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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第5章 支配者編
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22話 仲間との戦い2

 母を失ってからの父は別人のように変わり果ててしまった。

 軍務にも身が入らなくなり、その姿はまるで魂の抜けた抜け殻のように思えた。

 酒に溺れ、とうとう仕事も辞めさせられてしまった父の姿はもう生きるのを諦めたかのように見える程、酷いものだった。

 幼く、何の力もない私はそんな父の姿を見ていたくなくて、クリンゴマ王国の王様に助けを求めに行った。

 だけど、何も知らない門番は私を突き飛ばして、面会を拒んだ。何度も、何度も、泣きながら頼んでも、結局聞き入れてくれることはなかった。

 それでも諦めず、何日も何週間も、朝から晩までずっと頼みこみに行った。


 そんなことを続けていたある日、いつものように拒まれている私のもとに、一人の男性が現れた。

 白い軍服に身を包んだ紫色の髪を綺麗に整えていた男性。その人はよく見知った人物だった。

 私を自分の姪だと言って門番たちを萎縮させたこの人は、シーガルというお父さんの親友だった。


         ◆ ◆ ◆


 シーガルという名前を聞いた瞬間、メルランの顔は真っ青になった。

 マルクトからの情報によると、シーガル・マルキュディスとは学園を襲わせたフェンリルが所属している組織『プランク』のボスだった男だ。

 マゼンタ王国の城に、幹部を含めた少数で攻め込ませ、城を後一歩のところまで落としかけた程の組織をまとめるカリスマ。しかも、彼の持つルーンは凶悪なもので、変身した相手の能力を扱えるというとんでもないものだったらしい。


(あのマルクト先生が実際に、ルーンを使われたことで苦戦を強いられたと言っていた程の人物がアリサちゃんの叔父!? そんなの聞いてないですよ!)

 しかし、アリサの話はこれで終わりじゃなかった。


         ◆ ◆ ◆


 私を庇ってくれたシーガルさんは、私と共に家へと足を運んでくれた。

 シーガルさんは、真っ昼間から酒を飲み続けている私の父を見てため息を吐くと、私に「外へ出ていなさい」と言ってきた。

 言う通りにし、しばらく外に出ていると、家の中から騒音が聞こえてきた。

 不安にはなったが、私は言われた通り外に居続けた。

 しばらくすると、騒音が止んだ。

 あんなにうるさかったのに、いきなりピタッと止んだ。

 私は気になって、玄関の扉を開け中に入った。


 二人がいた部屋の家具はぼろぼろになっていて、それに負けないくらい二人もぼろぼろになっていた。

「……本気なのか?」

「……当たり前だ! 姉さんを殺した国に復讐する事の何がいけないと言うんだ!! お前も一緒に来い! 私と共に世界を変えよう!!」

 鬼気迫る迫力で父に言ったシーガルさんが、私には少し怖くて、言葉をかけるのも躊躇ってしまった。

「…………娘のアリサに……あの子自身に進路を選ばせると約束してくれ。そのために出来る限りの協力をしてあげてほしい。……それを守ってくれるなら、俺の力を貸そう」

「ああ、もちろんだ。あの子には幸せになってほしいのは私も一緒だ! 喜んで協力しよう」


 そう言って手を取り合う二人。その時のお父さんは、前よりも真っ直ぐ前を見ていて、それが私にはとても嬉しかった。


 それが、私達の始まりの時だった。


         ◆ ◆ ◆


「それから、お父さんの力に少しでもなれるように、力をつけました。父はミッションが始まる直前まで、私にこの組織を抜けろと言ってきました。それでも辞めずに続けた結果が今の私です。……でも、後悔なんかしていません。あの組織にいたから、沢山の仲間に出会え、死んだ父の最後にたちあえた。カトウ先生達に新しい道を提示してもらえた。…………メルラン先生、私ね、お父さんが死んだ後、一度自殺しようとしたんです」

「えっ?」

「だけど、直前でカトウ先生に止められたんです。『なんでそんなつまらないことに労力を注ぎこんでんだ? それよりも外を見てみろよ! 狭い世界にいちゃ見られなかったものがこの世界には沢山あるんだぜ! さぁ行くぞ。今日は何でも好きなもん買ってやるから、楽しんでいくぞ!』って、いきなり部屋に入ってきて、私の持っていたナイフを取りあげてそう言ったんです。その日、カトウ先生とミチルさんに王都中連れ回されました。洋服が売ってあるお店や、カトウ先生の親友がやってるレストランや、カトウ先生の恩師がだらけているお店といった色んな店を回ったんです。……そして、絶望にうちひしがれていたはずの私はいつの間にか笑っていたんです。……だから、あの人が教えてくれたものを覚えていないって言った時、つい、かっとなってしまったんです。……覚悟していたはずなのに。仕方ないってわかっているのに…………でも、私はあんなことしちゃうなんて。………………メルラン先生、お話聞いてくださってありがとうございました。私、カトウ先生にちゃんと謝ってきます!」

「……うん、私もそれがいいと思うわ」

 メルランがそう言うと、メルランを置いてアリサは部屋を出ていってしまった。


         ◆ ◆ ◆


(彼女にとって、カトウ先生は自分の道を照らしてくれた大切な存在で、いてはならない存在。そんなカトウ先生はアリサちゃんの攻撃を受ける瞬間、動きに迷いがある。多分カトウ先生はまだ、あの件で罪悪感を抱いてるから、それが動きに影響しているのね。このままじゃまずいわ。……といっても、私に何か出来るとは……)

 メルランが、どうすれば助けられるのかを悩んでいると、上空に白い影が見えた。

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