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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第2章 入学編
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4話 入学1


 今日から学校に行けることが嬉しくて、今日はいつもと違う髪型にしてほしいと、ベルは自分の側近でもあり、自分の数少ない理解者でもあるカトレアに頼んでいた。

「これでいかがでしょうか?」

 カトレアが自信満々の表情でベルに確認する。

 ベルはまじまじと姿見を見た。

 胸元に六芒星のエンブレムがついた魔導学園エスカトーレの白い制服に身を包み、カトレアに手入れしてもらった新しい髪型のベルがそこには映っていた。

 ベルの髪先は少し内巻きになっており、幼い彼女にはよく似合っていた。

「ありがとう、カトレア」

 ベルは嬉しそうに姿見の前で何度もポーズを取ると、満足した様子でカトレアに礼を述べた。


 この日のために髪型を変えたベルの目的は一つ。

 マルクトに自分だけ子ども扱いされるのが我慢ならない。

 だから今年新しくできたお兄さんに他の皆と同じく大人のように扱って欲しかったのである。

(今日こそお兄さんに大人っぽいって思ってもらわないと!)

 ベルはそう意気込むと、マルクトの部屋に向かうため、部屋を飛び出して行った。


 そんな様子のベルを見てカトレアは思った。

(あんなに学校に通うのを楽しみにしていらっしゃったとは、マルクト様には感謝してもしきれませんね……)

 しかし、カトレアは同時にこうも思う。

 自分の主の正体がばれたときの周りの対応はおそらく、ばれる前とは一線を画すものになるだろう。そうなった時、主を心の底から支えられるのは自分をおいて他にいないだろう。

 確かにマルクトの強さを身をもって知っている自分としては、マルクトが死ぬなんてことはまったく考えられない。

 だが、いずれマルクトには伝えなくてはならないだろう。

 先代魔王が何故この世界に来たのかを。

 だが、今はまだ時期ではないとも考えている。

 いくらマルクトが強いとはいえ、彼一人ではどうしようもないのだから。


 ◆ ◆ ◆

 

 ベルはマルクトの部屋の前に立つと、ノックをせずに部屋の扉を開けた。

 部屋に入ると、マルクトは昨日の夜と同じように部屋の机に突っ伏したまんまの体勢で寝ていた。

 

 昨夜のマルクトは結局寝かせてもらえず、クリストファーにやっと一時間程度寝ていいと許可されたのであった。

 ちなみにまだ十五分も寝てなかったりする。

 とりあえず、ベルはマルクトが寝ていては自分の姿を見てもらえないと思い、大声でマルクトを呼んだ。

「起きてー!!」

 しかし、マルクトはなぜか微動だにしない。

 なかなか起きないマルクトを見て下唇を噛むベル。彼女はふと、昨日の出来事を思い出した。

 昨日の夜はああすれば起きたではないか。

 ベルは机の横においてあった椅子を、寝ているマルクトの横まで運び、椅子をそこに置いた。そして、彼女は椅子に立ってマルクトの耳元まで寄った。

「朝だよ。お兄ちゃん、起きて」

 優しく声をかけた次の瞬間、その甘い言葉で、意識が覚醒したマルクトは思いっきり顔をあげた。

 すると、マルクトに寄っていたベルのおでこに頭突きがクリティカルヒットする。

「もう朝か!!」

「イダッ!?」

 頭に硬い感触を感じた直後に悲鳴が聞こえた為、マルクトは横を見る。すると、ベルが椅子の上で頭をおさえてうずくまっていた。

 マルクトはおそるおそる尋ねる。

「すまんベル。……大丈夫か?」

「大丈夫じゃないもん! 痛かったもん!! うわぁああん!!」

 ベルは大声でまくしたてると、泣いてしまった。

 マルクトがどうすればいいのか迷っていると、ベルの髪型がいつもと違うことに気付いた。

「あれ? ベル、髪型変えたのか? 似合っているな。かわいいぞ」

 

 とりあえず話をそらさなくてはベルの泣き声で、皆が来てしまう。

 そんな考えに至ったマルクトはベルの頭を撫でて機嫌を直そうと試みる。

 すると、彼女は泣くのを止め、マルクトの方を涙目で見た

「……ほんと?」

 その言葉にマルクトは苦笑を浮かべながら頷いた。

「ああ。よく似合ってるぞ」

「……えへへ」

 ベルはマルクトに髪型をほめられたうえ、頭を撫でられたことですぐに機嫌がなおった。

 マルクトはなんとかベルを泣き止ませることに成功した。


 ◆ ◆ ◆


 マルクトが朝からベルに頭突きをしてしまう事件を起こしていたが、逆におかげで、眠気が完全に吹き飛んでいた。

 マルクトは、ベルと手を繋ぎながら一緒に朝食に向かった。そこでクリストファーが作ってくれた朝食を食べる。

 そこにメグミとクレフィも合流した。三人とも魔導学園エスカトーレの白い制服に身を包んでいる。ちなみに、マルクトは白い襟付きのシャツに青いネクタイをし、下は黒いズボンにベルトをしている。そして、シャツの上に研究所で愛用していた白衣を羽織っていた。

 四人で朝食を食べているとメグミは気付いてしまった。

「あれ? ベルちゃん……おでこ赤くないですか?」


 ……やべ……そういえば、傷治すの忘れてたな。


「お兄ちゃんに頭突きされたの」

 目玉焼きを刺しながら口に運んでいたベルの言葉により、メグミとカトレアの視線が、マルクトに突き刺さる。 

「どういうことでしょうか? 旦那様」

 カトレアが顔を傾けながら聞いてくる。

(……カトレアさん目が怖いです……)

 マルクトはゆっくりとカトレアから顔をそむける。

「一応言い訳するが……決してわざとではないぞ?」

「わざとでなければ頭突きしても良いと?」

「いえ……すいません」

 マルクトは彼女の目の圧力に屈してしまった。


 マルクトはとりあえずベルのおでこに手を当てた。

 すると、ベルのおでこは赤みが徐々にひいていき、いつもの可愛らしい彼女のおでこに戻った。

 しかし、ベルのおでこの痛みはひいたが、カトレアの怒りはひかなかった。


 ◆ ◆ ◆

 

 入学初日だというのに、カトレアから晩飯抜きを言い渡されて気分が落ち込んでいるマルクトと、そんなマルクトに少し同情するメグミ、そして今朝のことなど、もう全く気にしていないベルの三人は学校に到着した。


 学校の中心にでかでかと建っている丸い屋根のついた建造物。

 その建造物を囲むように建っている学部棟。

 正門からでも見える建造物の奥にある時計台。

 今日のこの日を楽しみにしていたベルとメグミの二人は、気分が高揚してくる。

 そんな二人の様子を見て、マルクトは思う。

(入学させて良かったかもな……)


 そして、三人は魔導学園エスカトーレの敷地に踏み入った。


 この時のマルクトとベルの二人は知らなかった。

 彼らがこの学園に入ったことにより、この学園に脅威が招かれることを。

 そして、その災禍に巻き込まれることを。


 これから、第2章入学編が始まります。

 これからもよろしくお願いします


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