14話 マルクトに挑む者4
「本当に帰して良かったのか? お前、ユリウスの近衛騎士なんだろ? てっきり俺は捕まえるもんだと思ってたぞ」
マフィアの男たちが帰るのを見るために外に出ていたティガウロ。
外から戻ってきた彼にマルクトが不機嫌オーラ全開で頬杖をつきながらそう聞いたのだった。
「次は容赦しませんよ。今回だけは、あの男が理解のある方でしたし、これ以上やる気もないようなので問題は無いでしょう。それに暴れれば他の客に被害が出る可能性もあります。どうせ、あの男は手も出していないのですから、捕まえることなんて不可能ですしね。反感を買うくらいなら見逃した方がこちらのためです。マフィアに目をつけられるのは避けたいですからね」
「ふ~ん、そういうもんか?」
「そういうもんです。そんなことよりも、さっきエスカトーレの制服着た生徒がそこに立っていましたよ」
「生徒? 男だったのか? それとも、女だったのか?」
「男でしたよ。暗くてよくわかりませんでしたが、憎々しげに店の方を見てましたね。目付きが鋭かったんでそうかと思ったのですが……何か心当たりはありますか?」
ティガウロがそう聞いた直後、後ろのテーブル席の男が、
「お~い、注文の料理はまだなのか~?」
そう言ってきた。
それを聞いて、今厨房に誰もいないことを思いだしたティガウロは、急いで厨房に戻るよう母を促した。
エリカを見送ったティガウロはマルクトの方を振り向く
「じゃあ、僕も戻りますね。ごゆっくりどうぞ~」
そう言ってティガウロも厨房に戻った。
「……今日あいつやけにしゃべってたな。機嫌でもいいのか?」
その疑問を口に出したら、エリナが首を振って否定した。
「むしろ逆です。機嫌が悪すぎてしゃべることで解消しているんです。とりあえず今日はお兄ちゃんの前でユリウス王やアリスちゃんのこととか、仕事のことは絶対に聞かないで下さいね」
「……なんかあったのか?」
エリナはマルクトに話すべきか迷っていたが、彼女は意を決したように話し始めた。
「……どうやら、ユリウス王から復帰を阻止されたらしくて、理由も分からないまま、家からも出させてもらえないらしいんです。お兄ちゃんも二週間くらい前にそれを伝えにきたお父さんと家で大喧嘩したんです」
「家って……もしかしてここでか!?」
無言でマルクトの言葉にうなずくエリナ。
「我を忘れて暴れまくったせいで店の備品はバッキバキ、まだ発注した新しいテーブルが来ないから、それまではガウ兄の能力で作ってるんだってさ」
そう答えたのは、麦酒やジュースを持ってきたエリスだった。
エリスは、麦酒やジュースを置いた後、彼女自身も席についた。その手には自分用のグラスが握られており、居座る気満々だった。
エリスはジュースを一口飲むと、
「まぁ、お父さんと大喧嘩した結果、店の備品を壊されたことに激怒したお母さんが場をおさめたんだけどね。それでも大変だったよね~」
「まぁ、お兄ちゃんの気持ちも分からなくはないですが。……そもそも、なぜユリウス王はお兄ちゃんを城に戻さないんでしょうか? 一ヵ月前はあんなに仲良さそうでしたのに……先生は何かご存知ないですか?」
「えっ!? なにが?」
ティガウロが先程言っていた生徒のことが少し気になっていた俺は、エリナに急に聞かれて驚いた。
その様子を見たエリナがジト目をこちらに向けてくる。
「……聞いてなかったんですか?」
「……すまん。ちょっとティガウロが言ってた生徒の事が気になっててあまりよく聞いてなかった」
申し訳なさそうにそう言うので、エリナは、しょうがないですね~、と言ってから、
「ユリウス王と仲の良いマルクト先生なら、お兄ちゃんが家から出られない理由を知ってるんじゃないかと思ったんですが、ご存知ないですか?」
「知ってるな」
「そうですよね。さすがの先生でも知りませんよね……?」
「え~、先生知ってるの!?」
「あっ、ああ、一応な。前にクリンゴマでのことを報告書に纏めて持っていった時に聞かされたよ」
「それでどういう理由だったんですか!!」
「悪いんだけど、そこまでは教えられないんだ」
「何で~、いいじゃん教えてよ~」
「教えてあげたいのはやまやまなんだが、口止めされててな」
「そう……なんですか」
露骨に落ち込むエリナを見て、心苦しくなるが口止めされてるのだから仕方ない。許可も得ず、勝手に言うのはさすがに信用問題に関わってくるからな。
「まぁ、ティガウロは嫌われた訳ではなく、単に大事にされているだけということは教えとくよ」
そう言ったマルクトは勘定をしてからユウキとレンの二人を連れて店を出た。