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異世界召喚と歌姫の小夜曲  作者: めもたー
4章 異世界滞在 4日目
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56話 少年

更新遅れて申し訳ない!(何度目)

 階段を一段一段踏むたびに、ギシギシと木が軋む音が鳴る。ぼくの歩き方が悪いのか、サイレンさんの方は全くといっていいほど音が皆無だった。

 このままではまずいと思い、とりあえず前を行くサイレンさんの歩き方だけ似せる事にした。もしかしたら効果があるかもしれない。


 ぼくは膝を深く曲げ、さっきまでつま先で登っていたのを、階段と足が水平になるように歩き方を変更した。すると、びっくりするくらい音の大きさが軽減された。


「なんだヒロ。上手いじゃないか」


 サイレンさんが掠れた小さな声で言う。あまりに意外そうな顔で言ってくるので、少しイラッときたが、褒められて嬉しい反面もあって複雑な気持ちになった。

 階段を上り終えると、少し横幅の狭い廊下があった。そしてその廊下の奥へ進んだところに、一つのドアが見えた。


「恐らく、さっきの影はこの先だろうな」


 サイレンさんが歩み出す。ぼくもそれに続き、ドアの目の前まで足を進めた。

 するとサイレンさんはこちらを見て一度軽く頷き、そっとドアノブに手を掛けた。


 緊迫に包まれた空気が漂う。ぼくは深く息を吐いて覚悟を決めた。この先には、一体何が……。


「行くぞ」


 サイレンさんは一言そう言うと間も空けずにドアを勢いよく開け、部屋の中に向かって指輪のはめてある右手を構えた。


「誰かいるんだろ? 出て来い!!」


「うわわ!? な、何ですか!?」


 と、聞き慣れない声が聞こえてきたかと思うと、壁際にあるタンスの陰から何かが飛び出してきた。


「こ、子供??」


「ああぁぁ……。殺さないで下さい!! どうか、命だけは!!!」


 それは人だった。見た目は体格や服装からして小学生、短い金髪で、パニックになって涙目になっている。


「お前は誰だ! 何故こんな場所にいる? 古の都市(ニブルヘイム)には、生きている人間なんていないはずだ。……お前も亡霊あいつらの仲間か?」


 サイレンさんは指輪の矛先を少年に向け、険しい顔つきで問い詰めた。確かに、ここは何百年も前に滅びた街だ。生存している人間なんて、いるはずがない。


「ボッ……ボクはただの人間だよ! あんな化物とかと一緒にしないでくれよ!」


 少年は両手を上に上げ、後ろへと後ずさった。


「問答無用だ!! そうやってきょどっているのが余計怪しいぞ!」


「ちょっ、サイレンさ……」


 ぼくが割って入る間もなく、サイレンさんは指輪から魔力を放った。白い光の玉が、後ずさる少年に直撃した。すると、たちまち少年の辺りは爆発を起こし、眩い光に包まれた。


「……」


 ぼくは視界を塞いでいた腕の隙間から、チラッと少年の様子を見た。煙が徐々に収まり、段々とその姿が明らかとなってきた。

 少年が肉塊と化した姿を想像すると、吐き気を催す。ぼくは勇気を出して、その姿をおそるおそる確認した。


 するとどうしたことか、少年はただ床に尻もちをついてビックリしているだけだった。


「……あれ? 何ともない」


 少年がキョトンとした顔をしていると、サイレンさんは何も言わず、ただ一歩少年に近づいた。


「えっと、サイレンさん。今のは一体……?」


 そう聞いてサイレンさんの方を見ると、真剣だった彼の顔から一気に気が抜けて、ため息をついた。


「どうやら、この少年の言ってる事は正しいようだな。驚かせて悪かった。何せこんな場所に人間なんて本来ならいるはずないからな」


「今ので人間かどうかなんて分かったんですか?」


「ああ。今の爆撃は攻撃魔法じゃないからな。まあ、正確には補助攻撃魔法と言って殺傷能力だけが込められた技じゃない。そして、その中のレーダーキルという魔法がこれだ。人間以外の血に反応して殺傷能力が働く便利な魔法でね」


 サイレンさんはずっこけた少年の前でしゃがみ、手を差し伸べた。


「僕はサイレン。そして隣にいる彼がヒロだ。古の都市(ニブルヘイム)なんかに子供一人でいるのはあまりにも危険すぎる。僕達と一緒に行動しないか?」


 最後の一言で、少年の顔に笑顔が浮かんだ。少年はサイレンさんの手をとって立ち上がった。その場で身に付けている服の埃を手でパンパンと払うと、再びぼく達と目を合わせた。


「ずっと一人で寂しかったんです……。それに、あの幽霊達もいつ襲ってくるかと怖くて……。でも、お兄さん達が来てくれたからなんだか救われたするよ!」


 少年はとても目をキラキラと輝かせて言った。ぼくはその尊敬の眼差しに少し恥ずかしくなり、バレない程度に視線を横にズラした。


「僕の名前はザーガ。これからお世話になります!!」


 と、ザーガと名乗る少年は深々と頭を下げた。礼儀正しく、とてもいい子だ。

 ぼくにもこんな時代があったのかなぁ~。思い返してみると、小学生の頃はハマっていたアクション映画の真似をして学校で戦争ごっこみたいな事をぼっちでやっていた。みんなが運動場でサッカーとかで遊んでいるにも関わらずぼくは校舎内でずっと見えない敵と戦っていたのを覚えている。


 いわゆる早めの中二病。見事に芯から黒歴史を掘り起こしてしまった。あの頃の自分を呪いたい。


「さて、自己紹介も済んだところでそろそろ行くか。こっちは他の仲間とはぐれて探してる最中なんだ。なるべく早く合流しに行くぞ」


 そう言うと体の向きを180度回転させてそそくさと階段を降りていった。


「……えーっと、ザーガ君……でいいのかな? サイレンさん頼りになるけどいつもあんな感じで猪突猛進タイプなんだ」


「へぇ~。どうりでオーラが違う訳ですね」


 そうやって二人でクスクスと笑っていると、下からサイレンさんの声が聞こえてくる。


「おい聞こえてるぞ! 駄弁るのはいいから早く来い!」


「ご、ごめんなさーい!!」


 ぼくとザーガ君はお互い苦笑いを見合わせて急いで下の階へと降りた。


 なんだかザーガ君は不思議な子だなぁ。普段ならぼくは年下と話すなんて面倒くさくてほとんどしないけどザーガ君とはすぐに馴染めた。まあ、ザーガ君にそんな特別な何かがある訳ないけど、なんだかんだ気軽に話せる相手が出来て嬉しい。

 ぼくは玄関前で少し不機嫌そうなサイレンさんの元へ向かう最中、ぼくの後ろにつづくザーガ君の方を振り向き、ニコッと笑顔を作って見せた。

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