異世界召喚と裕達の諧謔曲 3話 クリスマス
白く綺麗な雪の降る景色を窓越しに眺めるのはぼくにとって昔ながらの至高の時間だ。そして今日は、言わずと知れた聖夜の日クリスマス。恐らく一年の中で一番街中にリア充が募る日でもある。……まあこの世界にクリスマスがあるかないかはさておき……。
今夜ぼくは特にすることもない。いわゆるクリボッチというやつだ。このままベッドに潜って明日を迎えるのも悪くはないが、なんだか物足りないよな……。
とは思ったもののやはりすることがないので大人しくベッドへ歩みを進めた。
すると、ぼくがベッドに手をつけるかつけないかのところで部屋中にノックの音が響いた。
「ん? 誰だろ」
「……ヒロくん。ルミナですが、少しお時間大丈夫でしょうか?」
「あ、ルミナさんでしたか! どうぞ入って下さい!」
「はい。では失礼します」
小さく透き通った声で言うと、ドアが開かれてルミナさんが姿を現した。服装はいつもと変わらず見慣れた格好だった。…………内心少しサンタ服なんてものを期待してたんだけどな。いやいや、ルミナさんがそんなコスプレをするなんて有り得ないでしょ。
ぼくはすぐさまサンタ服のルミナさんの妄想を頭から抹消した。
「そ、それで、ご要件はなんです?」
「実は、ヒロくんにわた……」
すると次はルミナさんの話を遮るようにノックが響き渡った。
「すみませんルミナさん。ちょっと出てきます」
「あ、はい……」
ぼくがそういうとルミナさんは少し寂しそうな顔をした。ぼく、何かした……?
よく分からない申し訳ない気持ちを抱きながらドアを開けると、すぐそこに赤髪の少女がどーんと威勢よく立っていた。
「ルヴィーさん……? 何か用ですか?」
「いやー、これから大広間でクリスマスパーティやるんだけどよ、予約してた二人に急に任務が入って参加出来なくなったからヒロを誘いにきたんだよ!」
「クリスマスパーティ?」
まさかこの世界にもクリスマスというものが存在していただなんて……。さすが地球と連結しているだけある。
「そういうことで、もう一人参加するヤツを誘ってほしいんだよ! 誰でもいいぞ」
「えぇ~っと……」
ぼくは自然に部屋の中にいるルミナさんに視線を移した。しかしぼくのこの行動はまたルミナさんに重みを感じさせるだけだった。
「おっ、ルミナいるじゃん! なあ、せっかくのクリスマスだぜ? 思いっきり楽しんだらどうだよ?」
「い、いえ。私さっきも断ったじゃないですか……。今日はそんな大勢の人とワイワイする気分では…………うーん……」
ルミナさんは顔を少し赤くし、俯いて強く瞼を閉じた。もしかして、本当は参加したいんじゃ……。
「わ……分かりました。ヒロくんが行くなら、私も行きます」
「よっしゃ決定! 服装とかはそのままでもいいから早く大広間へ急げ!」
そういうとルヴィーさんはぼくとルミナさんを部屋の外に押し出した。「そんなに押さないで」と少し抵抗してみるものの、ものすごい怪力で数ミリたりとも押し返せなかった。そして終いには廊下へと突き飛ばされてしまった。
「ほらほら早く! アタシ先に行ってるからねー! ウッヒョーー!!!! 久々に遊びまくるぜー!!!!!」
「あいたたたた……。ルヴィーさんなんだか今日いつも以上にテンション高いですね……」
ぼくは床に強打したお尻を手でさすりながら言った。
「そうですね……。ルヴィーさんは毎年クリスマスがくるといつもあんな感じになるんです。よほど普段のストレスを発散できる絶好の機会だと見受けてるんでしょうね……」
「なるほど。そういう事ですか」
ぼく達はさっさと倒れた身体を起こすと、やむを得ず大広間へと足を運ぶ事にした。
――――――――
大広間に着くと、本当に『パーティ』って感じですごく賑わっていた。世間話、頓智話、恋バナ、ぼくのまだよく分からない専門用語の飛び交う話などなど……。とにかくぼくの知っているクリスマスパーティの盛り上がり方ではない。
