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八坂先生に保健室にお姫様だっこで運ばれている途中、色々な視線を受けながら思考を巡らせる。
確か、今の状況は八坂先生とのイベントのひとつだったはず。
もちろん本来なら主人公である鈴華とのだけど。
なぜ鈴華ではなく私が巻き込まれているのかはわからないけど、それ以上に今の状況をどう打開するかだ。
「あっ!八坂先生、どうしたんっすか?」
「黄京くん、どうしたんだい?そろそろ授業が始まるはずだが……」
「へへっ、まあ、そこは置いといてもらって、彼女、怪我してるんでしょ?」
「ああ」
「それなら俺に任してください。これでも彼女のクラスの保険委員なんで」
この少し軽い感じだが、実は優しい彼は八坂先生ルートをクリアすると攻略対象になる《黄》の攻略対象、黄京 葵。
黄髪というか金髪の黄色の目、私と同じクラスのよく言えば完璧、逆にいうなら器用貧乏な平凡男。
ファンの間ではそれがいいという声が大半らしい。
「確かに、私も授業があるからな。頼んだ」
「うっす。任されました」
私は八坂先生から黄京くんの腕の上に移動された。
一日に二人もの男性にお姫様だっこされたのは初めて、元々お姫様だっこされた回数が少ないけど。
「ありがと、黄京くん」
「おう!」
彼は私の中でも信頼できる友達で、人前ではあまり見せない笑顔も彼の前では結構出す。
私がお礼をいうと、彼も太陽のような笑顔で返事してくれる。
「ていうか黒谷、お前軽いな。ちゃんと飯食ってっか?」
「食べてるよ」
「うーん。って言うかお前いいにおいするな。なんかつけてる?」
「?…つけてないよ?」
そう、これ、この天然さ。
これがなかなか人気があって、他の攻略対象のファンもこれを味わうために黄京ルートをやる人も多い。
「すいませーん。雪川せんせーいますか?」
「はーい、どうぞー」
黄京くんは行儀悪いけど私で両手が埋まってるから足で扉を開ける。
保健室には保健の先生で美人で有名な雪川 白先生が怖い笑顔を浮かべて座っている。さらさらと流れる銀髪で、銀色の目をしている。
「こーらー、誰が足で扉を開けてるのかな~?」
「いや、すいません!でも手が……」
「塞がってるみたいね。その子は?」
「ちょっと、膝を擦りむいちゃったみたいなんすよ~」
「見せてごらん」
黄京くんにイスに降ろされて、雪川先生に消毒液をかけられる。
消毒は傷口を焼いてるってことだってわかってるけど、怪我するより痛く感じる。
だからあまり怪我しないようにしてるんだけど、そのせいか逆に怪我したときは余計痛く感じちゃうんだよね。
「これでよしっと。さあ、早く教室に戻りなさい」
「はい、ありがとうございました」
「黄京くんもちゃんと授業受けるのよ」
「はーい」
「黄京くん、早く戻りましょう」
「ああ、急ごう」