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彼の猫は其の髭に誓う   作者: 下心のカボチャ
8/12

嵐の前夜、誰がためでなく起つための兆し

ひ、久し振りの『猫髭』投稿……プロットと組み立ては出来てるのに、勝手に煮詰まってしまって暫く離れてみようという事で短編に寄ってました。


その結果……どうでしょう?つまんないよと言われそうだなぁ。


ともかくもう少しだけ、続きますのでお付き合い頂ければ幸いであります!

……夕刻を過ぎた告解室(ボックス)には静寂と黄昏がやわらかく佇む。


室内を二分する壁に備え付けられた小窓から、不意に紅い蝋封の捺された便箋が差し込まれた。


それを暗黙の内に受け取り、修道士長は封を解き眼を通してゆく……。


やがて、溜め息と共に視線を黄昏へと上げた。


「主の御光において汝の罪禍を……」


が、不意に小窓から吹き抜ける風……告解室のドアが開かれたのだろう。



暫しの沈黙の後、聖詞の言葉を呑み込み、気配の消え失せた壁のむこう側から意識を逸らす修道士長……。


「まだ『赦し』を受け入れないのか……貴方も私も。」


自嘲気味に口端を歪め、その男は眼差しを蝋封へと落とす。


それはラザラス修道会を差す紋章であった……。


「(我らは草原を食む羊でなければならない……決して羊飼いの側へ立ってはいけない。)」


刹那、修道士長の脳裏に過ったのはアビゲイル、そして彼女の身に起きた悲しみの顛末であった。


「(聖教と修道会の温度差は今や決定的な亀裂を生もうとしているか……。)」


最早、陽は沈みかけている……。


『昏さ』だけが際立つ聖域において、沈黙の羊はただ……ただ堪えきれずに戸を開いた。


「あら、修道士長様……こんな時間に告解室でどうなさったんですか?」


それは礼拝堂内で清掃の後片付けをしていたのだろうシスターだった。


「ん、私も清掃をね……今週末にはザンダー本国から司祭様をお招きするのだから。」


「まぁ、それなら私どもに仰っていただければよろしかったのに……。」


その言葉に『今度からは頼むよ。』と笑顔を返し、その場を後にする修道士長……その背中を訝しげに見送るシスター。


「(清掃用具も持たずに清掃だなんて……サボタージュしてらしたのね、これでは修道士長クオリティーと言われても仕方ないわね。)」


外には夜の帳が降りようとしていた……。




その夜更け過ぎ……静まる修道院内、ファベーラは寝室で眼を覚ます。


壁掛けの時計は微かな音を刻み12時を過ぎた所を差し示していた。


何気なく天井を見つめ、やがてゆっくりと上半身を起こすと全てを察した様に呟く。


「こんな夜更けに修道女の寝室へ忍び込むとは……ずいぶんと不作法じゃないか。」


穏やかに、だが毅然としたその言葉は確かな指向性を以て、闇の一点へ響いた……。


刹那、暗闇の中から分離するように姿を現す巨躯のシルエットと相貌。


「不作法は謝ります……そろそろ誤解を弁明しておこうと思いまして。」


「ふん、驚かせるんじゃあないよ。」


そう皮肉を含ませながら、手近のランタンへ火を灯してから老眼鏡を取り出すファベーラ……派手な寝間着に彼女の趣向が垣間見える。


橙色に染まり私室内に揺れる影、シスターファベーラは改めて向き直りその男……スポタマス・アレン・ダーマスを見据えた。


「……(カラフルな寝間着ですね)。」


「で、誤解云々ってのも気になるが……あんたのこの街での用事は済んだのかい?」




「敵わないなシスターには。」


そう呟き左手を上げて見せると、タマはベットの脇に置かれた椅子を引き寄せ背もたれを前にして座る。


その一連の所作はファベーラに『話し』が多少長くなると示すには充分であったのだろう。


彼女は苦笑と共にベットから足を降ろし、ランタンの側にあった老眼鏡の鎖を首へ掛けた。


「10年……10年振りに家族を迎えにきたつもりだったんですがね。」


「イノリとオリハ親娘かい……。」


ファベーラによって、不意にそう淀みなく紡がれた名を聞いた途端、タマの髭が微かに揺れた様に見えた。


