16話 王様からの指令4
「任務ですか?」
「そうだ。休暇も充分満喫しただろうし、そろそろ任務に出すべきだと思ったんだよ」
実際そろそろ体を動かしたかったのでティガウロとしては大歓迎だったが、未だに教えてもらっていない休暇が延びた理由と軟禁されていた理由の方が個人的には知りたかった。
しかし、一国の王様相手に自分優先で動く訳にはいかないため、まずは目の前にいる人物の意図を読み取る必要があった。
(優雅に紅茶を飲んでいるということは自分で少しは考えてみろという意思の表れ、こうなると内容を当てるまでやめない可能性だってある。さて、任務と言われて考えつくもので、先程の話から真っ先に考えられるものは……これしかないか)
「私はプランクのボス、シーガル・マルキュディスの生死確認、そして生きている場合は見つけ出して始末すればいいんでしょうか?」
ユリウスの言うであろう命令の内容を推測してみたティガウロだったが、ユリウスはティガウロの言葉に面食らった様子を見せた。
ユリウスがカナデの方を見るので、ティガウロもそちらを見てみると、カナデはクスクスと小さく笑っていた。
その様子に自分がとんだ勘違いをしていることに思い至ったのだ。
ユリウスは今まで暗殺等の仕事を自分に依頼したことなどないということに。
「……いや、そんな物騒なやつじゃないぞ。……その、警護を頼もうと思っていたんだが……もしかしてそっちの方がいいのか?」
ユリウスの目が心配そうにこちらを見てくる。
その目には、きっと二ヶ月間軟禁していたからストレスがたまっているんだろうな。ここは、ティガウロの希望通り派手にやらせてストレス発散させた方がいいかもしれない。と言ってきそうな程、同情しているように見えた。
そして何よりも、このままでは再びこの国から長期間離れさせられる気がしてならなかった。
見つかっていない死体なんかを探し出すためだけにここを離れるなんてそれこそ自分からしたら拷問以外のなにものでもない。
また自分の手が届かぬところで仲間が傷つくのを遠い地から聞くだけなんて、もう耐えられない。
(ここは絶対にその護衛任務を受けなければ、またクリンゴマに戻されるかもしれない! ここはユリウス様の気が変わらないうちに受けておこう)
「いえ、滅相もございません!! 不肖ティガウロ、この身に変えましても、必ずユリウス様とカナデ様、そしてアリス様の御身を守ってみせます!!」
必死になってそう答えるティガウロ、そんな彼の言葉を聞いたユリウスは安堵したような表情になった後、ティガウロの言葉に首を横に振った。
勢いよく身を乗り出したティガウロだったが、ユリウスが首を横に振ったのを見て不思議に思った。
「今回の警護対象者は俺とカナデではなく、マルクトとその周辺にいる者たちだ。もちろん、その中にはアリスも含まれているから、よろしく頼む!」
ティガウロはユリウスの言葉が良く理解出来なかった。
正直言ってマルクトの方が自分なんかよりよっぽど強い。それは、当然ユリウスもなのだが、彼に関しては王族という立場もあるため、護衛は必要不可欠な存在と言っても過言ではなかった。
しかし、マルクトに関しては守る必要性を感じないほど強い。
それにも関わらず、何故自分に白羽の矢が立ったのか分からなかったのだ。
「今回の件で、一番危険なのはマルクトとその周りの人間だと俺は考えている。カナデは俺の側に居させれば基本的に大丈夫だろう。しかし、アリスや君の妹たちはマルクトの一番近くにいるだろう? 夏期休暇に入ったというのにこの一週間毎日あいつのもとに通っている。だからお前に頼みたいんだ。人材はいくら使ってくれたって構わん。絶対にアリスを守れ!!」
「承知致しました!!」
ユリウスの鬼気迫る迫力に圧され、断るという選択肢は頭に浮かばなかった。
◆ ◆ ◆
その後、ユリウスから概要を聞いて今に至る。
「……つまり、私たちはそのマルクト・リーパー様を御守りすればよろしいのですね?」
「……ピピリカ、お前は本当に話を聞いていたのか? マルクト様を御守りするのも役目の一つだが、彼の周りにいる人間の安全を第一に行動し、万が一の時は身を呈しても護るというのが任務だって。ですよね先輩」
「そういうことだピピリカ。お前たちは別に受ける必要はないが、あまり軍の人間や他の騎士たちの手を煩わせるのも考えものだからな。出来ればお前たちに来て欲しいんだが……」
「「行きます!!」」
二人が声を揃えて即答するもんだから、少し驚きはしたものの、ティガウロはすぐに冷静さを取り戻した。
「……そうか。それなら荷物を整理して一時間後に城門の前で集合だな」
ティガウロはそう言うと二人に背を向けて歩き出した。
ティガウロの姿が見えなくなるまで、ずっと立っていたピピリカとコウ。二人はティガウロの姿が見えなくなった途端に口を開いた。
「……なぁ、気付いたか?」
「……当然でしょ」
「あの人は他の騎士たちには手を煩わせるのが嫌だったらしい」
「普通に考えれば、どちらかというと私たちならこきつかうのに躊躇う必要性を感じないという風に聞こえるわね。……でも、ティガウロ先輩がそういう人じゃないってことを私たちは知っている」
「あの任務の時だって一人なのは、味方を信用しきれていなかったからだと前に別の奴から聞いたことがある」
「それってつまり、先輩から誘われたということは、私たち」
「「先輩から信頼されてる!!」」
顔を見合せながら確認するように言った二人は、その事実にハイタッチしたり、跳び跳ねたりと喜びを体現するのであった。