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胡蝶蘭

胡蝶蘭の花を君に

作者:

悲恋を書いてみました。

慣れてないので御容赦ください。


何処から語ろう。


愛しい貴方の眠る墓の前に佇む。

長い髪を靡かせ私は、大切な貴方と紡いだ記憶に思いを馳せる。

愚かな私を貴方は許してくれないだろう。






美しく咲いた薔薇を眺めていると


「ユリーナ」

「...アレン?」


名を呼ばれ振り返る。そこには凛々しい顔立ちをした幼馴染みがいた。

どうして此処にいるのだろう。彼が騎士団に入団してからはもう殆ど会ってなかったのに。

考えていた事が顔に出ていたのだろう。彼は少し不機嫌そうにして


「婚約者に会うのに理由がいるのか?」

「ご、ごめん...」


彼は私の婚約者。親同士の約束事だけど私はその事には不満は無い。顔も知らない人に嫁がされるよりは気心の知れた彼に嫁ぐ方が良いに決まってる。


「はぁ...ユリーナ」

「な、なに?」

「えっと、その...もうすぐだな」


彼が何を言いたいのかは直ぐに分かった。


「...ふふっ」


少し気恥ずかしそうに言う彼に思わず笑みが零れた。


「...なんだ」


彼は一気に不機嫌になった。


「ご、ごめんなさい...少し可笑しくて」

「...」

「ごめんなさい、お願い...機嫌直して?」

「別に、もういい」


そう言って彼は私の髪をくしゃりと撫でた。でも乱暴にするのではなく優しく彼は撫でた。それが少し心地良い。


「なぁ」

「何?」

「その...」


彼は言いずらそうに


「お前は俺と結婚して良いのか?」

「...ふふっ」

「真面目な話しなんだが」


だって、だって


「そんなの、今更じゃない」


私は、来月に彼と結婚する。これは決まった事だ。今更どうする事も出来ない。ずっと前から決まっていた事。


「...そうだが」

「貴方は私と結婚するのは嫌?」

「...そうじゃなくてだな」

「?」

「ああっ!相変わらずお前は鈍いな!」

「!?」


何故かいきなりけなされた。さっきから全く意味が分からない。

本当に一体どうしたんだろう。


「なんで気付かないんだ!」

「な、なにが?」

「あんなにアプローチしてたのに」

「ア、アプローチ?」

「...お前の誕生日に花をあげただろ思い出せ」

「誕生日?」


そう言われて私は誕生日に貰った花を思い出した。あれは確か...


「胡蝶蘭の事?」

「そうだ」

「それがどうしたの?」

「何色だった」

「えっ?」

「何色だったか思い出せ」

「えっと確か...ピンク色だったわ」


記憶に間違いがなければピンク色だったと思う。


「その花言葉は」

「花言葉?」

「そう花言葉だ」


花言葉?えっと何だったかしら。余り私は花言葉に詳しくない。

少し考えたがやっぱり分からなかった。


「はぁ...次に来る時までに調べとけ」

「えっ今教えてくれないの?」

「調べたら全部分かる」


そう言って彼は帰って行った。




その夜、私は彼に言われた通りに花言葉を調べた。


「えっと確かピンク色の胡蝶蘭よね」


ぱらぱらとページをめくりながら探す。


「胡蝶蘭はっと...あった」


指でなぞりながら読んで私はぴたりと指をある項目で止めた。

だってそこには


胡蝶蘭(ピンク)

あなたを愛しています


それを読みながら頬が紅くなるのが分かった。

彼はこれが分かれば全て分かると言った。彼は私が鈍いと言った。確かにそうだろう花言葉を調べるまで気付かなかったのだから。


「...はぁ、どうしよう」


溜息と共に零れた言葉は様々な感情を含んでいた。




あの日の夜からずっと考える。彼の事を考えると頬が熱くなる。

だって意識していなかったのに急に意識したのだから。

そして今日は彼が来る日だ。

どう話せば良いのだろうと考えていると


「ユリーナ!!」


母が焦った様に私の部屋に飛び込んできた。

いつもと違う様子の母に嫌な予感がした。


「ど、どうしたの?」

「落ち着いて聞きなさい...!」

「えっ?」

「アレン君が...馬車に...」

「...えっ」


途中から母の言ってる事が理解出来なかった。かろうじて聞き取れたのは、アレン、馬車、子供、そして死。


「...うそ、よ嘘よ、嘘よ嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘よ!!!!そんなはずない!!そんな訳ない!!ねぇ!お願い嘘だと言ってよ!!ねぇ...お願い...っ」


私は泣き崩れながら私は母に縋った。

でも母の顔を見て全てを悟った本当なのだと。


「いやああああっ!!!!!」


私は叫び声をあげ意識を手放した。





目を覚ますとそこは私のベッドだった。


(なんで此処に...っ!)


私は母に言われた事を思い出した。

アレンが...アレンがっ...っ

涙がぽろぽろと零れ嗚咽が止まらない。


「アレン...っなんでよもうすぐ幸せに成れたのに...っ!」


その言葉は悲しみに塗れて


「...アレンの馬鹿ぁ...っ」


違う。

本当のバカは


「...本当の...馬鹿は...っ私だ...ぁ」


彼の気持ちに気付かず、自分の気持ちにも気付かず、失って気付いた愚かで馬鹿な私。


「今更...っ気付いたって...」


私は遅すぎた。


その事実が胸をえぐって私に堪えがたい痛みを与えた。

これは罰なのだ。遅すぎた私への罰。


「あぁ...うぁぁぁ...」


私の口から漏れ出た嗚咽が一人きりの部屋を満たした。







私は彼が眠る墓にピンク色の胡蝶蘭を置いた。


「私はずっと、貴方を愛しています」


一粒の雫と共に零れたその言葉は誰にも届く事無く、吸い込まれる様に消えていった。


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