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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第4章 夏期休暇編
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15話 奪われたカトウ3

「……どれぐらい目を覚まさなかったんだ?」

 カトウはミチルに支えられながら体を起こすと、俺たちに向かってそう聞いてきた。

 (自分で起き上がれない程弱っているのだろうか?)

 今カトウ以外でこの場にいるのは、この家(カトウの家)に住んでいるミチルとアリサ、それから俺とメルラン先生が魔導学園エスカトーレの代表として来ている。そんで一応、護衛をつけずにお忍びでやって来たユリウスの五人だけだった。

 ユリウスに関しては仕事があるにも関わらず、途中でほっぽりだしてきており、他国組織から命を狙われたのに護衛一人つけていない。

 転移魔法で迎えにきた俺に対して、護衛ならお前がいるじゃないかと言ってきたので、ちょっと殴りそうになった。要するに何かあれば、俺が責められるという訳だ。

 今頃城内ではパニックになっているんじゃないかと一抹の不安を抱えながら、ユリウスをこの場に連れてきた俺でしたとさ。

 そして、この場にアリサ以外の学園生はいない。

 別にカトウの心配をしていない訳ではなく、単純に何が起こるか分からなかったからだ。


 ルーンは、未だにどういう性質なのか解明されていない。代償の奪うものが必ずしも、目に見えるものだとは限らない。

 例えば、ユリウスの代償は『信用』だった。

 次期国王の立場にあった当時のユリウスは、周りからの信頼もあつく、周囲にはいつも人だかりが出来ていた。

 しかし、ルーン(真実)が開花してから、ユリウスの周りに出来ていた人だかりはなくなった。

 能力を恐れた他の連中がユリウスを避け始めたのだ。

 いつの間にか一人になっていたユリウスがここまで立ち直れたのは奇跡と言ってもいいくらいの状況だった。


 話を戻そう。

 今も周りといろいろ話しているカトウの様子から見ると、記憶はしっかりしているようだ。目の焦点もあっているし、会話に異常も見つからないことから、耳や言語能力にも異常はないらしい。

 ミチルが無事なところからミチルに危害が及ぶこともないだろう。

 代償は、開花してから一日以内に発動する。

 あのあと、筋肉だ……学園長に聞いた話によるとそういうことらしい。

 カトウのように目が覚めなくなったケースも数多く存在しているが、それらも開花して一日には何かが起きたと、歴史書にも記されてあった。

 ミチルや他の人物に危害が加えられていたとすれば、とっくに何か起きている。

 だが、カトウが意識を失ってから何かが起こった人物はいない。

 要するに、カトウの代償が何かまだ分からないということだ。

 もうとっくに、代償を払っているのは確定だとは思うが、未だにその片鱗すら伺わせないカトウ、いったいどういうことなんだ?

 ……考えたって仕方ないか。とりあえず、理性を失ってないようで良かった。

 下手したら、取り押さえなくちゃならなかったからな。


 俺は、壁に取り付けられていた時計を見て九時半を過ぎていることに気がついた。

 そういえばユリウスを誰にも言わずに連れてきたんだった。

 さすがにそろそろ帰らないとめんどくさいことになりそうだな。

「なぁユリウス、さすがにもう戻らないとまずいんじゃないのか?」

「え? ……しまったな。マルクトの言うとおりみたいだ。もう帰らないとまずい。悪いなカトウ、俺はここで帰らせてもらうよ」

「……もう帰るのか?」

「悪いな。残りたい気持ちは山々なのだが、さすがに公務を放っておくと怒られるんだよ。ちょっと今、うるさいやつが演習から戻って来てるんだ。また今度来るよ」

「……そうか。今日はありがとな」

 そう言ったカトウの表情は暗いものになっていた。

 それがとても儚げに見えて、帰る準備をしていたメルラン先生もその手を止めていた。

 どうしますか? と言いたそうな顔でこちらを見てくる彼女に俺は何も言えなかった。

 彼女の気持ちも分からなくもないが、帰らなきゃいけないのだから、帰る以外の選択肢はない。

 う~~ん、どうしたもんかな?


 そんなマルクトに一つの案が浮かんだ。

 マルクトは、メルランの方に向けていた視線をカトウの方に向ける。

「なぁカトウ、明日暇だったらあれ教えてくれよ。何て言ったか……チェロだったか? チョコだったか? そんな感じの名前のやつをさ」

 カトウはキョトンとしたような顔でこちらを見てくる。どうやら俺の言いたいことが分かっていないようだ。

 こんなことになるんだったらしっかりと名前を覚えておけば良かった。


「……もしかしてチェスですか?」

「そうそれ!!」

 マルクトが必死に名前を思い出そうとしていると、カトウの側にいたアリサが、マルクトの忘れていた名前を言い当てた。

「前にカトウ先生から強制的に教えてもらったんだよね~。今持ってくるね」

 嬉しそうにそう言ってアリサは部屋を出ていった。

 彼女は一分もせずにこの場に戻ってきた。手に握られた正方形の模様がいくつもついた板と、駒を入れる箱を見て、おそらく間違いないだろうと確信した。


「よくやったアリサ。どうだ? 学園も明日から夏期休暇だし、せっかくだから教えてくれよ」

 しかし、カトウはその板をまるで初めて見たかのような反応を見せている。

 その姿を不審に思う面々。その俺たちに向かってカトウはゆっくりと口を開き、こう言った。

「……なぁマルクト、チェスってなんだ?」

 その言葉が俺の安堵しかけていた心を再び不安のどん底に突き落とした。

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