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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第5章 支配者編
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19話 出発準備1

 王城にある自室にて白いネグリジェを着ているアリスは、明日行くキャンプに行く準備をしていた。

 夕食も食べ終わり、風呂に入った後の彼女は、意気揚々と自分の荷物をまとめている。


 初めて友人と遊びに行く。

 今まで他人に避けられ続けてきた自分に初めて友人が出来た。

 それもこれもあの先生のお陰で、自分の力じゃないのは分かっていた。それでも彼女たちは自分が遠慮無く接することができる数少ない者たちであることには変わらない。


(初めてだしうまく出来るか緊張するけど大丈夫かな?)

(忘れ物をしちゃったらみんなに迷惑かけてしまうかも!!)

(もしかしたら、急に化け物が襲いかかってきちゃうかも!!)


 そんなこんなでいろいろと準備をしていたら、いつの間にか自分より大きい荷物が五つも出来ていた。

「……どうしよう……これじゃ運べないわ」

 彼女に荷物を減らすという選択肢はないのか、どうやってそれら全部を運ぶのかを悩んでいる様子だった。

「……まぁ、お兄様なら喜んで運んでくれるかな」


 結果、一国の王様(ユリウス)に全荷物を運ばせることに決定した。


 荷物もまとめ終わり、夜も更けているのが窓から見えたので寝ようとしたタイミングで部屋の扉がノックされた。

「私だが、扉を開けても構わないか?」

 その声から、自分の兄であることがわかって許可しようと思ったのだが、準備のために開け放ったクローゼットや散乱している下着などを見てその考えを改める。

「しょ……少々お待ちいただけますか?」

「あ……ああ構わないぞ」


         ◆ ◆ ◆


 外にいたユリウスは開けようとしていた扉のノブから手を離す

 アリスに返事をした直後、部屋の中から急に騒がしい音が聞こえてきた。

 そして、一際大きな音が聞こえたと思ったら、すぐ静かになった。


「た……助けて……ください」

 先程まで元気そうだったアリスの弱々しい声を聞いた瞬間、また何かが起きたのかと思い、ユリウスは部屋の中に突入した。

「大丈夫かアリス!!」


 なかなか開かない扉を力づくで開けた瞬間、ユリウスはその惨状に絶句した。

 普段のアリスの部屋とは思えない程、その中は荒らされていたのだ。

 彼女の寝ているベッドの上には彼女の物と思われる衣服が散乱しており、床にも同じように衣服が散乱している。

 そして目の前にそびえる自分よりでかい荷物。

 しかし、アリスの姿が何処にも見当たらない。


(拐われた!? いやでも、さっきまで話していたのに今の一瞬でだなんて、とりあえず人を呼ばなければ!)

 そんな最悪な想像をしたユリウスは急いで人を呼ぼうとするが、部屋を出ようとしたタイミングで呻き声が本の山から聞こえてきた。

 急いで本をどかすと中から目を回したアリスが出てきた。

「……何やってんだ?」

「すいません。お手を煩わせてしまって……片付けをしようと思ったら本棚にぶつかってしまって、本の下敷きに……」

「……あまり心配をかけてくれるな。俺はお前が拐われたんじゃないかと思って心配したぞ」

「申し訳ありませんお兄様」

「ところでアリス、この荷物はなんだ?」

 ユリウスが指差しているのは先程の自分よりも大きい荷物だった。そんなものが五つもあれば、気になったのも無理はない。


「その黒いリュックは……その、着替えです」

 アリスは赤く染めた頬をかきながらそう言った。それを見て、下着中心に入っているのかと中を見ようとしていた手を止める。

「ん? 着替え? この量が!?」

「それから、その茶色いバッグが外で着る衣服で、その青いのが室内着ですわ」

「いやいやいやいやちょっと、ちょっと待て!! ……アリス、これはいわゆる下着ってことでいいんだな?」


 アリスは顔を赤らめながらうなずく。

(いつ見ても俺の妹超可愛い。マジ最高!! 至高の存在!! 世界の宝!! ……いや今はそんなこと考えてる場合じゃなかった)

 ユリウスは首を振って、その考えを頭から追い出す。


「それでこっちが外出用ので、こっちが室内用で間違いないか?」

「そうですわ」

「いくらなんでも多すぎるだろ!!」

「そんな!! 万が一のことがあっては大変ではないですか!!」

「その場合は現地で調達しろ!! グスタフ皇国にだって衣服屋くらいあるぞ!!」

「……グスタフ皇国? 何をおっしゃっておられるのですか? ……(わたくし)が行くのはどこかの山だと聞いておりましたが……」

「え? いやこれってグスタフ皇国に行くための準備じゃなかったのか?」

「? これは明日行くキャンプの準備ですよ」

「明日!? 明日はグスタフ皇国に行くと言っていたじゃないか!!」

 その瞬間、彼女の脳裏に彼と確かにそんな約束をしていたことを思い出した。


 顔が青ざめていくのを自分でも感じながら、アリスはふらふらとよろめきながら黒いリュックサックに寄りかかる。

(やってしまいました。明日はグスタフ皇国で開かれる舞踏会に行かなくては行けない日。まさかキャンプと被るなんて……)


 彼女も分かっている。

 キャンプなんて別の機会にも行けるし、行かなかったとしても別に怒られるなんてことにはならない。

 だが、舞踏会は違う。

 正直変な目で見てくる人達の相手をするのは気が滅入るけど、国のお偉いさん達が集まる重要な席だ。しかも、主催するグスタフ皇国は魔導王国マゼンタと並ぶ四大国家に数えられる国。機嫌を損ねればそれ相応の政策をしてくるかもしれない。そんな大事な席を欠席する訳にはいかない。

 それでもーー

「……たくないです」

 その小さい声は、ユリウスの耳には届かなかった。

「え?」

「私は舞踏会に行きたくありませんお兄様!!」

 慌てて聞き返してくるユリウスに向かって、アリスは生まれて初めてわがままを言った。

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