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異世界召喚と歌姫の小夜曲  作者: めもたー
4章 異世界滞在 4日目
57/61

54話 別世界へ……

お久しぶりです!

休載中は色々とご迷惑をおかけ致しましたm(_ _)m

 アガンテスさんは何も無い空中と目を合わせると、腰に下げていた大剣を抜き、大股を開いて剣を構えた。


「ものすごい力で亀裂に吸い込まれますので、地面を押さえるように少し下半身に力を入れていた方が良いですよ! 直立した状態では吸い込まれる際に背骨が曲がってしまって危険ですので、絶対に自分の番がくるまで気を抜かないで下さいね」


「吸い込まれる……? な、なるほど」


 ぼくは言われた通り足を少し開き、中腰とまではいかないが、膝も力を入れやすいように曲げた。


 辺りが一気に静寂に包まれた。時空の亀裂を切り開くのはそれほどまでに集中が必要なのか、アガンテスさんは剣を構えたまま先程からずっと微塵たりとも体勢を崩していない。

 そしてそれを周りの兵士達も一切口も開かず静かに見守っていた。


 ……それから数分が過ぎた。もはやぼくの心の中には、不思議な気持ちしかなかった。風によってなびいている野原や木々は動いているのに、人間だけまるで時を止められたかのような……。


 さすがにこれ以上静観して待っているのは気分的に萎えてきてしまうので、雰囲気を乱すようで悪いが、ルミナさんに話かけようとして視線をルミナさんに移した瞬間、視界の端で何かが動いた。それに続いて空を切る音が伝わってきた。


 その"何か"とは、アガンテスさんだった。再び視線を前に戻して見えたアガンテスさんは、既に剣を振り下ろした後の姿だった。少し目線を逸らしていたとはいえ、本当に一瞬で振り下ろした時の剣の残像が見えなかった。仮に直視していたとしても、それは見えなかったであろう。


「亀裂が開くわよ!!」


 アザリヤさんが叫んだのとほぼ同時に、アガンテスさんが空を切った場所の景色が歪み始めた。そしてその歪みは段々と範囲を膨張させ、ついには後ろの景色までも吸い込んでしまいそうなブラックホールのようなものへと変化していった。


 その瞬間ぼくは微かに引力を感じた。それは次第に強くなっていき、やがて周りの地面に生えた雑草が飛ばされ、サイズの小さな木々はガサガサと音を立てて揺れ始めた。

 それらに呆気にとられていると、早くも前列に並んでいた兵士一人が大きな声をあげて真っ黒な渦へと吸い込まれていった。この先何があるのか事前に知っていたとしても、体が宙を舞うというものは反射的に恐怖心を抱く。ぼく自身、その恐怖心に耐えられるか不安だ。


「はは……想像していたよりも段違いに強力ですね……」


「おお!? なんだヒロ。もしかしてビビってんのか?」


 こんな状況下でもちゃっかりと茶化してくるルヴィーさんは流石と言ったところだ。


「う……反論したいところですけど、今はルヴィーさんが合ってます。…………ええ、ビビってますよ!」


「認めやがった!! やっぱヒロっておもしれー!!」


 亀裂への引力はさらに威力を増し、みるみるうちに兵士達を吸い込んでいく。最前列にいたアガンテスさんやアザリヤさんはもう既にその姿を消していた。


「んじゃ、アタシも先に行ってくるわ」


 ルヴィーさんは手の平で合図して、自ら亀裂へとダッシュで飛び込んでいった。


 そしてほとんどの前列の兵士達は吸い込まれて向こう側へ移動し、いよいよぼくの番がやってきた。


「次は私達ですね。頭の方を亀裂側に向けて、地面と水平になるように飛べば上手く行きますよ。……ではお先に失礼します!」


 ルミナさんもニコッと笑って亀裂へと飛び込んでいった。ぼくもそれを追うように、地面を蹴って亀裂へ飛び込むように体を浮かせた。

 その際あの胸の中がフワッとなるような少し気持ち悪い感じがしたが、それはほんの一瞬だった。その後は風に当たる爽快感があって、ぼくの中にあった恐怖心は掻き消されていた。


「おおおおおおおおおおお!!」


 そしてぼくは、闇の渦の中へと飲み込まれた。



――――――――



「…………い! し……ろ……」


 なにやら声が聞こえる。体が揺さぶられ、頭がグラグラと揺れる。……寝ているのかぼくは……?


 ぼくは体は起こさずに、そのままの寝た状態でゆっくりと瞼を開いた。少しずつ、ある人物の姿が見えてくる。


「しっかりしろヒロ!」


 その一言にぼくは跳ね上がるように上半身を起こした。そして目の前にいた真っ白な白衣を着た男性はもう言うまでもなく、サイレンさんだった。いきなり起きられてびっくりしたのか、少しキョトンとした顔をしている。


「……えっと、ここは……?」


 周りを見渡すと、先程までいた大草原ではなく、妙に薄暗い、寒色系の色が映えた場所だった。後ろの方は土の壁で何も無く、前方には石やレンガでできたもう何十年も使われていないような小さな住宅がいくつかあった。窓には大きな蜘蛛の巣が張り付いており、一層廃墟感を際立てている。


「なんだ、寝ぼけているのか? ここが古の都市(ニブルヘイム)だよ」


「!! ……ここが、古の都市(ニブルヘイム)……」


 あのほんの一瞬のうちに、ここへワープしてきたという事か。それにしても、想像していた場所とは全くと言っていいほど違っている。

 ぼくは完全に体を起こして改めて見渡して見たが、なんというか、もう少し神殿っぽい場所をイメージしていたけど、実際はなんだか暗くて、寒さを感じさせるただの"街"だ。


「僕もここへ来るのは初めてだが、普段上の世界では見慣れない物があって興味深いね」


「見慣れない物……ですか」


 さすがは科学者。それらしい事を言う。


「例えばこの砂だ」


 サイレンさんはその場でかがむと、そこにあったサラサラとした砂を摘まみ取った。


「これはギャラクシーセレクターと呼ばれる砂で、微かだが淡い青い光を放ち、その場を照らすという不思議な砂だ。帰って研究したいから、採取しておこう」


 そう言って懐から小さめの試験管のようなものを取り出して砂をすくい入れた。


「……さて、そろそろ仲間探しといきますか」


「仲間探し……? …………あ!」


 言われて気づく。確かに周りにはぼくとサイレンさん以外誰もいない。ここへワープする際、何かトラブルでも発生したのだろうか。


「とりあえず他の奴らもこの世界にいる事は確かだし、色々な場所を虱潰しに歩き回るしかないな。少なくとも、この近くにはいないようだな。誰の気も感じられない」


「そうですね……。了解です。みんなを探しましょう」

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