22話 仲間との戦い4
先程のマルクトからの通信で二つのことがわかった。
一つは、これがマルクトのルーンとはまったくの別物だということ。
マルクトのルーンは距離が近い者にしか、効果を及ばさない。その分、細かく自由自在に操れるという長所がある。
しかし、今回の事件は、未知の魔族による襲撃だという話だ。どういう能力がこの事態を引き起こしたのかはわからないが、その効果はなかなか強力なようだ。
そのうえ、山の麓にいるユリウスの位置でも、中腹にいる俺やマルクトの位置でも同じような現象が起きている。
マルクトが攻めあぐねているということは、この能力にマルクトのルーンが通用しなかったということだ。
そんなことあり得ない! ……と言いたいところだが、でなければ、マルクトが攻めあぐねている理由に説明がつかない。
マルクトのルーンがうまく通用しなかった。おそらくこの現象は、敵のルーンが作り出した状況だということだ。
もう一つはこのルーンが、おそらく全体攻撃だったということだ。
性別によって、操る相手を変えたのなら、ユウキ君とレン君が操られているのに、あの魔王が操られていないのはおかしい。
また、年齢で選んでいるとしたら、ティガウロが無事であることに説明がつかない。なにせ、目の前で操られているメルランは、ティガウロより一つくらい年が上だったはずだ。
それらを考慮すると、敵のルーンは全体に効果を及ぼし、操れなかった俺達を、操れた者達で襲っているということだろう。
……それがもし本当だったら、俺ならこの状況に対処できる。
「薬物生成、抵抗強化薬!」
カトウの手に凝縮された魔力が、徐々に液状化していく。
俺の《ルーン・薬才》は、薬の知識に特化したものじゃない。どんな薬でも生成できる能力だ。ただし、知識として頭に入れておく必要がある。
だが、この能力にはもう一つ効果がある。
それは、一度受けた攻撃の抵抗薬を作ることができるという知識を一切必要としない能力だ。それこそ、実在しないはずの命だって蘇生する薬を生成することだってできる。
一度作れれば、何度だって作れる。その魔力消費はものによって違うが、どれも効果は強力だ。
今まで攻撃も防御もほとんど全部身体能力に頼っていたから、魔力は問題無い。後は時間だけが欲しかった。そんなタイミングで現れたトリという名のマルクトが手懐けた白い鳥。
トリが見せたフェザーシールドという結界のようなものは、今もメルランやアリサの攻撃を防いでいる。
アリサの目や口や鼻から血が滴っている。
魔力の限界が近い証拠だった。
(……今、助けてやるからな)
生成した抵抗強化薬と名付けた薬を更に凝縮して、薬莢の形状にして、リボルバーに込める。
そのリボルバーを見て深呼吸する。
使い方は、また知った。
大丈夫だ。落ち着いてやれば問題無い。
「……リーフバインド」
フェザーシールドに攻撃しているメルランとアリサを、背後から木の蔦が襲う。警戒していなかったことで不意をつかれ、二人は手や足を拘束され、身動きがまったく取れない状態になった。
「少し痛いかもしれないけど、我慢してくれよ」
「せ……先生、早く……してよ。アリサちゃんだけじゃなくて……私もそろそろ……限界」
「はいはい」
カトウは両手にリボルバーを構えて、二人に向ける。
「……てか、大丈夫なんですよね? ……信じていいんですね?」
「安心しろ。俺の薬に不可能なんてない!!」
直後、二発の銃声が森に響きわたった。
◆ ◆ ◆
「……さすがはティガウロが見込んだ二人だな。一筋縄ではいかないな」
ユリウスは、コウとピピリカを相手に苦戦していた。
二人が握る武器は、疑似聖剣と疑似聖槍というティガウロの力で造りあげた傑作。本物とは異なり、能力は使えないが、それでも他の性能面は完璧な出来だった。
本来は使えないようにしてあるが、騎士の制服に付けられた転移機能を利用し、手持ちの武器が壊れた時に、手元へ来る仕組みになっている。
そんな武器を使った二人の実力は、それぞれ数倍にはね上がる。
しかし、ユリウスには聖剣レーヴァテインがあった。
魔力を込めることで、その速さを上げる能力『神速』、その速さは人には見えない速度にすることも可能だった。
その能力を使って彼らの攻撃を避けることは容易かった。
しかし、問題は二人を解放する方法だった。