50話 天使のような笑顔
連載以来一番の遅れとなってしまいました。
すみませんm(_ _)m
静かな部屋の中で響くアザリヤさんの話し声。ルミナさんはそれを頷きながら真剣に聞いていた。
「まさか、古の都市が本当に存在していたとは驚きですね……単なる昔話とばかり……」
言っている通り、ルミナさんは驚きの表情を隠せずにいた。先程のぼくと同じだ。だが、ぼく自身は古の都市を完璧に信じている訳じゃない。口ではなんとでも言える。
すぐにでも向かう事になるとは思うが、実物を見るまでは半信半疑という事にしておこう。別に信じないという理由もないのだが、ぼくの性格上実物を見ないと気が済まないのだ。……正直、ぼくは行く事自体反対なんだけれども。
「と、そんな感じなので……」
アザリヤさんが続ける。
「私達が直接古の都市に進撃してその住民達をぶっ潰すというのはどうでしょう?」
「いや、どうしても何も、ぼくらはついさっき襲撃を受けているんですよ? それなのに、あんな恐ろしい奴らのたくさんいる場所へ自分達の方から向かっていくなんて……」
「そうしたらこの国で謎の殺人事件が絶えなく起こることになるわよ」
「う……確かに……」
アザリヤさんの意見はごもっともだ。ぼくらが古の都市へ行けば重症や死亡のリスクは否めないが、うまくいけば何事もなく全員無事に帰ってこれるかもしれない。しかし、それを放っておけば"必ず"国の大勢の人々が死ぬ。
……そうだとしたら、やはり選択肢はこの一つしかない。
「……前言撤回します。ぼくも古の都市へ行くことに賛成です」
ぼくがそう言うと、アザリヤさんは小さく頷き、次はルミナさんの方向へ視線を移した。
「そして、ルミナさんはどうですか?」
「もちろん、ラミレイ様の許可さえおりればいくらでも協力します。国の人々が無造作に殺されるくらいなら、断然マシだと思いますから」
どうやらルミナさんも、考えている事は一緒だったようだ。ぼくだけ違う思考をしているかと心配していたが、少しホッとした。
「ラミレイさんには初めてここに来た時から話をつけています。一言古の都市へ行くと言うだけで許可はおりるかと」
「なるほど……まさかこうなる事を見据えて事前に準備をしていたなんて……さすがですね」
「いえいえ、見据えていたなんてそんな。私はただ、『じきに古の都市からの襲撃が来る可能性がある』と言っただけです」
とは言っているものの、未来予知をしていた事は事実だ。古の都市に行くとなった時に戦略などを任せれば、ものすごい成果を得られる気がする。
「では最後に、古の都市へ向かう時間帯なのですが、午後四時に城の入口前にて集合お願いします」
「了解しました」
これにて古の都市についての長い話はお開きとなった。アザリヤさんはソファから立ち上がると、何も言わず先程の隣の部屋へと歩いていった。そしてドアノブに手をかけた途端「あっ」と声を出してこちらを振り返った。
「言い忘れてましたが、決して私達三人だけで行くわけではないので。集合時間までに私が有力な方々を手配しておきます。……ティーカップはそのままで構いませんので」
そう言い残すとアザリヤさんはドアを開けて隣の部屋へと消えていった。結局、あの体格についての事は聞けずじまいになってしまった。
「……では、私達も準備してきましょうか。今は二時半ですのでちょっと急ぎましょう」
「分かりました」
なんだかルミナさん、いつもと雰囲気が違う。初めてアレガミと戦っていた時もそうだったが、戦いに関してはすごい冷静になる、護衛兵としての鏡だ。
しかしそれに対してぼくはこんな状況になるとパニックになって最善判断が出来なくなってしまう。その結果、さっきの受託室の件でもルミナさんに怪我を負わせる結果になってしまった。
「えっとその、ルミナさん。さっきの件なんですが、すみま……」
ぼくが言おうとすると、それを遮るようにルミナさんは言った。
「さっき、謝りグセを直してと言ったばかりですよ。それにあの作戦、私は悪くないと思いますよ」
「え……?」
「あの時に私が考えていた事は、逃げるという事だけでした。なのでヒロくんから作戦を聞いた時、思いもしてなかった事だったので正直びっくりしましたよ。…………やはりヒロくんは、護衛兵に向いてると思いますよ!」
「はは……冗談はやめて下さいよー」
まさか護衛兵の隊長からこんな言葉をもらえるとは。どうせ御世辞だろうと思って否定してみたが、内心少し嬉しいかも。
「では、行きましょう」
ぼくはそのルミナさんの指示に従い、アザリヤさんの部屋を後にした。
「ヒロくんも古の都市へ向かうにあたって、色々と準備をしておく必要があります。まだ戦場に慣れていないヒロくんに、私が予め必要最低限と思われる物を用意してあるので、他に用事がなれけば一緒に私の部屋まで来ていただけませんか?」
「はい。全然構いませんよ」
ぼくが言うとルミナさんはやや嬉しそうに微笑んだ。
ルミナさんの笑顔は、見ているこっちが癒される。まるで天使のような偽りのない可愛らしい微笑み。そんなあどけない笑顔に、ぼくは魅了されていた。
「ちょっ、ヒロくん。どうしたんですか? 私の顔をジーッと見つめて」
「あ、何でもないです! 少しボーッとしてただけで……」
「ふーん……本当ですか?」
「本当ですよ! ルミナさんの笑顔が可愛らしくて見惚れてたなんてそんな事…………あ」
「え」
くそおおおおおおおお!! 何を言ってるんだぼくは!? 今まででこれと同じ事で何度恥をかいているんだ!! ……いい加減学習しないといけないのに……。
「な、なななな何言ってるんですかヒロくん! いくら御世辞とはいえそんな……!」
意外な事にルミナさんは赤面して焦って両手で顔を隠した。
「そそ、そんなことより、早く戦闘準備をしてきましょう!! 時間もおしてますし!」
ルミナさんはそう言って向こう側へ走っていってしまった。
「ちょ、ルミナさん! 待って下さいよ~!!」




