22話 仲間との戦い3
山の上空を羽ばたく白い鳥は、見失った主人を探していた。
キャンプ地からいきなり何処かへと行ってしまったので、上空から探すことにしたのだが、爆発したり、雷が落ちたりと各地で色んなことが起こっているのを白い鳥上空から見下ろしていたのだった。
先程まで麓の方に行っていたのだが、そこには主人に生意気な口を聞いていた金髪の下等生物と、二人の下等生物がおり、金髪が攻撃されているのを見て、「いい気味だ」とほくそ笑みながら、三人を放置した。
上気分で上の方へと向かっている途中でまた見知った人物を見つけた。
(……なぜあの金髪は仲間同士で戦ってんだ? ……人間ってのはよくわからねぇなぁ? ご主人様もカトレア様もベルフェゴール様も何処にもいねぇし、どうすっかな~…………ん? ありゃご主人様と一緒にいた人間だったな。あいつも仲間と戦ってんのか? ちょうどいいや。あの人間なら、ご主人様の居場所知ってんだろ。まぁ、知能の低い猿でも、それくらいわかんだろ)
白い鳥は、下にいるカトウ達三人の元に降りたった。
いきなり目の前に現れた小さな白い鳥を見て、カトウは目を見開いた。
「あぁ……お前って、マルクトが見つけてきたやつだったか? 確か、トリって名前だったよな?」
その黒髪の人間に喋ろうとすると、鳴き声しか発することができなかった。
(ちっ、この体じゃうまく喋れねぇな。……なんか平常そうなのはこの雄猿だけみてぇだし。状況聞くためだしご主人様も許してくださるだろ)
むしろ少しだけお仕置きされることに期待を抱いたトリは、カトウの方を向いた。
「おいそこの雄猿、このトリ様が手伝ってやるから状況を詳しく教えな!」
いきなり脳に直接聞こえてきた声に、カトウは困惑した。
「えっ? なんか聞こえたんだが、誰かからの通信魔法か?」
「はっ、無能な猿は考え方が古臭いな。これは俺様が直接お前の脳内に語りかけてんだ。他の奴らには聞こえねぇから、ご主人様の命令違反にもならねぇだろ。……まぁ、お仕置きされるならそれでもいいんだがな」
さっきから、こちらを見てくる白い鳥が、こっちを見て恍惚な笑みを浮かべる。
(まさかこの鳥が喋ってんのか!? ……まぁ、マルクトに近付いてる時点で普通の鳥だとは思っていなかったんだが、……まさかこんな変態だったとは……まさか、マルクトが送ってくれた応援か?)
それは、この状況において一番考えられることだったが、実はただの偶然であった。
爆発のあった位置に向かっていたトリは、落雷の威力にびびり麓の方へと飛んでいっていた。だがそこにいたのは自分の嫌いな金髪だったため、カトウのいる位置に偶然やって来たのだった。
それでも、カトウにとってはやっと見えた光明だった。
「少し時間が欲しい……一分だ! 一分間アリサとメルランの攻撃から俺を守ってくれないか! それから、二人に攻撃を仕掛けないで欲しい」
それは無理なお願いだった。
魔法が苦手でも、長年剣の腕を磨いていたアリサは決して弱くない。そのうえ、カトウが認める程の実力者でありつつ、魔導学園エスカトーレの教師をやっているメルランがいるのだ。
操られていることで、二人は一切の加減をしていない。
そんな二人から攻撃を一分間も凌ぐのは難しいことだとカトウ自身もわかっていた。
「なんだその程度でいいのか? 俺様なら、何ヵ月だって防いでやるぜ?」
しかし、カトウの予想に反して目の前にいるトリは、そんなことを言い始めた。
若干不安になったが、それでもカトウにはそれにかけることしか出来なかった。
「一分で充分だ」
「良いだろう。ただし、これが終わったら、俺をご主人様の下に案内しな!」
こうして、カトウの戦いにマルクトのペットが加わった。
◆ ◆ ◆
「サンダーギガボルト!!」
溜めに貯めたメルランの光属性の雷魔法が襲ってくる。
カトウがトリと話している間もずっと魔力を練り続けていたメルランが放った魔法は、彼女が唯一使える大型魔法だった。
その威力は、彼女に長年魔法を教えていたカトウにはわかる。
「止まれ!!」
カトウは急いでその場から離脱しようとするが、脳に聞こえた制止の声でその足を止めた。
「おいおい、一分間俺様が守ってやるって言ったのに、安全な場所から移動しようなんて、人間は本当に頭が悪いな! 俺様がただの可愛い愛玩動物だと思ったら大間違いだぜ! 見せてやるよ俺様の力をなっ! フェザーシールド!!」
トリがその白い翼を広げるとそこを中心に半径五メートルの円が地面に描かれた。
半球体の透明な何かに覆われたカトウは、他の二人とその円を境に分断され、メルランが放った雷撃は、その透明なシールドに防がれた。
「「えっ!?」」
その防御力に放ったメルランも、守られたカトウも驚いたような声をあげる。
「なんて声をあげてやがる。白豪という称号を魔王様から承った俺様が、この程度の攻撃を防げねぇ訳ねぇだろ! それよりもさっさとお前がやれることをやりな! 一分と言ったなら有言実行してみやがれ!」
「あ……ああ…………まずは俺自身を万全の状態にする」
頭を切り替えたカトウの体から、いきなり蒸気にも見える白い煙が噴き出し始めた。
その異常な光景に白豪は、「なんだありゃ」と呟くが、そのよく見える目には、それが粉末状の何かだということがわかった。
「…………感謝するぜ。お前のお陰で、なんとかなりそうだ! ……まず二十秒」
そして、煙が晴れた時、ぼろぼろだったカトウの体には、火傷の跡も、斬られた筈の痛々しい傷も全て無くなっていた。