15話 奪われたカトウ2
「……じゃあ、そんな能力を与えなければ……」
「それだとカトウ君が死んでおったのう」
カトウはその言葉に愕然とする。
彼の言うとおりだ。あのルーンがなければ俺が死んでいたのは間違いない。俺があそこから生き返ったのは自分にルーンを扱う資格があったからだ。
確かに全てを失うくらいなら、何か一つを犠牲にした方がいいに決まってる。
「……何が奪われるんだ?」
「いずれ気付く。それにもう奪っておるからこの先はカトウ君次第になるのう」
「……どういうことだ?」
「簡単な話じゃ、君の力が大きくなればなるほど、君の体は耐えられなくなる。そうなればまた奪うだけじゃ。しかし、逆に君が力を使いこなし、全てを飲み込めるようになった時、君の失われたものは返ってくる」
「……本当か?」
「まぁ、本来ならこんなことは絶対にしないんじゃがな。君には何かと期待しておるからな。ただ、君に一つやってもらいたいことがある」
その言葉は、さっきまでのひょうきんな言い方ではなく、真剣な様子だった。
◆ ◆ ◆
「…………というわけなのじゃ。どうじゃ、頼めるか?」
「……それは、本気で言ってるのか?」
話を聞き終えたカトウは、自分が無意識に震えていることを知った。
(そんなこと出来るはずないじゃないか!!)
そんな考えが頭を過り、背筋に冷たいものが走る。額から吹き出る汗の量も尋常じゃなかった。
この神様が嘘を言っているようにはどうしても思えなかったが、その言葉を信じきることがどうしても出来なかった。
なんであいつを!?
しかも、よりによって俺が殺らなきゃいけないだと!?
カトウの様子を見ていた老人は、ため息を一つ吐いた。
その瞬間、カトウの意識が思考の渦から強制的にひきあげられた。
「……まぁ、ここでのことは君の記憶の中で一旦封印させてもらうとするかのう。……いずれ時がくれば君にこれを頼むとしよう」
その言葉を最後に俺の意識は再び闇にのまれた。
◆ ◆ ◆
う~ん……。いったい何が起きたんだ? 体が思うように動かないな。なんか、頭もくらくらするし、もしかして寝てたのか?
俺は、重いまぶたを持ち上げた。視界はぼやけてよく見えないが、そこに二人分のシルエットが見えた。
誰なんだろうか?
「皆さん、テツヤさんが目を覚ましましたよ!! テツヤさん!! 聞こえてますか?」
彼女は、視界がぼやけたままで寝たきりのカトウに嬉しそうな表情で抱きついてくる。
その声には聞き覚えがあった。
興奮した様子の声が自分の不安をかきけしてくれる。その声を聞くと無事に帰ってきたんだなと思える。……どこから?
「ああ、どうやら師匠の言う通りだったらしいな。……どうした? さっきから反応示さないけど本当に大丈夫なのか? おい、返事しろ?」
どうやら、返事をしなかったことを不審に思ったらしく、マルクトが確認をとってくる。
なんて言えばいいんだろうか?
おはよう? それとも、ただいま?
とりあえず、思ったことを素直に言おう。
カトウの目は、マルクトの方を向いており、顔は真剣なものになっていた。
マルクトもそれでカトウが何かを伝えてこようとしているのだとわかり、カトウにどうした? と聞いた。
その直後、カトウの腹部から低い音が鳴り響く。
「……おなかへった」
なんだかんだ、五十日間飲まず食わずだったことを考慮すると、仕方ないのだろうが、ここに集ったメンバーはというと、(え~、最初に言う言葉がそれ~?)
と心のなかで思っているのであった。
「こっちにあんだけ心配させておいて、最初に言う言葉がそれか? 待ってろ、今からきつ~いの喰らわせてやるから」
他のメンバーとは違い、ここまでいろいろとカトウがいないことによる不都合に悩まされたマルクトの額に筋を立てていた。
殴りかかろうとするマルクトだったが、背後からまぁまぁ、と言いながら、とある人物に止められた。
「おい離せユリウス!! こいつを一発殴らせろ。こいつのせいで入ったあの先生がどんだけさぼったと思ってやがる!! 基本的に毎日だぞ!! その度に俺が授業をさせられるんだぞ!! 俺の専門は闇属性だっていうのに、なんで俺が水属性まで!!」
「落ち着けマルクト、それはジャック先生のせいであってカトウのせいじゃないだろ!! それにあの先生はああいう人だって学生時代から分かってただろ。……とりあえず、無事でよかったよカトウ」
必死にマルクトを抑えながら、カトウの無事を喜ぶユリウス。
カトウはそれを見て、きっと彼らには相当な迷惑をかけたんだとわかった。
「……悪い。皆には迷惑かけた」
素直に謝られたため、マルクトの顔はキョトンとしている。
他のメンバーも驚いたような表情をしている。
まさか、こんなに早く謝ってくるとは思ってはいなかったのだ。普段なら、変な言い訳ばっかりしてきて、最終的に謝ってくるのが普段のカトウだ。
それが例え、自分のせいでもなかなか認めないのがカトウだった。
「……おい、本当に大丈夫か? 倒れた時に頭でも打ったのか?」
心配そうな顔を見せてくるユリウスを見ながら、カトウは大丈夫だと返答する。しかし、何か、ほんのわずかな何かに違和感を感じるのであった。