天輪の舞姫1
「話があるんだけど」
始まりの街-アスタリテ-
その街の噴水広場の前で、声をかけられたサイトは深いため息をついた。
今日はやたらと声をかけられる。
数分前は、アナザーワールドで記者を名乗るひとに声をかけられ、その前は、情報屋を名乗る奴に声をかけられた。
めんどくさいと思い、無視して立ち去ったが、流石に何度も声をかけられると、こちらとしても反応した方がいいのかと思ってしまう。
仕方なく振り向いた先には正直以外な人物が立っていた。
白銀色の綺麗な髪。髪は片側だけが結ばれサイドポニーテイルになっている。
瞳は蒼く透き通っていた。
輪郭も整い、綺麗だけど可愛らし差もある顔。
水色、白、黒、金の色で作られた、装備衣装。
肩をだし、お腹あたりが軽く見え、へそだし。
足は動きやすさを重視し、短いスカートに黒いニーソの様な装備。
絶対領域と言われる部分が微かにみえる。
ゲーム世界なのだから当然ではあるが、すごい美少女がそこにいた。
リアルでこんな少女がいたら、毎日大変だろうなと思う。
「ねえ?聞いてる?」
少女がサイトに再度声をかけた。
表情を伺うと怒っている様だ。しかし、その怒ってる表情も可愛いとサイトは思ってしまった。
「何かよう?」
サイトは嫌々、彼女に返事を返した。
「君がサイト・ルクス。だよね?」
「…違います」
少し考えた後、サイトはそう言ってその場から立ち去ろうとする。
しかし、その行動も虚しく、すぐさま腕を掴まれて止められる。
「なに?」
可愛い女の子に引き止められるのは嬉しいと思う。普通なら。
でも今日だけは嫌な予感がした。
この少女は自分に不幸をもたらす気がした。
「私のこと知ってる?」
「知らない」
嘘だ。
普通に知ってる。
いや、というか、アナザーワールドをやってる人なら大体知っているであろう。
天輪の舞姫。
アイナ・リアリス。
レベル67。
ユニークスキル「天輪の刃」と言う、無数の剣を同時に出現or操ることのできる特殊なスキルを持つ少女。
半年前、「皇城の護り人」と言う、30人くらいでパーティーを組み、討伐する難易度の高いボス討伐で、見事に「天輪の刃」を使いこなし、MVPを取って彼女は実力者として名を挙げた。
そして、討伐に参加した、プレイヤーが口を揃えて
「彼女はまるで剣と踊っているようだった」
と広め、それが噂になり
彼女は「天輪の舞姫」と言う二つ名をもらったのだ。
だから、彼女のことを知らないと言うやつは余程他人に興味がないか、このゲームを始めたばかりの人間だろう。
アイナはサイトの知らないと言う一言が気に食わなかったのか、不機嫌そうな表情を見せる。
「あっそう!なら、教えてあげる!私はアイナ・リアリス!君の踏み外した道を正すプレイヤーの名前よ!覚えておきなさい!」
「…わかった。覚えておくよ。じゃあ」
そのまま立ち去ろうとするサイトを再び引き止め彼女は、先程よりも一層不機嫌そうにこちらを見る。
「話聞いてた!?」
「聞いてたから、ちゃんと返事したんじゃないか。覚えておくよ君の名前。だから、それではまた会いましょう!さよならって意味で、じゃあって答えたんだ」
「名前を覚えて欲しいわけじゃないわよ!!君は私が1番嫌いなチートをこの世界で使ったから、その不正行為に至った廃れた根性を正してあげる。って言ったの!」
「なんて?」
「なんで、聞こえてないふりすんのよ!!」
なんとなくだが、アイナの頭に怒りマークが見える気がした。
サイトはため息をついて、やれやれと首を振る。
「ぼくがチートを使ったって言う証拠なんてあるわけ?」
「ないわよ」
「なら…」
サイトが言葉発する前にアイナはそれを遮るように
「だから、これからあんたを監視して、見つけるの」
と言った。
その一言にサイトは思わず「はっ?」と間抜けな声を出した。
「え?今なんて?」
「監視するって言った」
「え?宴会とか、忘年会とかを取り締まる?」
「それは幹事」
「検察官の階級の…」
「それは検事」
「宮沢…」
「いい加減にして」
「いやいや!待ってよ!なんで、監視なんかされなきゃいけないんだよ!」
「言ったでしょ?あんたが、レイドボスをチートを使って単独撃破したからよ」
「だからチートなんて使ってない!!」
「だったら、別に私が監視してても問題ないじゃない」
「そう言うことが言いたいんじゃない!君は、自分が監視されてたら良い気分になるか!?」
「ならないけど」
「だったら!」
「君さ、今、自分がどれだけ有名人なのか。それ理解してる?」
「は?」
どれだけ有名人なのかと言う質問にサイトは疑問を覚えた。
確かに、チート野郎っていう噂が流れていたのは知ってる。だが、有名人になるほどのことを自分はしたのだろうか?
サイトが黙り込むのを見て、アイナは自分のコンソールを操作して、一つのニュース記事を見せてくる。
《アナザーワールド情報誌》
レイドボス。単独撃破!!!まさかのチート!?
と言うでかでかと書かれた題名の記事が載っていた。
サイトは引きつった笑みを浮かべて、自身のコンソールを操作して、ニュース欄を見る。
すると驚くことに、自分をチート扱いする記事がランキング1になっていた。
「えぇ、なにこれ」
そのサイトが口にした一言にアイナは呆れた様子でため息をつく。
「まさか、知らなかったなんて」
「あんなボス倒したからって大袈裟な」
「あんな?言っておくけど、あのボス。50人のレイド組んでやっと倒せるモンスターなのよ?」
「それは、勝手にそう思い込んでるからそうなるんだ」
「は?」
「とにかく!監視とか勘弁!チートを使ってるって言うならゲームマスターにでもなんでも報告すればいい!!」
「よくそんなこと言えたわね!システム管理をしてる人間が実在してるかわからないこの世界で」
「この分からず屋!!!」
その後も、サイトとアイナは口論を続けあった。
1時間の口論の末。
負けたのは、サイトだった。
と言うか、強引に決まった。
得意げな表情で「私があんたを正してあげる」と言ったのをサイトは生涯忘れることがないだろう。
そう思った。
こうして、サイトは自身が有名人になったことを知り。
アイナ・リアリスと言うストーカーに付き纏われる日々が始まった。




