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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第5章 支配者編
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18話 嵐の前の静けさ2

 その一言を告げた後、ヘッドホンについていた伝言機能は仕事を終えたようにうんともすんとも言わなくなった。


 奴が現れた。


 『現れた』要するに彼女が今住んでいる人間界に何かが現れたということなのだろう。

 ではいったい何が?

 そんな疑問が湧いて出た瞬間、一つの存在が老人の脳裏に浮かんだ。

「……まさか奴が?……奴がもう人間界に現れたということなのか?」

「はい。向こうに行っておられる大天使ガブリエル様の話によると、どうやら七月の二十日の夜あたりに一瞬だけ反応を見せたとのことです」

「なに!? それなら何故、直後に連絡をせんかったのだ」

「大天使ガブリエルからの情報によると、反応を見せたのは一瞬で、大天使ガブリエルもその場に急行したものの、奴の姿を捉えることはかなわなかったそうです」

「………なんということじゃ。このままでは人間界も魔界同様破滅の一途をたどってしまうぞ!! それだけはならぬ。絶対にあってはならぬ。急ぎ彼女に伝えよ!! 速やかにそいつを見つけ出し、とりつかれた者共々排除しろ!!」

 その言葉に頭(こうべ)を垂れたエンジェルドールは速やかに彼女の元へ向かった。


「………こんなことをしてる場合ではなくなってしまったのう」

 そんなことをぼやいた老人は指を鳴らして、影とチェスをその場から消してみせた。

「………ディザイアか。魔王グリルでも倒せなかった奴を人間界の者が倒せるとは思えん。……何故、魔界を捨てたグリル。貴公が奴から逃げなければこんなことには……」

 虚空を見上げながら、老人は独りで声に出しながら呟いた。

 その言葉に返事をする者はおらず、老人の嘆きは他の誰にも聞かれることなく虚空の中に消えていった。


         ◆ ◆ ◆


 八月の初めといえば夏期休暇の中盤あたり、世の子どもたちは友達と遊びに行ったり、家族で旅行に行ったり、一夏の思い出を作っている中で、この屋敷の住人たちは慌ただしく屋敷内を走りまわっていた。

 メイド服を着こなした者たちは、明日のために屋敷内を隅々まで綺麗にしていく。普段から世話になっている主のために、彼女たちは屋敷内に塵一つ残さない。


 そんな二十代が大半を占める女性達の中に、メイド服に身を包んだ新顔が数人いた。

 明日のためにと手伝いにやってきたエリスとエリナの双子姉妹であった。

 銀色の長髪をなびかせて雑巾がけをする二人、その傍らには窓を拭いているアリスとモップを持っているクレフィがいた。

「エリスさん、スピードが落ちていますよ。そんなスピードでは明日のパーティーに間に合いませんよ」

「そんなこと言ったって~この屋敷広過ぎるよ~!!」

「何を言ってるんですか。広いからこそ掃除のしがいがあるってものではありませんか」

「……その考えは(わたくし)もよくわかりませんが、普段お世話になっているマルクト先生が喜ばれるとなれば頑張りがいがありますわ!!」

 アリスはエリスに向かって両手でガッツポーズをする。

「そうだよお姉ちゃん。アリスちゃんの言ってるとおり頑張らないとね。それに元々は先生に無茶なお願いをしたお母さんが原因でこんなことになってるんだから、私たちが頑張らないと!!」

 次々と三人にそう言われては自分だけ弱音を吐いてだらけるのは申し訳ない気持ちになってくる。

 それにそもそもはエリナの言うとおりで、自分たちのミスでこうして先生やその使用人たちに迷惑をかけているのだ。自分達がここで手伝うのは当然だと言えた。

 そもそも、何故こんなことになっているのかというと、それは一時間ほど前にさかのぼる。


         ◆ ◆ ◆


「お願い、力を貸してマルクト先生!!」

 日もまだ上がりきっていないこんな朝早くに切羽詰まった様子でマルクトの手を握りながらそうお願いしてきたのは、店の制服を着ていたエリスとエリナを引き連れた『Gemini』の店主であり、二人の母でもあるエリカだった。


 マルクトは困った様子で、エリスとエリナの方を見る。

 それもそのはず、現在の時刻、午前五時という朝早くで、マルクトは例のサテライトという位置把握に役立つ魔法具の件で徹夜続きだったからだ。

 それが終了し、やっとのことで眠れると思い、ベッドに潜って昼前までぐっすりしようとした時に彼女たちの来訪を知ったのだった。

 クリストファーにエリスとエリナを引き連れたエリカが来ていると聞いたので眠いのを我慢して下りて来たのだ。


 エリカはマルクトの肩を握り「お願いお願いお願い……」と言いながら揺すっている。

 こんな切羽詰まった彼女を見る機会なんて今までまったくなかったし、絶対面倒事に決まってる。ただでさえ、ここ最近の疲労で今にも倒れそうなのに、そんなのに巻き込まれたくないというのがマルクトの偽らざる本音であった。

 しかし、普段からよく通っている飲み屋の店主がこうしてわざわざ直接頼みこんで来ているのだから、話も聞かずに追い返すのは失礼だと思ったのでとりあえず聞くだけ聞いてみた。


「何があったんですか?」

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