21話 支配者との戦い1
(ここはどこだ?)
目を覚ましたマルクトがいた場所は、椅子の上でも、ましてや山の中とも言えないような場所だった。
木も土もほとんど何もない。
あるのは、水のない川、土も石もない岸辺、何故そう思ったのかは分からなかったが、ただ、感覚が、それは岸辺と川であると訴えかけてきた。
しかし、同時にこの場所に見覚えがあることを思い出した。
「……ここって、……あの時の?」
以前、シズカと会った場所で間違いないと思えた。
それなら、またこの場所でシズカに会える?
「! そういえば前回と違って声がでてる!?」
その事実に気付いた俺は、シズカを探すことにした。
「シズカーっ!! どこにいるーっ!」
前回と違って、最初の場所にはいなかったから、自分の動ける範囲で川に沿って探す。
何度も何度も呼び掛けるが、反応は一切返ってこなかった。
どれくらい走ったのか分からなかったが、それでも探し続けると、ようやく人影を見つけることができた。
「シズカ!」
「残念だが、シズカ殿は来ぬぞ」
その声は女性のものとは思えない程低かった。
だが、他にこの場所で頼りになる者もいないため、あえて近付くことにした。
そこにいたのは、自分と同じくらいの身長ではあるが、マルクトとは異なり、あからさまにごつい男だった。金髪で体格の良い男は、腕を組み、堂々と立っていた。
「貴公とは初めましてだったな。私の名はグリモワールだ。気軽にグリルとでも呼んでくれ」
グリルと言う名前に、マルクトは一人しか思い当たる人物がいなかった。
「グリル? ……ってことは、あんたがベルの父親か? へ~、意外と接しやすい感じなんだな?」
「この半年間は、ほとんど暇を持て余していたからな。生きとる人間と話すのは久しぶりなのだ。それに、貴公には、ベルフェゴールが世話になっているしな。何かお礼をとずっと思っておったのだ。……少し話さんか?」
マルクトも彼とは話してみたかったが、マルクトにもやることがあった。
「悪いな。俺も話したいのは山々だが、シズカを探さないとーー」
「さっきも言ったとは思うが、シズカ殿なら来ぬぞ」
魔王グリルは、マルクトの希望を打ち砕いた。
◆ ◆ ◆
「シズカ殿は、一度しか使えぬ権利を先日行使した。もう二度と、現世との接触は出来ん。……まぁ、それはこちらも同様なのだがな」
「そちらのルールはわかった。シズカとはあれが最後の機会だったということだな。…………となると、俺には一つ疑問が出来た。何故、あんたは面識のない俺を呼び出した? ベルやカトレア、お前のペットと、俺以外にも選択肢はあったんじゃないのか?」
「それは違うぞ。私には、ほとんど選択肢がなかった。この世界では、親しい者と話す場合、デメリットが多いのだ。一度でも会ったことがある場合、シズカ殿の時みたいに、いろいろと誓約が行われる。身動きを封じたり、相手の声を出させなくしたり、会う時間を減らされたり、と様々な誓約に縛られる。それでも、彼女はたった一度きりの機会を犠牲にした。彼女も他にいろいろと言いたいことがあっただろう。横で見ていた私には分かる。……それでも、貴公にあの言葉を伝えた意味が分からんのか?」
いきなり放たれたその鬼気迫る迫力は、元魔王というだけのことはあった。
グリルは怒っている。それはおそらく、俺がその忠告に対して、答えを見つけられていなかったからだ。
「時間がないから、端的に言うぞ。魔界を私の手から奪ったものがすぐ近くまで来ておる。名はディザイア、詳しくはカトレアから聞け。奴が、次に狙っておるのはこの世界だ。
それからベルフェゴールを絶対奴の手に渡すな! これは親としての願いでもあるが、元魔王としての忠告でもある。奴は管理者の力が私の息子にいくと思っておったが、私の意思にも、奴の意思にも反して、それはベルフェゴールの中で眠っておる。
奴はすぐそこまで近付いておる。例え、親しい友人だろうが、貴公に忠誠を誓っていようが、絶対に信じるでないぞ!!」
グリルがそれを言い終えると、俺とグリルが存在している世界が崩壊を始めた。
「……タイムリミットか」
グリルは煩わしそうに舌打ちするが、最後に一つだけ、と言ってきた。
「私の魂とシズカ殿の魂はサリエルが持っておる。奴は己の持つルーンで、一度ダメージを与えた者の魂を奪うことができる。勿論、抵抗は可能だが、死ねば奴の下へいく。おそらく貴公は、その情報を知っていようが、サリエルを叩きのめしに行くのだろう? ならば、知っておけ」
グリルがその言葉を言い終えると、世界は完全に崩壊した。