「おーい!! ルミナ! ヒロ! こっちだーー!」
突然ルヴィーさんの大声が脳天を駆け回った。反射的にそちらの方を振り向くと案の定ルヴィーさんが手を大きく振ってここに来てと合図を出していた。
「はあ、一体ルヴィーさんはどんな声帯を持っているんでしょうね……。こんなうるさい中的確に声が聞こえてくるだなんて」
後ろにいたルミナさんがボソッと呟いた。どうやらルミナさんもぼくと同じ事を考えていたようだ。
ぼく達はとても楽しそうに酒を飲んでいる兵士らを半ば強引に払い除けてルヴィーさんの元を目指して歩いていった。
「全く……ルヴィーさんはどうしてクリスマスになるといつもこう、落ち着きがなくなるんですか……」
「はー? こんな楽しい日に落ち着いていられるかっての! こっちからすればむしろノリに乗らないルミナの方が不思議なくらいだぜ」
「そうだぞルミナ。折角のクリスマスだ。パーッと盛り上がっていこうぜ」
隣で料理を食べていたガルートさんがいきなり会話に割って入ってくる。口いっぱいに食べ物を詰めていたので一言一言言う度に食べカスが飛んでいる。せめて全部飲み込んでから話してくれよ……。
「そう言われましても……。やっぱり私はそんな気になれないといいますか……」
確かにこの事についてはルミナさんの方に賛成だ。ぼくもクリスマスでははしゃぐような気分にはなれないタイプだ。
ぼく達の家庭は貧乏で、クリスマスツリーはおろかケーキを買うのも厳しく、普段と変わらぬ日常を送っていた。ただ、その聖夜の日はいつも隣に未来希がいてくれた。家では親が仕事で誰もおらず、寂しいからぼくのところに来ているのだと本人は言っていた。
……今思うとめちゃくちゃ嬉しいじゃないか。こういう些細なことの積み重ねでぼくは未来希へ惚れる道へ歩まされたのか……。
「もう! しつこいですよルヴィーさん! さてはもう酔ってますね!?」
「そんな訳あるかぁ~い! これしきの酒で酔うアタシではなぁ~~い!!」
いやいや、どう見ても泥酔してるじゃないですか。顔も真っ赤だし呂律も回ってない。
「もういいです! 私はいつも通り眠ってきます! ヒロくん、行きましょう」
「え、ちょっと……」
ルミナさんはぼくの手を取ってずかずかと歩いていった。
そしてそのままの勢いで大広間を出ると、ルミナさんはぼくの手を離して深くため息をついた。
「パーティは苦手なんですよね……私。ただでさえ人混みがあまり好きではないのに……」
「それはぼくも同じですよ。小さい時から独りでいるのが一番落ち着けていたので。実際、ここに来るまではそうでしたから」
「今は平気なんですか?」
「そうですね。ユニークな方々がたくさんいますし、理由は自分でもあまり分からないんですけど、なんだかコミュ障だということを忘れて思いっきり話せるんですよね。久しぶりでしたよ。こんなに人と話すのが楽しかったなんて」
「そうですか……。それを聞いて、少しホッとしました」
ルミナさんはニコッといつもの可愛らしいあどけない笑顔を見せた。
「それと、さっきの話の続きですが、今日はヒロくんに渡したいものがあって……」
そう言うと腰に下げていたポーチからリボンのついた赤い小さな袋を取り出した。
「これ、ヒロくんにプレゼントです」
「ええ!? あ、ありがとうございます!」
ぼくがプレゼントを受け取ると、「では、おやすみなさい」と言ってルミナさんは嬉しそうにスキップ気味で去っていった。
やがてルミナさんの姿が見えなくなると、ぼくは少しドキドキしながらリボンを解いて小さな袋を開けた。
……そのプレゼントを見て、嬉しさで涙が溢れてきた。
プレゼントの中身は皆さんの想像におまかせします!(*´ω`*)




