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弟子は魔王  作者: 鉄火市
第4章 夏期休暇編
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14話 マルクトに挑む者5

 いつもに比べて闇の密度が濃い夜の公園に一人の少年が入ってきた。

 街灯に照らされた少年。彼はエスカトーレの制服を着ており、黒い髪の下から見える目付きはかなり鋭かった。


 少年は人目を憚るように奥の森林エリアに入っていく。

 数分程歩いたそこには傷をつけられた木や、倒れた木があった。この少年が毎日ひそかに特訓している場所だった。

 少年は一本の太い木に向かって手をかざす。その瞬間、彼の制服がなびき、木に無数の切り傷がついた。

 彼が今日自分の担任教師に使った技だ。自信のある技だった。しかし、先生にはまったく通用しなかった。そのうえ、味方がいる場面ではやめた方がいいと言われた。

(じゃあ、いったいどうすればいいんだ!!)


 切り傷をつけられていた木が大きな音をたてながら折れてしまった。

 ソラは息をきらしながらそれを見ていた。

 ソラは次の標的を定めて手をかざす。

(そもそも、何故僕が悪いことになってるんだ!! あいつ(エリス)が僕の動きを見てちゃんと避けてればうまくいったかもしれないのに、……いやいったに決まってる!!)

 ソラが手をかざしていた木が再び大きな音をたてながら倒れた。

 それを見たソラが舌打ちをする。

「ちっ、なんでこんなに脆いんだ!! 先生の壁には傷一つつけられなかったというのに!!」 


 彼は再び別の標的を探すが、この辺の木は普段の練習で脆くなっているからか、ボロボロになっていた。

 道理でよく折れる訳だ。さすがにこれ以上折れば、不審に思われるかもしれない。

 そう考えたソラは内に秘めた不満をぶつけるために、奥に進む。


         ◆ ◆ ◆


 しばらく進むと、先程よりも太い木が適度に揃った場所についた。

「この辺りは、立ち入り禁止区域だった筈だが、もう少し奥だったか?」

 すぐ側に変な井戸のようなものがあるが、気にせず再び練習という名の八つ当たりを開始することにした。

 井戸から覗く影にも気付かずに……。


         ◆ ◆ ◆


「クソッ、クソッ!! なんで二人ばっかり強くなってるんだ!!」

 彼の独り言は周りに誰にも聞かれていないとわかってるからか、普段より大きなものになっていた。

「そもそも、何かおかしいんだ!! 僕がまだ薄い青だっていうのに、中等部時代僕より下だったあの二人がいつの間にか青に上がってるなんて!! 絶対何かの間違いだ!! きっと判定結果をごまかしたんだ!!」

 そんな話聞いたことなんてなかったが、でなければあんな結果に納得いかない。

 酒場の看板娘なんかやってる奴が、日夜こうして努力している自分よりランクが上なんてあり得る筈がない。


「きっと、学園が襲われた時だって、一番のしたっぱを二人で運良く倒しただけに決まってる。それか、先生たちに手伝ってもらって倒したかのどちらかだな」

 憎々しげにそう言ったソラの目は充血していた。

 彼は魔力切れが近くなっているにも関わらず、次の標的を探す。

 しかし、目眩がして膝をついてしまう。


「……この程度しかやっていないのに、膝をついてる自分が本当に嫌になる」

 自分の限界を感じたソラはそうぼやいていたが、その周りには、傷だらけになって倒れた樹木が足場を埋め尽くす程あった。

「……僕にもっと……もっと力があれば先生に勝てるのに!!」

「その言葉に偽りはないな?」

「誰だ!!」

 どこからともなく聞こえたそのどす黒い声にソラは警戒を露にする。

 その声はソラの問いかけを聞いた直後、含み笑いを始めた。

 森の木をざわつかせるその声が、ソラの恐怖心を煽ってくる。

 逃げ出したいのに、足が震えて動けない。

 声をあげて助けを求めたくても、声が掠れて声が出ない。


 やがて、含み笑いが止み、先程疑問に感じた井戸から黒い何かが這い出てくる。

 姿が無く、ただ影のように黒い何かだった。


「我が名はディザイア、貴様らの住む人間界を支配する者の名でもある」

 その言葉を聞いて、背中に悪寒が走る。

(まずい。早く先生に伝えないと!!)


 しかし、その禍々しいオーラをみせる魔物に腰を抜かしたソラは、うまく立てなかった。

 ソラはその魔物から逃げるように地面を四つん這いで逃げようとするが、

「もう遅い。貴様は我と契約した。貴様の欲を我の糧とし、その身を我の器として差し出せ!!」


 黒い何かが近付いてくる。変なことを言いながら迫ってくるそいつを背中で感じながら、必死に手を動かすソラ、目には涙を浮かべながら必死に逃げようとする。

「嫌だ!! こっちに来るなーーーッッ!!」

 そう叫んだ瞬間、何かが自分の中に入っていくのを感じた。絶叫しながら、脳内をかき混ぜてくるような不快な感覚にソラはその場にうずくまり、のたうちまわる。激痛という表現すら生ぬるい痛みで意識が飛んでいく直前、一人の顔が脳内に浮かぶ。

「……助けて……先生」

 手を伸ばし懇願するようにそう言ったソラの意識はそこで切れた。


         ◆ ◆ ◆


「これが新しい肉体、なかなか弱い肉体だな。だが、若くて長持ちしそうだ~、まぁ我が力さえあれば、大丈夫だろう。まぁとりあえずはこいつの情報を整理するとしよう」

 そう言ったディザイアは、立ち上がって、制服の汚れたところをはたいた。どういうわけか、制服についていたのは土だけで、はたけばすぐに綺麗になった。

 その現象に疑問を抱くが、それは後回しにすることにした。


 情報を整理し終えたソラという器を乗っ取ったディザイアは、様子見を兼ねて、チャンスがあるまでは普段通りの生活をすることにした。

 目的はただひとつ、器の持ち主である少年の『担任教師を越える程の力』。それを実証するために、ディザイアは担任教師を殺すことを誓った。

 簡単だなと嘲笑うディザイア。彼は高らかに笑いながら家路につくのであった。

 6/17

なんか未だに、この話が納得していなかったので変更しました。


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