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異世界召喚と歌姫の小夜曲  作者: めもたー
4章 異世界滞在 4日目
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49話 部屋騒動

「二……古の都市(ニブルヘイム)……?」


 珍しい単語だ。確か北欧神話に登場する下層都市の事だった気がする。しかし、何故こことは別世界である地球での神話がこの世界に存在している? 偶然だとしてもここまで共通性のあるのでとても信じ難い。前に食堂で食したうどんだってそうだ。日本のきつねうどんの文化を知っているとしか思えない。


 だが、そう思える根拠もない。本当にただの偶然かもしれないし、実際どう地球の情報を得ているのかも分からない……。さすがにこれは混乱してくる。


「そう。この世界の下層部に密かに存在している都市よ。数百年ほど前には今のブルーレインのように古の都市(ニブルヘイム)は人で賑わっていたの。けれどある日、あまりにも身勝手で傲慢な王国の貴族に怒りをもった住民達が反乱を起こして古の都市(ニブルヘイム)は滅びてしまったわ」


「なるほど。……だけど、その古の都市(ニブルヘイム)とさっきの見えない敵とは一体どんは関連性が……?」


「ここまで話したらもう分かったと思ったんだけれども……まあ、簡潔に言えばその見えない敵が古の都市(ニブルヘイム)に住んでいた住民達なのよ」


「え!?」


 その驚いた声が部屋中に響き渡った。それだけぼくの感じたショックが大きかったのだ。


「と言っても、そんな何百年も前の人が今まで生きている訳もないです。あれは古の都市(ニブルヘイム)の貴族への怨恨が消えないまま亡くなっていった亡霊。今や恨みはおろか、それを飛び越えて殺戮の感情しかないわ。そろそろだとは思ってはいたけれど、ついにこの国まで侵略しにきたんだわ」


「殺戮の感情を持った、亡霊……」


 それからしばらくの沈黙が続いた。アザリヤさんは時々ハーブティーをすすりながら、赤く透き通った瞳でただぼくを見つめているだけだった。


 ぼくもとりあえずハーブティーを啜り、見つめ返していたが、ついに重たい空気に気まずくなって思わず口を開いた。


「……それで、それを止める方法は何かないんですか?」


「やっと聞いてくれたわね。それはもちろん、古の都市(ニブルヘイム)に乗り込むしかないわ」


「乗り込む……!? 古の都市(ニブルヘイム)に……? この世界の下層にあるというのに、そこに行く手段なんてあるんですか?」


「実際に、向こうからここまで這い上がってきているのだから、さっき受託室に現れた見えない敵の残していった魔力を辿ればこちら側からも乗り込むのは簡単よ」


「それで……」


 ぼくがもっと疑問に思っている事を質問しようかと再び口を開いた瞬間、それはドアをノックする音に遮られた。


「あ、ごめんなさい。誰か来たみたいね」


 そう言うとアザリヤさんは静かに席を立ち、部屋の入り口のドアへと歩いていった。そして一度覗き穴から外を確認すると、あっ、というような顔をしてなんの躊躇ためらいもなくドアを開いた。


「~~……」


 話し声が聞こえるが、何を話しているのかまでは遠くて聞き取れない。さらにドアへ続く廊下は幅が細いのでここからはちょうど死角になっており、ドアの奥は見えない。


 あんなに楽しそうに話しているアザリヤさんを見て、話し相手が誰なのか知りたくてウズウズしてきた。ぼくは耐えきれず、身体をソファの腕置きに寄りかかるようにして少し右へずらした。


「いえいえ、お気になさらず。怪我をしている方をみていると放っておけないだけだったので……」


「そうですか……でも、それだと私の気がおさまらないのでお礼だけでも……」


「本当にお礼なんて大丈夫ですよ! それよりも、せっかくここまで来て下さっているのでどうぞ上がって下さい」


「そ……そうですね。何から何までありがとうございます」


 すると、アザリヤさんはこちらを振り向く素振りを見せた。ぼくは咄嗟とっさに身体を元の位置へと戻した。まさか、盗み聞きをしているなんてバレたらマナーの悪い人だと印象づけられてしまう可能性がある。ここで信頼を崩してしまうと後から何かを疑われやすいようになってしまってはまずい。ぼくは自分の行いを反省した。何事も自分に置き換えて相手の気持ちを思う事が大切だ。昔から自分にとって嫌な事は相手にはするなと言うし。


「ヒロさん。ルミナさんがいらっしゃいました。席を譲ってあげて下さい」


「ええ!? そんな、いいですよ! 私は立っていて大丈夫ですので……!」


「いいえ、駄目です。ここは私の部屋。権限は私にあります」


「そういう問題じゃないと思うんですけど……」


「あ、全然構いませんよ。どうぞルミナさん座って下さい」


 ルミナさんは手を怪我をしている。しかも、そうなってしまったのもぼくがあんな無茶な作戦を切り出したからだ。その上、いつもお世話になっている事も踏まえてこちらからも気遣わないといけない。


「あうぅ……分かりました。今はお言葉に甘えさせて頂きます……」


 ルミナさんは反論しながらも、渋々ぼくの座っていたソファに腰掛けた。アザリヤさんもそれを見て再び座った。


「わあ、いい香りのハーブティーですね! ちょっと一口頂きます!」


「……え、あ、ちょっとそれは……」


 ルミナさんはぼくが止める間もなくティーカップを持ち、ハーブティーを口に含んだ。


「……あ! これはケハブの葉のハーブティーですね! どうりで味わい深い訳ですね! ……って、二人ともどうされました?」


「えっと……それ、ぼくのハーブティーなんですけど……」


 ルミナさんは、一瞬訳が分からないといった顔をしていたが、すぐにぼくの言いたい事に気づいたようだった。


「…………ああ! すす、すみません! まだ少し煙も出てて淹れたてだと勘違いしてて……!」


「いえいえ大丈夫です! むしろこっちは嬉しいというか…………あ」


 つい本音が漏れてしまった。ぼくは反射的に口を閉じる。しかしルミナさんは焦っていたのかそれに気づいていなくて助かった。もし、今のが聞かれていたら恥ずかしさで死んでしまうところだった。


 だが、ホッとしているのもつかの間、アザリヤが口を開いた。


「あの、お取り込み中失礼しますが、ルミナさんにも色々話したい事があるので私の話をしてもよろしいでしょうか?」


 その一言で、全てが無に還った。

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