20話 キャンプ6
コカトリスをどうするか決定したマルクトは、他の二人が納得していないにも関わらず、防音結界の外へと出ていった。
外では他のメンバーがそれぞれの馬車に乗っており、三人の帰りを今か今かと心待ちにしていた。
「師匠! なに、その鳥~?」
マルクトはコカトリスを連れて、自分の乗る馬車へと戻ると、それを他の四人が嬉々として迎え入れてくれた。
ベルの興味はマルクトが帰ってきたことよりも、マルクトの肩に止まっている鳥の方に興味がいっており、その反応でお帰りなさい、と、マルクトとユリウスの二人に言っていた他の三人も、その鳥に視点が移る。
「確かに、こんな鳥見たことありませんね~」
「白くて綺麗な鳥だね~。ねっ、アリス」
「はい。とても可愛らしい鳥です! 先生、この鳥いったいどうなされたのですか?」
「さっき捕獲したんだよ。せっかくだからペットにでもしようと思ってさ」
「そうなの!? 名前なんて言うの?」
「名前?」
ベルが碧色の瞳をキラキラさせながら聞いてくる。
さっきまでこいつに連れ去られそうになったのを気付いてないのか?
まぁ、俺も気付かなかった訳だから無理もないか。………そう言えばこの鳥って名前なんだっけ?
なんかカトレアが言ってた気がするけど、……興味なかったし忘れたな。
「名前は、まだ考えてなかったな。ベルがつけていいぞ」
「キュイ!?」
「ほんと!! ん~とね、………じゃあね~、トリさん」
「キュイ!? キュイキュイキュキューイ(はあ!? 俺様には、白豪という名前があるんですよベル様)」
「喜んでるみたいだしもうそれでいいか」
「キュイキューキュイキュー(喜んでない喜んでない)」
「よろしくね~、トリさ~ん」
「キューキューキキュイキュ~(助けてくださいカトレアの姐さ~ん)」
なんだかさっきからキュイキュイうるさいな~、と思ったが、そういえば、人前で喋れないように、ちょっと細工したんだった。……まぁ、別にいっか。あんまり俺も困らないし。
◆ ◆ ◆
とまあ、このようなことはあったが、俺たちは特段誰もけがを負わずにキャンプ場へとたどり着いた。
今回選ばれた場所はリパネスト家領地にある大自然に囲まれた山だ。
要するに俺の領地にあるキャンプ場である。
キャンプ場とは言っても比較的に誰も近付かない未開拓の山なだけだ。
ちなみに、元々のキャンプ予定地はここではなかった。
ではなぜ、今回のキャンプ場に俺の領地が選ばれたのか?
それには深い訳があった。
元々最初に来るメンバーの中にユリウスはいなかった。
あいつ自身に行けない理由があったために誘わなかったのも理由の一つだったが、単純な話、数年前に誘った時は乗り気じゃなかったからだ。
しかし、今回ユリウスはアリスと同じように他国の舞踏会をばっくれたらしい。
そのため、この二人が舞踏会に行かなくてもよくなる方法が、『俺からの招待』だったという訳だ。
別にユリウスは来なくても良かったんだが、「俺を連れていくのが嫌ならアリスは連れていかせない」というのでやむなく連れていくことにした。
アリスが後ろで懇願してくる声とか、初めてユリウスに我が儘を言ったとか、そんな話を聞いて断れるほど、非情にはなれなかった。
となれば、向かうべき場所が俺の領地であれば、尚更信用度も増す。
正直言ってこの作戦は失敗すると思っていた。
しかし、ユリウスは完璧に近い演技を見せた。
アリスたちの準備が終わるまでの間にグスタフ皇国へと連絡を入れていたが、それはもう迫真の演技で、俺がいきなり誘ってきた、とか、俺の機嫌を損ねたら街が吹き飛ぶ、とか、なんなら被害がそちらにもいく、などと、あることないことをまったく嘘とは思えないように言っていた。お陰でうちの純粋でかわいい生徒たちが信じたくらいだ。
怒ったくらいで街壊滅なんて、まだクリンゴマ王国を灰塵にしたくらいしか心当たりがないぞ。
まぁ、俺の仕業だなんて知っているのはユリウスくらいだし、なんか向こうの連中は、魔王の仕業だと思っているらしく、俺に被害は特になかったが、……後でベルには謝っておこう。