21話 支配者との戦い5
「クックックッ……。せっかく命をかけて作り出した時間だったのに、残念だったな。最早、お前に勝機などない」
いきなり、雰囲気が変わったソラ。それは人ならざる者の雰囲気を纏っていた。
最初は、多少おかしいと感じはしたものの、目の前にいる少年はソラだと認識した。仲の良かったレンにあんなことをしていたが、それでも人間だった。
そして、先程現れたソラは疑うことなく、普段のソラだった。
いつも、俺に挑戦的な視線を送り続けた少年。いつもとは違い、哀しそうな雰囲気を醸し出していたが、間違いなくソラだと感じた。
彼を守れなかったことも悔やまれるが、今はそれを言っている場合じゃなかった。
目の前に現れた存在、人間では発することのできない妖気を発している。先程までとは異なり、完全な『魔』という存在になった。
魔人が人間になる方法があるように、人間が魔族になる方法は確かにあるが、こんな短期間でなれるものじゃない。
『魔界を私の手から奪ったものがすぐ近くまで来ておる』
急にグリルから伝えられた言葉が脳裏を過る。
確信はなかった。ただ、忠告を受けた直後に、妖気を纏った存在が現れた。それが、偶然という言葉で片付けてはならない気がした。
(しかし、ソラは十五歳だ。ソラが元々魔人だったとは考えにくい。なにより、この状況、前にも感じたことが……そうだ! 確か、ダレンって教師の時と似ているな)
見た目が少し異なるが、それでも妖気を纏っているところや、雰囲気が少し似ている。…………ただ、ソラの方が放つ威圧感やオーラが桁違いというぐらいか。
「…………お前は何者だ?」
聞かない訳にはいかなかった。ソラの稼いだ時間が無駄だったかどうかは俺のこの後にかかっている。
もちろん、俺の出せる最大限の力を、ソラとレンを助けるために使うが、それでも、もしもの時はーー
「今から死に行く者に名乗る名などない。ダークマター」
目を離した訳でも、集中力を欠いた訳でもない。ただ、考えたくもない最悪な結果を想定してしまったために、一瞬だけ、マルクトの覚悟がぐらついた。
だからといって、本来のマルクトであれば、その一瞬が致命傷になることはなかった。
ただ、相手がおかしかっただけだ。
「!? セイントグロリアス!」
先程までとは比べものにならないレベルの威力を持った一撃、それを瞬時に編み出した魔人の攻撃に対して、マルクトも最強の光属性魔法で迎え撃つ。
暗く一点に凝縮された闇と、明るく全てを飲み込む光の渦、闇と光が交差するが、数秒の拮抗を制したのは闇だった。
闇は光を飲み込み、その威力を食らい、マルクトに襲いかかる。
術式も充分ではなく、魔力を込める時間すらもらえなかったことも影響したのだろう。
光属性最強の攻撃魔法は十全の力を発揮出来ず、敗れ去った。
しかし、それがマルクトの敗北につながったのかと言われれば、そうではなかった。
「あ……危なかった」
目の前で消し炭になっている大地を見ながら、マルクトはそういう感想を抱いた。
咄嗟に転移魔法を発動していなかったらひとたまりもなかっただろう。
「余所見をしておいて良いのか?」
横目で見たそいつは、次の攻撃魔法を用意している様子だった。しかも、その魔法は先程よりも威力が強いのだと一目でわかった。
(…………あ~止めだ、止め! こんな戦い方じゃ勝てないわ。無理、絶対無理)
「ほう? 我輩の魔法を見ても、魔力を練らぬのか?」
俺の態度を見て、不思議に思ったそいつが話しかけてくるが、魔力を練る必要なんてないんだから、練る訳ない。
「…………今ので諦めたか。……つまらぬ。これで死ね! ダークネビュラ」
魔人が放った魔法は、昼間を夜だと錯覚させてしまうほどの闇を放出していた。
しかし、闇がディザイアの手を離れた瞬間、闇は幾千もの光に撃ち抜かれ、威力は徐々に弱まっていき、最終的に跡形もなく消えてしまった。