異世界召喚と裕達の諧謔曲 2話 SB
SBはサマーバケーションの略ですw
「はぁ~……めちゃくちゃ暑いなー。嫌になってくるよ」
頬に垂れてくる汗を手で拭いながらそう呟く。
「あれ? ひーくん夏好きじゃなかったっけ?」
「いやあ、いくら好きって言っても限度があるだろ。今年は特に暑くて気分がだるくなるよ……」
今ぼくと未来希はせっかく夏休みに入ったので少し遠くの海へ泳ぎに来ている。本当はもっと大勢でワイワイしてみたいという気持ちはあったけど、ぼくの友達の少なさは一般の学生の群を抜いて少ないのでその夢は儚く散った。
「まあでも、この海に入ればこんな暑さなんてぶっ飛ぶよ」
「そうだね! そうと決まれば早く着替えてこーよ! 着替えが終わったらまたここで待ち合わせね!」
「お、おう」
そう言って未来希はそそくさと向こうに見える女子更衣室へ走っていった。……未来希の水着姿なんて、二年ぶりに見るな。去年はぼくが階段から落ちて足を骨折していたから海にすら行けなかったんだよな……。
さて、ぼくも着替えてくるか。
――――――――十分後――――――――
「……よし。準備は万端だ。いざ、水着姿の未来希とご対面!」
誰にも聞かれないような小声で言うとぼくは更衣室から出ようとした。しかし、途端に後ろから声をかけられた。
「兄ちゃん、ゴーグル落としてったぞ!」
「ん?」
振り返るとそこには紛れもないガルートさんの姿があった。
「……え、ええええええええええええ!? ガルートさん!? ここ地球ですよ!!? 何でいるんですか!!」
「あれ、ヒロじゃねぇか。奇遇だな、こんな所で会うなんて。プールで会うのは二回目だな」
今はそういう問題ではない。異世界にいるはずのガルートさんがどうしてここにいるのか。(ぼくが地球にいるのもおかしい事だけど)第一、せっかくの未来希との海水浴を邪魔されてはたまったもんじゃない。
「は、はは……そうですね。ゴーグルありがとうございます。ではぼくはこれで」
ぼくはガルートさんからゴーグルを奪うような感じで受け取り、迅速に更衣室から退室した。
「……前にもこんな事があったような…………本当に、どういているんだろ」
気を落として下を見て歩く。ガルートさんにぼくが女の子と遊んでいるところなんて見られたらからかわれるに違いない。……どうするべきか。
「もー、ひーくん遅い!」
「!?」
一面砂浜の視界に色白い綺麗な素足が現れた。それを見た瞬間、心臓の鼓動が速くなった。
ゆっくりと視線を上げると目の前にはいつもの可愛いさをことごとく通り越したビキニ姿の幼なじみが頬をまんじゅうのように膨らませて立っていた。
(……っ!? ま、眩しい! この天使の姿は、明らかに次元を超越している!!)
さすがは学校一の美女と言われただけある。そんな彼女と付き合えたのは未だに不明だが、今ぼくは至高の頂点に立っている。これ程以上の快楽があるだろうか。
「…………えっち」
「は?」
「今、胸見てたでしょ?」
「ええ!? いやいや、そんな滅相もない!!!!」
正直言うとチラチラ見てました。目のやり場に困るというのはこういう事を言うのか。
「ふーん……なら早く泳ぎましょ!」
未来希は蔑むような顔を一変させて、笑顔になってぼくの手を握り、海の方向へと駆けた。
「え、ちょっ……そんなに引っ張ったら転ぶ、転ぶって!!!」
「相変わらず男なのにだらしないな~。そんなへっぽこじゃあ何も出来ないわよ?」
「むぐぐ……」
ぼくを引く力はさらに力を増す。もうぼくはほぼ未来希に引っ張られるような形になっていた。
いよいよ砂浜へ突入。長時間太陽に触れていた砂を踏むとものすごく熱い。一瞬足を着けるだけでも熱いのに、周りの人々は堂々と砂浜の上で大の字になって焼いたりしている。当然未来希も平然と砂の上を走っている。
「さあ、飛び込むわよ!」
「ええ!? ちょっ……ゴーグルくらい着け……!」
突然の事でゴーグルどころか息を止める準備すら出来ていなかったぼくは海に飛び込むと鼻や口にガボガボと海水が入ってきた。
「ぶはっ!? ゴホゴホッ……鼻痛ってー!」
「おい! 顔に水かかったじゃねーか! 気をつけろよ」
海水をダイレクトで受けた目をゴシゴシとこすってなんとか目を開けると未来希が赤髪の少女に怒鳴られていた。
「あ……すみません」
「……あっ! ルヴィーさん!?」
「は!? なんでヒロがここんにいんだよ!?」
「え、ひーくん、知り合い?」
本当にどうなっているんだ? ガルートさんといい、ルヴィーさんといい、どうしてここにいるんだ?
「……はっはーん。さては浮気ね」
「でぇ!? な、何言ってんだよ! ぼくは一生未来希一筋……」
「言い訳なんて見苦しいわよ。今までここまで傷ついたことなんて無かったわ……」
そう言うと未来希はザバザバと砂浜へ上がっていった。
「じゃあね。ひーくん」
「え、ちょっと待ってよ! 未来希おおおおー!!!」
――――――――
ガバッ
「待てって! …………って、あれ?」
当然の如く夢オチである。未来希がぼくが女性と話しているだけで別れていくだなんて未来希の性格からしてさすがに有り得ない。多分今回は人生で一番最悪な目覚めだ。
「……ったく、ホントに最悪だよ……。実際ここ数ヶ月未来希からデートに誘われてなくて幸せな気持ちだったのに……」
起きたところでする事もないので寝直そうかと思った途端、家のチャイムが鳴り響いた。
「ん、誰?」
普段滅多にならないチャイムが鳴ったので怪しげに玄関に近づく。お母さんも用事で出てて不在のため、放ってはおけない。
恐る恐る玄関の扉を開ける。
「……は、はい? どちらさ……」
「ひーくん! 突然で悪いんだけど今日空いてるかな?」
「なんだ未来希か。珍しいな。一応空いてるけど、それがどうかしたの?」
「夏休みだし、一緒に海でも行かない?」
「…………へ? 海?」
さっきの夢を思い出した。もしや、正夢……? などと変な思考が頭をよぎったが、断る訳にもいかないのでもちろんオッケーした。
そしてその後、ガルートさんらも当然いる訳もなく、有意義な時間を過ごせた。
SSなので本編とは全く関係ないです!
()はSSでしか使用しないと思います!




