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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第5章 支配者編
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20話 キャンプ2

 馬車に揺られてキャンプ場へ向かうマルクトご一行。

 マルクトと同じ馬車に乗っているのは、エリスとエリナの双子姉妹、それからこの前六歳になったベル、それからユリウスとアリスの王族兄妹だ。


 本当なら絶対に乗りたくなかった馬車に、クリストファーが余計な気を回したせいで、酷い目にあってる。

 というよりか、リーナが一枚噛んでるせいであいつの変な企みに利用されてるんじゃないかと疑ってしまう。

 もしそうだとしたら、帰ってからあいつにどんな嫌がらせされるのか、と正直、気が気でなかった。


「すごいすごい! 見て見てエリナ! おっきい鳥~」

「うわ! ほんとだ~おっきいね~」

 全開の窓からベルは身を乗り出して、目に見える真新しいものに興奮していた。

 たまたま、同じ方向を見ていた俺も窓から覗いてみてみた。

 彼女の人指し指の先には確かに白く悠然と佇む鳥がいた。

 赤いとさかに白く綺麗な羽が特徴的な鳥で、木の上から馬車を見下ろしてくる。

 彼女の言うとおり、大きな体躯をしているように見えたが、じっくり見る余裕なんて今の俺にはなかった。


 なんでこんなに揺れる乗り物の中で、彼女(ベル)はあそこまではしゃげるのか不思議でならないが、周りの四人もそれぞれ楽しそうにしていた。

 いや、同乗しているユリウスだけは安らかな顔で眠っている。

 ここに羽ペンとかがあったら、このすました顔に落書きしたくなってくる。

 なにこんな地獄と大差なさそうな空間でそんなに堂々と寝ていられるんだよ!

 ……こうなったらこいつの眠りが妨げられるようにお一つ魔法をかけておいてやろう。


「……先生、今なんか魔法使いましたか?」

 マルクトの向かい側の席にいたアリスにはマルクトが何かしたのが見えていたようだ。


「ああ……横にいるこの迷惑男のせいで少し寝不足だったから、ちょっと体調を整えただけだよ」

 実際、そんな魔法があるなら、ぜひ使ってみたいが、そんな魔法は未だに存在しない。

 まあ、カトウが酔い止めの薬を作ってくれたから、今はなんとか酔いも治まってきてはいた。

 ユリウスたちが来る前に渡されていたのだが、実際半信半疑だった。効いてくるまで数十分ほどかかると聞いていたが、その分効力は強いようだ。


 アリスは俺の言葉を何の疑いもなく信じた。

 少しだけ罪悪感を覚えるが、急に馬車が何かにぶつかったことでそれどころではなくなった。


         ◆ ◆ ◆


 その衝撃に馬車の中で眠っていたユリウスは床に額をぶつけた。そのせいで目を覚ました。

「な……なんだ今のは!」

「皆大丈夫か?」


 マルクトは、全員の安否を確認したところ、ユリウスが頭をぶつけたくらいしか被害はないようだった。

 ()()()()が自分の安否を報告してくるのを耳だけで聞きながら、外の様子を確認する。

 乗っていた馬車は止まっており、前方を走っていた二台の馬車は後ろの方で起きた異常に気付き、少し前で止まっていた。

 窓から見えるところには何もなく、頑強そうな馬車の車体にへこみをつけたのがいったい誰だったのかわからない。

「先生! ベルちゃんがいません!」

 外を見ていた俺はエリナの慌てたような悲鳴に、首をそちらへ向ける。

 エリナが言ったとおり、そこにベルの姿だけがなかった。

 先程、外を見た時にベルの姿はなかった。今の一瞬でいったいどこに消えたのか。

 それだけじゃない。

 これほどの傷をつけた敵の影も見あたらない。


「マルクト、上だっ!」

 その状況に焦っていると、カトウの切羽詰まった声が耳に届いてきた。その言葉が示す先で何かがおこっているのだ、と、確信を持って、窓から身を乗り出して上を向いた。

「……なんだありゃ」

 全長五メートルはありそうな体躯を左右についた翼で、空中に浮かせている化け物がそこにはいた。


 その鳥? の見た目から、先程、俺たちの馬車を見下ろしていたやつだとすぐにわかった。

「キシャアアアアアアアア!!」

 赤いとさかを逆立てて、甲高い咆哮で威嚇してくる。

 脚についた鉤爪で、ベルを掴んでおり遥か上空に連れていこうとしていた。

「お前たちはここで待ってなさい」

 それは普段のマルクトとしてではなく、彼女たちの教師としての立場から発した言葉だった。

 彼女たちは、それに従う姿勢を見せたため、マルクトは窓枠を掴んで外へと出た。


 見上げる化け物に対して遠距離魔法を放つのは、ベルを盾にされる可能性もあったため、躊躇われた。

 しかし、この状況において静観なんて許されない。

 空中へ跳んだとしても、その距離と足場のなさが問題だった。

 攻撃出来るとしても一発、しかし、空を自由に飛べるあの鳥に対して、一発だと避けられる可能性があった。


「旦那様!」

 その声に振り返ると、そこには不安そうな顔を見せるカトレアが立っていた。

「お嬢様はご無事なんですか!」

 カトレアは必死な形相で、マルクトの肩を掴んできた。

 後ろには私服姿のメグミを連れてきており、俺が黙って上を指差すと彼女は殺意ののった眼差しを鳥に向けた。


「見てのとおり、ベルが拐われた。遠距離だとベルに危険が及ぶし、近距離だとあそこまで行くのに、手間どるし撃てても一発、せめてあそこに足場さえあればいいんだがーー」

「あのくそ鳥~~っっ! 私に断りもなく、ベル様に手を出すなんて……その罪万死に値する!」

 果たして俺の話を聞いていたのか疑問に思うが、彼女が今発した言葉は、まるであの鳥を知っているかのようだった。

 あの鳥の正体は気になるが、それはベルを助けだした後に聞くべきだ。

 今も更に高く飛んでいこうとしているあの鳥に対して最終手段を使おうとした時だった。

「旦那様は下がっておいてください。足場が必要なのでしたら、私とメグミさんで作ってみせます。絶対にベル様をお救いくださいませっ!」

 カトレアが焦る俺の肩を掴み、そう言ってきた。

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