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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第5章 支配者編
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20話 キャンプ13

「……とまぁ、ユリウスが濡れている岩から滑って落ちたから、ティガウロは身を呈して守った訳だ」

 俺はどういった経緯で自分の兄が怪我を負ったのか、エリスとエリナの二人に教えた。

 二人は、「それだけであんな重症になるんですか?」と少しだけ疑っていたが、それに関しては本当に運が悪かったとしか言いようがなかった。咄嗟のことで受け身が取れなかったのだ。

 その事を話すと二人も納得したようだ。


 今回の件にアリスが関与していることは、話したくなかったため、ユリウスが釣りの途中で岩から滑って落ちたことにした。

 実際、あの辺の岩はぬめっていたし、滑ったとしてもおかしくはない。

 実際、この場にいないのは、カレー担当のメグミと配膳担当のクレフィ、そして、治療後に安静と言い渡され、テントに寝ているティガウロだけだった。要するに、その場にいた三人もこの話で納得しているということだ。

 ユリウスが妹のことを庇うのは当然として、カトウに関しては、そういう秘密にしておきたいことを勝手に暴いたユリウスの責任だ、と言って、アリスに関しては悪くないと主張。むしろ、やって当然。とのこと。

 まぁ、カトウの意見には同意する。

 俺だって覗かれたくない闇の一つや二つ隠している訳だし。


 ただ、ユリウスもここ最近、《ルーン・真実》がたまに暴発すると言ってきた。六月の事件から、気になっただけで、ルーンが発動する事がしばしば見られ、今回のだって、気にはなったが、知りたいとまでは思っていなかったらしい。

 実際、信用できる内容か、疑わしかったが、俺は嘘だと思えなかった。

 アリスを溺愛しているユリウスが、アリスの心を覗こうとするとは考えにくい。

 そんなことをすれば、絶対嫌われるのは目に見えていた。

 しかし、それはそれで問題になる。


 気になっただけで、心の中を覗かれるのはきつすぎる。実際、ユリウスの能力は謎が多いのだ。

 ごく稀に見えない人物がいると聞いたことがあるし、内容が鮮明だったり、簡単なものだったりあるらしい。

 例えば、プランクの下っ端から聞き出した情報は、敵の数や作戦内容など鮮明なものだった。

 しかし、アリスから引き出せた内容は、アリスが俺にふられた、という情報だけだったと本人から聞いた。

 まぁ、ユリウスの能力に関しては本人にしか使えないからよくわからないし、…………とりあえず放置でいいか。


         ◆ ◆ ◆


 俺たちの前に、カレーライスが置かれ、食卓の準備が整った。

 ティガウロを除いた全員が席に座る。

「じゃあ、食べるか! いただきます!」

「「「「いただきます!!」」」」


 今日の夕食の内容は、釣りすぎた魚の塩焼きと、メグミ特製カレーライスに、サラダといった至って普通の夕食だった。

 ちなみに、魚釣りは俺の大敗だった。勝負を受ける前まで勝算があったんだけどね。……ユリウスのカリスマが弱すぎて駄目だったよ。

 お陰でカトウの言うこと聞かなきゃならなくなってしまった。


 俺がため息をついていると、隣に座っていたエリスが急に寝てしまった。

 なんだ?

 遊び疲れたのか?

 しかし、この現象は他の席でも見受けられた。

 特にカレーの中へと顔を突っ込んだカトウに関しては、さすがの俺も驚いた。

 いったい何があったのかと思いつつ、今生き残っているメンバーがベルとメグミぐらいしかいなかった。

 ベルに関しては震える手で、メグミが作ったカレーを掬っている。その表情が恐怖に染まっているのを俺は見逃さなかった。

「……ねぇ、これって誰が作ったの?」


 震えた指の先にはカレーが置いてあり、ベルの言葉で恥ずかしそうにメグミが手を上げる。


 その様子から、全員の皿を一瞥する。

 皆の皿には、カレーを食べた跡があり、時差はあっただろうが、全員カレーを食べて、気を失っているようだ。


「なぁメグミ、これってちゃんと味見したのか?」

「もちろんです。今日のは自信作なんですよ!」

 そう言って見せる彼女の皿は、ほとんどカレーが残ってはいなかった。


「……前に、メグミが自信作って言って作ったグラタンは、メグミの両親に天国を見せたって言ってた。ちなみに、私は普通に死にかけた」

 ベルが語った真実に、俺は驚愕する。

 なんで、それを平然と皆に振る舞えるのか、とか、なんで、それを平然と食えるのか、といろいろ言いたかったが、それを言うのは、後にしよう。

 まずは、このカレーを食べてから考えよう。

 昔、一人で食料調達して、料理までやった身からしたら、食べずに残すなんて考えられない。

 とまぁ、最もらしいことを言ってはみたが、要するに、ちょっと味が気になった。


 俺は、そのカレーを手に持つスプーンで掬う。

 見た目は普通、だからこそ、なんか恐ろしい。

 冷や汗が首を伝うのを感じる。全神経が目の前にあるものが危険だと伝えてくる。

 こういうのって、気付く前に食べるのと、気付いてから食べるのでは、恐怖の度合いが違うような。とそんなどうでもいいことを考えながら、俺は、勇気を出して、そのカレーを口に含む。


「………メグミ」

「はい」

「今後厨房に立つの禁止」

「そんな~」

 そして俺の意識は暗い空間へと誘われた。


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