20話 キャンプ9
「………ねぇ、お姉ちゃん。こんなところで見ていていいの?」
茂みの中で、二人のやり取りを聞いていたエリナは、同じく覗いていたエリスに、声をかける。
「う~ん、でも、なんか入っていい雰囲気じゃなくない? なんか二人だけでやった方がこのままいい気がするんだけど」
「でも、そしたら、遊ぶの止めてここにきた意味がないじゃない。こんなところで覗いてないでさっさと行こうよ」
「へ~、エリナちゃんって学校以外だとお姉ちゃんって呼んでるのか」
「レンくん!? なんでここに!?」
手伝いに行こうとしていたエリナに後ろから声がかけられた。
出鼻を挫かれたエリナが後ろへ振り向くとそこには二人の人間が立っていた。
「お邪魔してます」
「よっす~」
「ユウキ君まで! ……ていうかレン君さ~、こんなところで何してる訳? 覗き? 先生に言うよ?」
「エリスちゃんがそれを言うのかよ。まぁ、俺は単純にソラもユウキも遊んでくれなかったから、ユウキの応援しに来ただけだよ。まぁ、ユウキは、覗きだもんな」
「ちちち……違うよ! 僕はただ、クレフィ先輩の負担が減るように手伝おうと思っただけで!」
「おいおい、そんな大声だと憧れのクレフィ先輩に聞こえちゃうぜ~」
「へ~、ユウキ君ってクレフィ先輩のこと好きだったんだ~」
「エ……エリスちゃんまで!?」
ニヤニヤしている二人の友人が、からかってくるため、ユウキは必死に否定するのだが、二人は一向にやめる気は無いようだ。
エリナも何故か微笑ましいものでも見ているかのような顔で、こちらを見てくる。
結局少しの間、二人にからかわれ続けたが、最終的には、
「もういい! ぼ……僕も手伝ってくる!」
とユウキが言ったため、答えは聞けずじまいになった。
それに便乗して、エリスとエリナの双子も手伝いに行った。
一人残されたレンは、やる気はなかったのだが、なんか寂しくなったので、一緒に手伝うこととなった。
◆ ◆ ◆
「お~い、ユウキ~大丈夫か~?」
「どうしたのでしょうか? 暑さにでもやられたのでしょうか?」
「……クレフィ先輩、さすがにそれは冗談……言ってないみたいっすね」
レンが振り向けば、そこには頭に疑問符浮かべた水着姿の女性が立っている。
シンプルな白であるにも関わらず、……いや、シンプルだからこそ、彼女本来の魅力を引き立てている水着。その破壊力は、ユウキが鼻血を流してぶっ倒れたほどである。
何故こんなことになったのか。それは一時間前にさかのぼる。
◆ ◆ ◆
六人で皿洗いや片付けをすると、それらは、思いの外早く終わってしまった。
「皆さんのお陰で予想よりも早く終わりました。これからは当初の予定通り、各自、自由にしてください」
クレフィがそう言うと、他の五人は終わったことを喜んでいたり、疲れた~と言いながら背伸びをしたりと各々、いろんな反応を見せた。
夕食の仕込みでもするか、とテントにクレフィが戻ろうとした時だった。
メグミがクレフィを遊びに誘った。
意外そうな顔を見せたクレフィだったが、時間もまだたっぷりあったので、賛同する事にした。
「はいは~い! 俺も行きた~い!」
「レン君はだめよ。でもユウキ君はいいわよ」
「は? なんで俺は駄目でユウキはいいんだよ?」
「レン君のことだから、絶対、私たちの水着見るでしょ!」
「はぁ? 誰がお前のような胸無しの水着なんか見るんだよ!」
この後、数発エリスがレンを殴ったことは言うまでもないだろう。
◆ ◆ ◆
水と戯れる少女たち、それぞれ違った水着姿、違った体型、それぞれにあった良さを引き出している。四人の美少女の戯れる姿は、レンにとって眼福以外の何物でもなかった。
先程、ああは言ったが、エリスだって、人気のある美少女なのだ。しかも、他の三人が着けているビキニとは違い、変わった水着を着けている。
レンにはそれが何か気になって気になってしょうがなかった。
すると、ちょうどいいタイミングでエリスが、こっちにやって来た。
「水ちょうだ~い」
「ほらよ。……ところでさ、お前のそれって水着なのか? 服にしか見えないんだがーー」
「だよね。そう思うよね! でもこれってカトウ先生の国ではちゃんとした水着らしいよ。何でもワンピースとかいうやつらしくて」
「へ~、てことは、カトウ先生から貰ったのか?」
「そうだよ。去年の誕生日にカトウ先生とガウ兄がエリナのぶんと一緒に作ってくれたんだよね」
彼女の着ている水色のワンピースは、細く引き締まった体を持つ彼女によく似合っていた。
対称的に、彼女の妹、エリナに関しては、薄い緑のビキニを着ていた。腰にはパレオを巻いており、頭には麦わら帽子を被ったいる。レンとしても目が離せない美しさがあった。
エリスの話によると、あれもカトウ先生のデザインらしい。
(ありがとう。一年前のカトウ先生!)
レンは心の中で、この素晴らしいものを見せてくれた教師にお礼を言った。
メグミはというと、普通の水着だった。赤いビキニで、白い水玉模様が入ったもの。
しかし、何が恐ろしいって彼女の水着は、サイズがあってなかったのだ。はち切れんばかりの胸が、水着に締め付けられて、谷間が強調されている。
彼女が言い訳するように「去年買ったやつだから、少しサイズが……」と言った瞬間、エリスが落ち込んだほどだ。
「……私だって、去年貰ったやつなのに……去年貰ったやつなのに着れちゃった。これ去年ぴったりだったのに」
隣で同じように、メグミの胸を見ていたエリスがぼそぼそと呟くのが聞こえた。
……今度から胸が小さいことをいじるのやめよ。
そう心に決めたレンだった。
小さくたっていいじゃない。人間だもの