「最初に思い出すべきだった……猫人(フー・ニャン)の事を私に教えてくれたのはイノリだったんだよ。」


「彼女は何と?」


「自由奔放、気まぐれで皮肉家、だけど出会った猫人達はみんな各々のやり方で私とオリハに接してくれたと。」


「………。」


「あんた……事情は知らないが、何でもっと早く迎えに来なかったんだい?」


「………。」


ファベーラの言葉が棘の様にタマへ刺し込まれる……。


タマは無言で壁に揺らめく自身の影を見つめ、胸中で反芻されてゆく痛みと悼みを無理矢理にでも仕舞いながらファベーラへ背中を向けて帯に手を掛けた。


「おやおや、野暮は言いたくないが止めとくれないかい。」


そう言いながら、頬を紅く染めて笑みを溢すファベーラ……だが次の瞬間、彼女の表情が強張る。


「……。」


タマはランタンが映す淡い光をただ見つめ……やがて背後の哀しみに呼応する様に一言だけ詫びを口にした。


ファベーラの年輪を刻んだ頬を伝う一筋の涙……タマと同様に彼女の胸中にもまた日常と切り離した想いがあるのだろう。


それが頭をもたげ、想起させた事をタマは詫びたのだ。


「………。」



夜明け前の薄闇を窓越しに一瞥して息を吐くファベーラ、結局、タマの経緯を聞き彼が部屋を後にしても彼女はベッドに戻ろうとはしなかった、否、戻れなかったと言った方が正確だろうか。


ファベーラの脳裏に過る涼やかな笑顔……。



それは在りし日の穏やかなる問い掛けだった。



「ファブ姉が何時か……神様と仲直り出来たらいいね。」


庭園に拵えた小さなテラスへ置かれた白い円形テーブルを挟み、紅茶を楽しむファベーラへ言葉を紡いだイノリの視線は手を掛けた花々へ向いていた。


「何すっとんきょうな事を言うんだい、この子は。」


呆れた表情で紅茶を啜りお茶を濁すファベーラへ改めて向き直って、意味あり気に笑いかけるイノリ。


「分かるよ……だって私も神様を恨んでたから、何でこんな時代に私を放り出したんだろうってさ。」


「時代のせいかね……みんな『試練』って言葉が好きみたいだがね、イノリは違うのかい?」


その言葉に一瞬、苦笑を浮かべてイノリは視線を落とす。


彼女の膝元にしがみついたまま寝入りそうになっている無垢な横顔にファベーラは思わず眼を細める。


「うん、きっとそんなものはないんだよ、どっかの勘違い野郎が叫んでるだけでさ……勝手に『試練』にしちゃってるんだと思う。」


「ふふ、あんたに掛かれば大司教様も形無しだね♪嫌いじゃないけどね私ゃ。」


「神様は無慈悲じゃないよ、多分この世界は私達次第だって委ねているだけじゃないかな。」


「助けちゃくれないが、洪水で全てを御破算にする訳でもない……だから無慈悲じゃないってか、それも噂の『猫人』から学んだのかい?」


『猫人』、何気無いファベーラの冷やかしへ満更でもない様子ではにかむイノリ。


それが……シスターファベーラが覚えているイノリの一番幸せに満ち足りた顔だった。


「(こんな年寄りを残して、若いものを天へ召されるなんて、神様はやっぱり無慈悲じゃないか)。」


彼女にとって、夜明けはまだ遠くに思われた……。


だが奇しくも運命の歯車はこの時から回り始めていた……その事に誰一人として気付く者はいない。


続く

えー、どうでしたでしょうか?


何かこの小説(みたいなもの?)会話のシーンが多すぎない……という指摘が聴こえてきそうですが(汗)あと分かりにくいとかね(泣)。


何とか……何とか、毎回節目に辿り着こうと四苦八苦しております。


その七転八倒も楽しんで頂けたら……いいなぁ(遠い目)。


どれだけドタバタかと言うと、本来のプロットでは修道士長の出番は殆どない筈でした。


ですがこっちが煮詰まってる間に彼の自己主張が激しく、気づけば何やらキナ臭いキャラに変貌してました(笑)


えっ?まだそんな風に見えないって?


これは失礼、それではまた次回


『絶望なんざ無視するに限る』


……でお会いしましょう、ここまで読んでいただきありがとねー。

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