52話 出陣
それからアザリヤさんは魔術兵、土地調査兵にもそれぞれ作戦を提案し、一通り古の都市での行動方法についてはまとまった。あとはルヴィーさんとサイレンが戻ってくるのを待ち、作戦を伝えて古の都市に向かうのみ。
「おー! すまんすまん。遅れちまった」
「遅いぞ二人共。出陣予定時刻をもう二十分もおしてるんだからな。何事も時間厳守だ」
受託室の階段前にいたガルートさんが二人に軽く説教をした。
「本当に申し訳ない。フィルマさんの治療に手こずっていまして……」
それに対してサイレンさんは礼儀正しく深々と頭を下げた。
「おお? そうだったのか。何も事情を知らなかったもんで、時間厳守だの何だの言ってしまった事はこちらからも非礼を詫びよう。何より大切なのは仲間だからな! はっはっは!!」
いやいやガルートさん。そこは笑う場面じゃないですって。
「ゴホン!」
するとアザリヤさんが全てを帳消しにするようにわざとらしく咳払いした。
「とりあえずこれで手配した兵士達は全員揃ったわね。じゃあ一刻も早く古の都市に乗り込んで亡霊を殲滅しましょう。…………出陣!!」
『おおおおおおおおおおおおお!!!!!!!』
アザリアさんの掛け声でこの場にいる全員の兵士達が気合いの入った大声を出した。突然の事でぼくだけ声を出してなかったのでなんだか気まずい。
――――――――
古の都市へ向かう最中の街中では、ぼく達に対する歓喜あふれる声援で賑わっていた。一人一人から熱いエールを感じられ、気分はまるで国民的有名人だ。
住民の言動からしてどうやらぼく達が古の都市へ悪者退治に進撃するということは既に広まっているらしい。こんな短時間でこれだけの規模に知れ渡っているということは、古の都市へ行くことが決定した瞬間に国全体に放送で流したりしたのだろう。
向こうでは足でまといにしかならないような気がするがぼくは住民達からのエールを心にしかと受け取り、気合いを入れた。と、その瞬間突然行進が止まった。
「……ん?」
ぼくは上半身を少し右側に傾け、正面の方を見るようにした。ぼくは列の中間よりも少し前列辺りにいるので正面で何が起こっているかのは見えやすい。
するとそこでぼくが目にしたのは一人の小学生くらいの丸坊主なガキンチョがぼくらの行く手を仁王立ちで立ちふさがっていた。
何なんだあの子供は……。ぼくが心の中でそう思っていると、当然のこどく周りの兵士達も同じ言葉を発しながらどよどよとしていた。
「またお前か! 出陣するたびに毎回毎回しつこいぞ!」
と、最前列よりもやや後ろの列にいた一人の兵士が怒鳴った。毎回、ということは前にも起こった事なのか……?
「いやだ!!!」
しかし子供はそれに対して大声で怒鳴り返した。あんな小さな体のどこからこんな馬鹿でかい声が出せるのかと不思議に思うくらいの声量だった。
そしてその子供は、この声量と同じ大きさで話を続けた。
「もう、これ以上国の外へ出るな!! どうせまた怪我人や死人をいっぱい連れて戻ってくるのは目に見えてるんだよ!!!!」
「それも毎回聞き飽きる程聞いてるぞ! 任務遂行のためには多少の犠牲は必要なんだ!! 俺達はいつもそれを覚悟して国の外へ任務に出ているんだ! ガキは引っ込んでろ!」
むむむ……。いきなりの修羅場か。それに、どちらも言っている事が正しくて異議がない……。
「ふざけんな!! オレの父ちゃんも、お前らが殺したも同然だ! ……それでもまだ国の外へ行くというのなら、オレが相手になってやる!!」
「よしなさいギル! もう国の方々には逆らわないって約束したわよね?」
すると、その子のお母さんと思わしき人物が、割って入って来て口論を遮った。
「離せよ母さん! こいつらの顔見てたら、イライラしていてもたってもいられないんだよ!! 早くかかってこいよ!」
そう言いながらも少年はお母さんに強引に連れられ、大通りの端っこへと退場していった。
「すみませんお母様。ギル君の言っている事には確かに同情できますが、私達はこのブルーレインの平和な日常を維持し続ける為に戦っているんです。……それでは」
最前列にいたアザリヤさんが優しい顔で言った。しかしそれでも少年はいきりたっているままで、今にも飛びかかりそうだった。
アザリヤさんがぼくらに向けて手を振って合図をすると、再び行進が始まった。
……どんどん街の風景が流れていく。これから戦に行くのだ。普段のぼくらの生活ではまず有り得ないものに……。だけど、ぼくは全力を尽くす。この世界の人々の為にも、地球の人々の為にも、そして、また笑って未来希に会う為にも!!
「門を開けろおおおおおお!!」
アガンテスさんの掛け声と共に目の前に塞がる巨大な門が、ナイラとカイラの力で開かれる。
門の向こう側にはこの世界へ初めて来た時に見た、美しい緑の大地と青く澄んだ大空が広がっていた。門を開けた事により空気の流れが変わって強風が起き、野草が舞い散る。そんな広い世界に、ぼくらは歩みを進めた。
少し歩くと、先程の少年がいる場所に着いた。このまま通り過ぎるのが普通なのだろうが、ぼくは列を抜け、反射的にその少年の元へと飛び出してしまった。
「ちょ、ちょっとヒロくん! 何してるんですか!?」
ルミナさんが小声で呼び止めるも、ぼくは足を止めなかった。そしてぼくは少年の目線の高さに合わせるようしゃがみこむと、些細な慰めとして口を開いた。
「な、なんだよお前」
「ギル君……だっけ? 君の言ってる事は、ぼくもすごく共感できるよ」
「へっ、現に兵士として出ていく奴がなにを言ってるんだよ」
「ぼくも初めは君と同じで今回国の外へ行く事には反対した。だけど、このまま悪いヤツらを放っておいたら、この国がもっと悲惨な事になるんだ」
「……そ、それがなんだって言うんだ……。そんな理屈で、オレの気が済むとでも?」
「……こんな情けなくて役立たずのぼくが言っても説得力は無いかと思うけど、これだけは約束する。今回の任務では……いや、これからも。ぼくが絶対に人を亡くしたりはしない」
「……!」
「あ、ヤベ。もう行かないと」
もっと言いたい事は山ほどあったが、もう兵士達が遠ざかっていってしまう。仕方なく、ぼくは元の列へ戻る事にした。
「兄ちゃん!」
ぼくが戻ろうかと走った時、少年が呼び止めた。立ち止まって振り返ると、少年は希望に満ち溢れたような笑顔で言った。
「絶対だぞ! 約束だぞ! もし破ったりしたら、オレが許さないからな!」
まさか、あれだけの言葉で少年の心に響いていたとは……。でも、これはこれで結果オーライだ。
ぼくは、その真っ直ぐな笑顔に対してこう告げた。
「……うん! 必ず!」
今年最後の更新です!
良いお年を~(*´ω`*)




