しかし、マルクトは剣を使わずに手をかざす。
「embodying」
その言葉で現れたのは、直径二メートル程の光る球体。その球体はマルクトの右側に現れ宙に浮かび始めた。
「威力はレベル十だ。五百発は山全体に行き渡れ。後の五百発は俺の攻撃に合わせろ!」
その言葉を言い終えたマルクトは剣を構え、立ちはだかる生徒達をすり抜け、ディザイアに斬りかかる。
すると、光る球体は分裂していき、マルクトの指示通りに動き始めた。
「ちっ……しぶといな人間! だが、その程度で我輩に傷をつけることなど叶わんぞ!」
「……だろうな。だが、最初の一発だけでそう言うのは早いんじゃないか?」
(感謝するぞクレフィ、ユリウス。お前達のお陰で、こいつの弱点がわかってきたんだ。……さて、まずは、その思考を奪ってやる!)
爆発が起きた直後、ユリウスからの通信魔法が届き、とある情報をマルクトは得ていた。その情報はマルクトに少しの希望を与えていた。
マルクトの剣による攻撃。しかし、それは意図も容易く避けられてしまう。だがーー
「!?」
次々と放たれていく光る弾丸がディザイアに襲いかかる。
ディザイアはその攻撃を結界で防ごうとした。だが、一面しか守らない結界で防ごうとしたディザイアを、光る弾丸が結界を避けて襲いかかってきた。
さすがのディザイアもこれには被弾した。
けたたましい爆音が耳に届くが、爆煙が晴れていくと、そこには無傷のディザイアがいた
「……人間風情が調子にーー」
その言葉の続きを紡ごうとした瞬間、マルクトの一撃がディザイアに再びふりかかる。
一度目はなんとか避けたが、マルクトのフェイントにまんまと引っ掛かったディザイアは、マルクトの強烈な蹴りに対応出来なかった。
その威力に膝を折るディザイア。マルクトに向けて魔法を放とうとするも、上から降ってきた光る弾丸の嵐に襲われ、悲痛の声を上げた。
ぼろぼろの傷だらけになりながらも、ディザイアは憎々しげにマルクトの方を見る。だが、それでもマルクトの攻撃は終わらない。
その無防備な顔に回し蹴りを食らわせ、ディザイアを後方にある木へと叩きつける。
喋る暇すら与えない怒涛の攻撃。そして、マルクトにとって都合の良いことに、操られていた生徒達は攻撃をしてこなかった。
いや、マルクトの想定通りと言った方が正確だった。
(……やっぱりか。こいつは近ければ近いほど、操るのが細かくなる分、思考が乱された瞬間、動かせなくなるのか。そっちに余力をまわす余裕をこいつから奪うことで、子ども達はなんとかなりそうだ!)
そして、再び攻撃を仕掛けようと、足を踏み出した瞬間だった。
目の前にいるディザイアの様子がおかしいと思えたのは……
◆ ◆ ◆
(……何故、こんな人間ごときに……ここまで苦戦する! 我輩は強い。強くなったのだ! もう我輩は、あんな虐げられていた時とは違うのだ!)
ディザイアの体は既に限界を迎えていた。
魔界から人間界に来るのは容易なことではない。力のほとんどを使い尽くし、それでようやくたどり着いたのが人間界だった。
三十年間で溜め続けた力をほとんど全部注ぎ込んで渡ったことにより、初期状態になってしまった。
だから、この世界でソラの体を奪い、人を殺し、その血を奪った。
だが、それは当初の予定とは異なる結果になった。
人間の血は魔力が少なかったのだ。
魔族の血に含まれる魔力とは異なり、人間の血には魔力が少ない。人間の血は、普通の魔族と比較すれば十分の一にも満たなかった。
また、派手に動くことも憚られた。
契約終了の条件は、担任教師に勝つほどの力を得ること。
それを証明する方法はただひとつ、目の前にいる担任教師を殺し、その血を奪うことだった。
それが出来て初めて自分の目的へと動くことができる。
だから、ある程度の力を得たら、マルクトを直接殺しにいこうと決めていた。
怪しまれれば、その戦いにもっていくまでが面倒になる。
早急に終わらせる必要があった。
そして《ルーン・支配》という絶大な力が開花した。
《ルーン・支配》とは、その名のとおり、支配する能力だった。
支配空間の中にいる支配下を操ることができる。
そして、使用者に近ければ近い程、細かい動きを指示できるが、遠すぎると単純な命令しか出来なくなる。
ディザイアが集中している限り、操り状態で体を自由には動かせない。
また、ディザイアがレンを盾にしながら放った大技には、もうひとつの効果があった。