撤退
俺とザムドで組んでいるパーティにマリシーを加入させるため、俺はマリシーとカウンターへ向かった。
「失礼、パーティメンバー加入の手続きをしたいのだが」
「分かりました、パーティー名を教えて下さい」
俺は、昨夜皆で話して決めたパーティ名を言った。
その名も……
「『磨穿鉄硯の翼』だ」
「かっこいい名前ですね!現メンバーと、新入りのメンバーの名前を教えて下さい」
「現メンバーはSランクのザムド、Cランクのアレックス=オブリソーコフだ。新メンバーはSランクのマリシー」
ザムドの名を聞いたスタッフは驚いた表情をしていた。
「ザムドさんのパーティでしたか!!ザムドさんには以前大変お世話になったことがあったんです。ザムドさんに宜しくお伝えください!」
「ああ、わかった。あの人は優しいからな」
俺の言葉に、スタッフはしっくりきたように頷いた。
「その通りですね……話が逸れちゃいましたね。メンバーの登録をしますので、今暫くお待ちください」
そうだ、ザムドは優しいのだ。つっけんどんで冷めたように見えるが、その内面は優しさと強さで溢れているのだろう。
「…………はい、これで登録が完了しました。またのご利用、お待ちしております」
俺とマリシーはスタッフに礼を言うと、互いに向き合った。
「改めて、これからよろしく頼む。なにしろこっちに来たばかりで、分からないことも多い」
「こちらこそよろしく。何か分からない事があれば聞いてくれれば私が知ってる事なら何でも教えるよ」
「あぁ、頼りにしている」
「任せときな!じゃあ、まずは採取依頼でも軽くこなしてこようか」
「そうだな」
俺とマリシーは1番下位の依頼リストから「ミラージュ・マッシュルーム」というキノコを3個ほど採取してくるというものを選択した。
このキノコは、この付近に生えているにも関わらず発見例が少ない。「ミラージュ」の名の通り霞んで見つかりにくいからだ。
マリシーはこのキノコを見つける手っ取り早い方法を知っているというので、これを受注した。
そして軽く準備を整え、数分後にはギルドから街の外へ出発した。
歩くこと1時間程。
「ここら辺だよ」
俺たちは街から外れて草原に踏み込んだ。
俺は周りを注意深く見渡すが、キノコらしいものは見当たらない。
「ただ探すんじゃダメだよ。これを使うのさ。『雷撃』!!」
マリシーの翳した手に魔力が集まり、その魔力を解放すると同時に目の前の地面へ小規模の雷が落ちた。
俺は驚いて落雷で焼けた地面を見ると、鈍く光るキノコが幾つかあった。
「このキノコは、電気を流すと可視化できるんだよ。こうやって雷撃系の魔法が使えると便利だね」
詠唱を始めた時は何をするのかと思ったが、こういうことだったのか。
「なるほど……」
こうして依頼の対象は呆気なく集まり、俺たちはギルドへ戻ることにした。
……………のだが。
突如、俺は何か凄まじい気配を感じて身構えた。
隣を見ると、マリシーも緊張した面持ちで腰のリボルバーに手を掛けている。
「何か……来るぞ」
「この凄まじい気配……一体?」
ここは先程ミラージュ・マッシュルームを採取したところからあまり離れていない平原だ。
見晴らしはいいが、どこにも魔物らしき影は確認できない。
「……ッ!向こう!」
マリシーの指差した方を見ると、大きな影がこちらに向かって大きく翼を広げて飛んできていた。
速度もかなり速い。
「双魔銃召喚!」
俺はハンドガン二丁を召喚し、臨戦態勢を取った。
「もうすぐ来る!」
そして数秒後。
その巨大な影はものすごい速度で滑空しながら目の前に降り立った。
ものすごい風圧で吹き飛ばされそうになりながらも何とか態勢を立て直して見てみると、巨大な鳥のような羽毛でびっしりと覆われた、竜のような魔物だった。
「あれは、下位種の鳥竜のウイングドラゴン?でも、あれはこんなに禍々しいオーラは無いし、こんなに巨大でも無いはず……」
マリシーは困惑したような、狼狽えたような表情でブツブツと呟いている。
「御託は後だ!さっさとあれを倒さないと、こっちがやられるぞ!」
俺が呼びかけると、マリシーはハッとしたようにこちらに向き直った。
「そうさね……私たちの銃で遠距離から一気に仕掛けよう!」
「了解した!」
鳥のような魔物が吐いた巨大な火の玉を避け、俺は両手の銃に魔力を集中させた。
ズドンッ!
とド派手な炸裂音を響かせながら、2人で次々と弾丸を撃ち込んでいく。
「キュァァァァァァ!!!」
鳥は甲高い、耳をつんざくような咆哮をした。
耳にキーンと金属音が響き、俺はクラクラして膝をついた。
頭をぶるっと振って前を向くと、鳥の一撃を食らってこちらに吹っ飛んでくるマリシーが目に映った。
「くそっ!」
マリシーは受け身を取り、すぐに態勢を整えて反撃に出た。
俺も続いて頭部、腹部、脚部と弱点となりえそうな部位を狙い撃ちしていく。
「キュァァァ!」
再び鳥が咆哮し俺とマリシーは耳を塞いだが、今度は耳がやられることはなく、口から火炎弾を乱射しながら物凄い勢いで疾走してきた。
「左右に散るぞ!」
2人で左右に跳んで避けると同時に、鳥がすぐ脇を走り抜けて行った。
「ちっ」
マリシーは舌打ちしつつ鳥を睨めつけた。
「この魔物は、普通じゃない!パワーもスピードも、大きさまで桁違いだ!なにか魔法で暫く動きを封じてその隙に急いでギルドへ向かおう!」
俺はその言葉に頷いた。
「あぁ、俺がスキルを使って一気にやる。援護は頼んだ!」
鳥は向きを変え、こちらに再び向かってきた。
「超加速、超帯電!」
俺はスキルを発動し、超加速で一気に間合いを詰めた。
マリシーは後ろから援護射撃を行っているようだ。
「食らいやがれ!」
そして、雷を纏った拳打をモンスターの顔面に渾身の力で打ち込んだ。
巨大な鳥の魔物は大きく顔を仰け反らせて吹っ飛んだ。
俺はそのまま猛ダッシュでマリシーとともにギルドを目指して全力疾走した。
背後の禍々しい殺気から逃れるように。




